第697話 生産地
回復薬をどう使うかはノーマンさんに任せ、コラウスの商人たちを紹介する。
連れてきた商人は、コラウスでも有名な商会の者だが、ミヤマランでは完全に無名だ。誰か後ろ盾になってくれなければ露店くらいしか開けないだろうって話だ。
まあ、オレは商売のことはわからない。今回はコラウスの商人にお願いされてノーマンさんと顔合わせの場を作ったにしかすきないので、どう商売をするかはお任せだ。
とは言ってもコラウスとの流通がよくなればアシッカにも利益を持たされる。是非ともいい商売ができるよう協力させてもらいまっせ~。
今日は時間もないので自己紹介だけして、一旦、広場に戻った。
広場はオレたちしかいないので、明日からがんばろうと、バーベキューをすることにした。
肉はラダリオンが狩った鹿だ。なんでも鹿の群れがいたので全滅させたそうだ。
「……いや、全滅って……」
「マービルとロクスが街の皆にも食べさせたいってがんばった」
巨人の二人にはショットガン──レミントンM870を持たせている。そのせいで鹿が蜂の巣なわけか……。
「まあ、一匹もらっていくわ」
ミサロが解体してくれた鹿を持っていき、皆で美味しくいただき、その日はゆっくり眠りについた。もちろん、見張りは立てて休みましたよ。
「うーん。いい朝だ」
旅をしているってのに、心が休まるってなんだろうな? 身も心も爽快だよ。
昨日は結構食ったので朝飯はあっさりした野菜スープと焚き火で焼いたパンで済ませる。
デッキチェアに座り、優雅にコーヒーを飲んでいると、領都から箱馬車や荷馬車が十台くらいやってきた。
「タカトさん、おはようございます」
やってきたのはノーマンさんと知り合いの商人だった。
「コラウスの品がどんなものか興味のある者に声をかけました」
「ミヤマランにはコラウスの品が流れてこないんですか?」
「ええ。距離が距離ですからね、ないと言ったほうがいいでしょう」
距離的に二百キロは離れてないのに、山脈があることで往来ができないでいる。それをやっているのが奴隷行商団と言うわけだ。
……わざと街道整備してないのかと勘ぐってしまうよな。仮にそうだったらオレは邪魔者として命を狙われそうだ……。
銃による狙撃でもないのならやりようはある。なんたって護衛にアルズライズがいるんだからな、ゴロツキていどなら瞬殺だろうよ。
……おっと。他人任せとか言わないように。オレだってチンピラくらいには勝てるもんね……!
ロウルさんに任せ、運んできた品を並べてもらった。
オレもなにを持ってきたか興味があるのでノーマンさんと一緒に見せてもらった。
「コラウスは辺境故に珍しい動植物がありますからね、望む者は結構いますよ」
よくわからない植物やら魔物革、骨なんかが並べてあったので、売り物になるかをノーマンさんに尋ねたらそんなことが返ってきた。
「魔物の骨は陶器を焼くときに使ったりします。袋一つで金貨に化けた話もあるくらいです」
へー。骨すら金になるんだ。なにが必要とされるかよくわからんもんだ。
「特に魔石は需要があります。この国ではコラウスが一番の生産地とされていますからね」
生産地、というのも変だが、コラウスを知らない者からしたらそのていどの認識なんだろうよ。
「魔石は常に不足している状態なので?」
「ええ。魔力の少ない者でも魔石があれば上級者並みの力を発揮できます。地方の有力者だけではなく王国、教会と多くのところで望んでおりますよ」
「……悪い方向に流れていますね……」
魔石エネルギーを利用したのがエレルダスさんたち古代エルフであり、その技術が人間に受け継がれている。このままでは古代エルフと同じ未来を辿るだろうよ。
まあ、だからって代替するエネルギーがあるかと言ったらわからないとしか言いようがない。この世界に石油とか天然ガスがあるかもわからんのだからよ。
ってまあ、そんなことオレが心配することじゃないな。オレは老衰で死ぬまでのことを考えればいい。未来を決めるのはこの世界で生きる者の役目だ。
「とは言え、魔石が売れてしまう以上、誰にも止められない。なら、売るしかないですね」
使うのにいい感じの魔石を入れた段ボール箱を取り寄せた。
「買ってもらえますか?」
「もちろんです。高く買い取らせていただきます」
「では、よろしくお願いします」
と、段ボール箱をノーマンさんに渡した。
「代金はしばらくお待ちください。ものがものだけにすぐには用意ができないので」
「ゆっくりで構いませんが、買いたいものがあるので金貨三十枚くらい先にもらえませんかね?」
もう活動資金がないんだよね。ここでしっかり稼いでおくとしよう。と言ってもすぐ消える未来しか見えないけどよ。
「わかりました。すぐに用意致しましょう」
「ありがとうございます」
代金をもらったら早速買い物を始めるとしようか。今、コラウスは服と靴が不足しているからな。
コラウスの品もよく売れているようで、昼前には完売しそうな勢いであった。
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