第690話 搬入搬出

「……嵐の前の静けさ、と言ったところだな……」


 お互いの状況を話し合い、ゴブリンのことを尋ねたらかなり減っているとのこと。やってきた請負員も同じことを口にしていたそうだ。


「まあ、嵐はやってくるとわかっているんですから備えるだけです」


 タカトさんは、くると判断して動き、もう用意は整っていると言っても過言ではないわ。あとは、そのタイミングを逃さないようにするだけだ。


「そうだな。タカトが帰ってくる場所を守らんとな」


 わたしとタカトさんとの出会いが運命なら、カインゼルさんもまたタカトさんとの出会いは運命でしょう。


 もう仕込まれていたんじゃないかってくらい劇的だ。まるでタカトさんを支えるために用意されていたかのよう。でも、カインゼルさんとしてはそれが嬉しくて仕方がないみたい。まあ、今はこの世にない乗り物を操れるのが嬉しいって感じだけど。


「あ、ここにも発電機を設置しますね。稼働していればルンの充填もできますし、マンダリンにも充填できます。マナックもたくさん手に入れたのでマンダリン隊も組織しててください」


 マンダリンはマナックを入れなくても発電機が近くにあれば魔力を供給してくれるそうよ。まあ、三キロくらい離れるとダメらしいけど、周りを飛ぶくらいなら問題ないんじゃないかしら?


「了解した」


 まだお昼まで時間があるのでホームから発電機と予備のマンダリンを二台出した。乗りこなせるようになったら館に取りにきてもらいましょう。


 カインゼルさんは好きなことには頭の回転が速い人。車もマンダリンもすぐに覚えちゃう。プランデットは苦戦したみたいだけど、ブラックリンを乗りたさにわたしと同じくらい扱えるようになっていたわ。


「アシッカにいったらブラックリンを入れておきます」


 ブラックリンを操縦できるのは今のところわたしとタカトさんだけ。なので、ホームには予備を混ぜて三台しか置いてないのよ。ちなみに予備はタカトさん仕様になっているので渡せないんです。


「ああ、頼むよ」


 ってことで、プレシブスがある場所に向かった。


「綺麗なところですね」


 写真では見たけど、自分の目で見るとその綺麗さがよくわかるわ。


「随分とギチギチに置きましたね」


 滝の近くまで置いてある。あそこのプレシブス、びしょびしょじゃない?


「エルフの遺跡まで取りにいくのが大変だそうだ」


 まあ、タカトさんも往復するの疲れたって言ってたっけ。


 プレシブスの操縦は簡単で、プランデットでシミュレーションしただけで覚えられた。とは言え、手足のように動かそうと思ったら訓練は必要だけど、普通に動かすくらいなら全然問題ないわ。


 プレシブスに乗り込み、これは装備と思ってホームに入った。


 ガクンと傾くけど、ホームに入ってしまえばこちらのもの。フォークリフトで台車をかまして奥に引っ張っていく。


 もう一台入るスペースができたら外に。ちゃんとカインゼルさんがプレシブスを動かしてくれたから滝壺に落ちることはありません。


 すぐに入れてまたフォークリフトで台車をかました。


「やっぱり三艘は無理か」


 もっとゴブリン駆除して広くしないとね。天井クレーンも大きくしたいわ。


 また外に出ると、プレシブスが動かしてあり、カインゼルさんが乗っていた。


 ……ホームの広さをわかっているみたいね……。


「カインゼルさん。あとはお願いしますね」


「ああ。タカトに無茶させるなよ」


「メビをつかせてますから大丈夫……と言えないのがタカトさんですね」


 女神の呪いかそんな運命を背負ったのか、もっと誰かをつけていたいけど、あまりタカトさんを縛るとストレスになる。そのほうが危険だ。タカトさんは用心深いが、臨機応変にも優れている。誰か一人つけておくほうが無茶はしないでしょう。


「そうだな。まあ、海に向かうのはまだ先だ。それまでマイセンズのことは片付けておくんだな」


「はい。そうします」


 人間相手ならタカトさんは負けたりしない。いいように誑かして自分の味方にするでしょう。それに、アルズライズさんやミシニーさんがアシッカにいる。あの三人なら都市一つ、簡単に滅ぼすでしょうよ。


「では──」


 と、ホームに入ると、タイミングよくライガが入っててくれた。


「ライガ、ダストシュートしてちょうだい」


「わかった。地下湖の反対側にいるから気をつけて」


 あら、湖を渡ったの? まあ、ブレット通路を知っておくのもいいかもね。


 ライガにダストシュートしてもらうと、ここも見違えるほど改造されていた。エルフの土魔法、どんだけよ?


 ちょっとした港となっており、発電機のお陰で地下湖が照らされていた。


「……自然って凄いものね……」


 神がいる世界で神秘的と言うのも変だけど、この思いを言葉にするなら神秘的が一番しっくりくるわ。


 なんて見惚れている場合じゃないわね。プレシブスを出さないと。


 桟橋を走り、地下湖に向かって飛び出しながらホームに入った。


 フォークリフトで玄関まで運び、プレシブスに乗って外に出る。


 ドスンと湖面に叩きつけられたけど、プレシブスが桟橋に当たることはなかった。


「ライガ、乗って。向こう岸に向かうわ」


 ここにはエルフがいないみたいなので、ライガを乗せて向こう岸に向かった。

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