第689話 ミーティング(団欒)

 夜遅くまでいろんな話を聞かせてもらった。


 まあ、百年もの歴史をすべてを一晩で聞くことは無理だったけど、コラウスの生き字引と出会えたことは本当によかったと思う。また聞かせて欲しいものだわ。


「ありがとうございました。また時間ができたらお邪魔させていただきます」


 わたしにはやらなくちゃならないことが多々ある。まずはプレシブスを取りにいかないとね。


「ええ。またきてくださいね」


「はい。では」


 玄関でライザ様と別れ、ミズホさんにミランル村まで案内してもらう。


「本当にすみません。自分では到達する自信がなくて」


 自分の方向感覚が鈍いことは伝えて謝ったけど、支部長に道案内させるとか申し訳なさすぎるわ。


「いいのよ。わたしもカインゼルの様子を見にいきたかったからね」


 タカトさんからミズホさんとカインゼルさんは昔馴染みとは聞いていたけど、それ以上のことは聞いていない。小娘にはわからないいろいろがあるんでしょうね。


 ミランル村までアシッカの状況やドワーフのことをミズホさんに語って教えた。


「随分と人が増えたものだね」


 確かに村にしては人の往来があり、村人のような粗末な格好ではない。街からやってくる人かしら?


「ミリエル様!」


 と、スコーピオンを背負った少年少女たちに声をかけられた。


「あなたたちもきていたの?」


 ロンダリオチームの弟子みたいな人たちで、あちらこちらコラウスを回っているチームでもあるのだ。


「はい。最近、ゴブリンを見ないのであちらこちら回ってます」


 やはりゴブリンの数が減っているね。


「そう。ゴブリンがいないのなら館で訓練するのもいいわよ。夏には大量のゴブリンが集まるかもしれないからね」


 タカトさんは、いや、セフティーブレットとしてはミジャーが襲来すると判断して動いている。


 そのためにも別の駆除員を残し、カインゼルさんにセフティーブレットの権限を渡してある。わたしはいつでも動けるような立場に置いているわ。


「そっかー。ミリエル様がそう言うなら訓練に費やすのもいいかもな」


「そうしようぜ。もうあっちにこっちに歩くのも飽きたしよ。それなら、鍛えるために走り込みしたほうがいいぜ」


「今活躍できなくても未来に活躍すればいいのよ。この世からゴブリンがいなくなるまでセフティーブレットは存在するんだから」


 わたしがタカトさんを死なせない。なら、セフティーブレットを生かすために行動しなくちゃならないわ。


「わかりました。夏まで訓練します」


「ええ。その日のために鍛えなさい」


 去っていく五人を見送った。


「あなたも人を煽てるのが上手なのね」


 やはり人生経験豊富な方はわかっている。そんな人とやり合えるんだからタカトさんは強いと思うわ。


「わたしなんてまだまだですよ。タカトさんなら男女関係なく煽てますからね」


 少女二人はわたしをあまりよく思ってない目を見せていた。


 まあ、それは仕方がないと思う。少年たちがわたしに向ける好意は気に入らないでしょう。わたしだって他の女がタカトさんに好意を向けることにイラッてするんだからね。


 ……タカトさんを利用するだけの者は誰であろうと許さないわ……。


 なんて怒りを静め、見つけた水路を登っていくと、ブレット傭兵団の者と思われる人たちが剣の訓練をしていた。


「すっかりブレット傭兵団の本拠地になっているわね」


 本部と思わしき建物と宿舎、その家族が住んでそうな小屋がいくつもできていた。そんなに人がいたのね。


 さすがに全体を細かく把握することはできないので、あまりここのことは知らないのよね。カインゼルさんが仕切り、シエイラに報告が入るようにしているから。


 本部の建物に入ると、カインゼルさんが机に向かっていた。団長ともなると机仕事もしなくちゃならないのね。シエイラがいてくれて本当によかったわ。いなかったらわたしが任されていたでしょうよ。


「ミリエル。どうした?」


「プレシブスを取りにきました。マイセンズの地下湖に浮かべようと思いまして」


 とりあえず、マイセンズのことを説明した。


「そうか。わしもまたいきたいものだ……」


 カインゼルさんとしてもタカトさんの横にいて戦いたいでしょうね。タカトさんの一番の理解者で、一番タカトさんを支えたいと思っている人でしょうからね。


 補佐と言うならカインゼルさんが適任でしょうね。タカトさんとしてはカインゼルさんの下で働きたいと思っているでしょうけど。


「あなたはもうブレット傭兵団を任されているんだから諦めなさい」


「わかっとるよ」


 ミズホさんの注意に拗ねたように答えるカインゼルさん。仲の深さがよくわかるわね。


「何台持っていくつもりだ?」


「今のところ二艘です。もしかすると港にも置くかもしれません。通路を整備するかもしれませんので」


「ああ。途中までは水が通っていたしな。必要になるかもしれんな」


 わたしは映像でざっとしか見てないので詳しくはしらないのよね。入るときもルースカルガンの中にいたしね。


「プレシブスは午後からでいいのでここの状況を教えてください。タカトさんに伝えたいので」


 そう変わってないでしょうが、逐次報告だけは上げておきたいしね。ホームに皆が集まるときはミーティングと言う名の団欒のときだからね。

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