第15章 下

第695話 エントラント山脈越え

 ロンガルのことはミリエルに任せ、オレはミヤマラン公爵領に向かう準備をする。


 連れてきた商会の中にミヤマラン公爵領にいきたい者がいるので、その準備のための用意で三日もかかってしまった。


 まあ、エントラント山脈の道は細いので、馬車も一回り小さなものを用意しなくちゃならない。用意できない商会は馬に荷物をつけていくようだ。


 朝、まだ陽が昇らないうちに出発。宿場を作るために巨人を二人連れていく。


 ミラジナ男爵領までは道もよく、高低差もそうないので九時前には到着。迎えてくれたミラジナ男爵に挨拶をする。


「お久しぶりです。暮らしはどうですか?」


「守備兵が魔物を狩ってくれるので平和な日々を暮らしていますよ」


「それはなにより。これから隊商の往来が増えるでしょうし、ここが山脈を越えるための出発地点と最終地点になるでしょう。その準備をしておくことをお勧めします。不安なら商人を迎えるといいですよ」


 ミラジナからアシッカまで二時間もかからないが、やっとこさ山脈を越えてさらに歩くのは辛いだろう。なら、一晩ここで休んでゆっくり向かえばいいはずだ。


「なるほど。考えてみます」


「ええ。今、アシッカには商人がたくさん集まっています。伯爵と相談して決めるといいですよ」


 商人の名簿を渡してあるし、伯爵を通すことで伯爵の権威が上がる。よりアシッカ伯爵領が纏まるだろうよ。


「休まず山に登るので?」


「ええ。今回は巨人が三人もいますからね、少々遅くなっても山脈は越えられるでしょう」


 ラダリオンも巨人のまま歩いてもらっています。


 まずはラダリオンを先頭に馬隊が続いてもらい、護衛の冒険者チーム。馬車隊、巨人二人、最後尾にオレとメビがついた。


 職員や請負員も連れていきたかったが、アシッカのことで精一杯。仕方がないので冒険者を雇うことにしたのだ。


 まあ、山脈を越えたところにはアルズライズがいる。あと、ミシニーも別ルートで向かっているそうだ。


「タカト。鹿の群れだよ」


 振り向いたときにはメビが撃っており、三匹を仕留めていた。


「今日の夕飯にするか」


 巨人の一人に回収してもらい、歩きながら血抜きをしてもらった。


 そんなちょっとしたイベントはあったものの、魔物が現れることもなく、ゴブリンの気配もない。天気もいいので進みもいい。暗くなる前にロンダリオさんたちがキャンプ地として使っていた場所に到着できた。


「結構拓けてんな」


 小屋もなぜか五軒もできていた。もうちょっとした村じゃん! すぐに暮らしていけんじゃないか?


「タカト」


 と、なんだか山男になったアルズライズが現れた。


「すっかり山に馴染んでいるな」


「ふふ。そうだな。悪くない生活だったよ」


「まだ隠居はしないでくれよ。海まで付き合ってもらいたいんだから」


 引退したいなら無理には誘わんがよ。


「まだまだ隠居するつもりはないさ。するんなら海の側で暮らしたいよ」


 それはよかった。もう過去は吹っ切れたようだ。


「魔物は出ているか? ここで野営しようと思うんだが」


「もうしばらく魔物もゴブリンも見てないな。お陰で草食獣が増えているよ」


「あんまり増えると山が禿げてしまいそうだな」


「心配ない。街道の往来が多くなれば冒険者もやってくるさ」


 なるほど。肉を狩れれば冒険者もくるか。ここも整備したほうがいいかもしれんな。


「あ、その冒険者にここを守ってもらうんで、アルズライズはミヤマランに向かってくれるか?」


「ああ、構わんよ。じゃあ、その冒険者にここのことを教えるか」


 鉄札の冒険者チームをアルズライズに紹介し、オレは巨人や隊商たちの世話をする。


 薪はアルズライズたちがたくさん用意してくれていたので、火の心配はないが、やはり水を用意するのが大変だった。


 一応、小川があるので馬が飲む水は困らないが、人間や巨人が飲むには一度煮沸しないとダメかもしれんな。


「まだ水があるだけマシですね。飲めない地域もあるので」


 そう言ったのはロウルさんだ。


 ミジア男爵との交渉をしてくれた人で、暖簾分け的な感じで独立したそうだ。家族も一緒に連れてきたとも言ってたっけ。


「往来が増えれば水を運んでこれるでしょう。アシッカからでもミヤマランからでも一日の距離です。道もよくなれば気にもならなくなるでしょう」


「やはり一日で着ける距離は大きいですか」


「ええ。途中で野営はかなりキツいものがあります。このような場所があることは隊商にとって本当に助かります」


「アシッカで管理するかミヤマランで管理するかで変わってきますね」


 エントラント山脈がどちらの領地かは決まっていないとのこと。その辺も伯爵と公爵の間で話し合ってもらいたいものだ。


 野営する準備はすぐに終わり、確実用意したもので夕飯を作り、早々に眠りについた。もちろん、夜は冒険者に見張りを任せ、オレは小屋がどんなものか興味があったのでそこで眠らせてもらった。うん。やっぱマットレスで寝るのが一番だな……。


 よく眠れないまま朝を迎え、ホームに入って熱いシャワーを浴びて目を覚ました。


 用意して外に出ると、隊商はもう準備を整えていた。


「では、出発しましょうか」


 ミヤマラン側は道もよくなっている。難なく麓まで降りられるだろうよ。

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