第688話 ジェネスク家ご訪問

 やはり年の功というのは凄いと思った。


 老人なんて頭が堅いとか融通が効かないものだと思っていたけど、ライザ様もミズホさんも柔軟な思考ができる人だった。


 ジェネスク家(マンダ家)が百年も残ったのもわかるし、ミズホさんが支部長をやっているのもわかるというものだわ。


「ミリエル様。もしよければ時間をいただけませんか? もう少しお話をさせてください」


「はい。わたしもライザ様のお話をもっと聞きたいです」


 これはチャンスだ。ジェネスク家(マンダ家)が百年も続いた知恵を知りたい。きっとタカトさんのためになるはずだわ。


「ありがとうございます。ミズホもどうかしら?」


「ええ。ご同席させていただきます」


 そう決まったので、ホームに入り、玄関のホワイトボードにかけてあるプランデットに伝言を残した。


 文字を読めるのがわたしとシエイラだけ。ライガも読めるようになってきてるけど、正確に伝えるにはプランデットに音声を残すほうがいいわ。ホワイトボードに伝言ありの色磁石をつけて、シャワーを浴びた。


 武装していくのは失礼かなと、グロック19と杖は外し、アシッカ伯爵夫人と会うときに使っていた服に着替えた。


「あら、どうしたの?」


 中央ルームから出ると、ホワイトボードのところにシエイラがいた。


「あ、ちょうどよかった。リハルの町のジェネスク家に招待されたの。今日は泊まると思うからライガに帰らないことを伝えて」


「ジェネスク家の方に会ったの? あなたも妙な出会い運を持っているわね」


「タカトさんのお陰よ」


 すれ違う者はたくさんいた。けど、関わり合うことはなく、流れていくばかり。でも、タカトさんと出会ってから出会いは満ちており、タカトさんが繋いだ縁が紡いでいる。ライザ様もミズホさんもそうだ。まあ、ライザ様と出会ったのは運でしょうけど。


「まあ、ジェネスク家と仲良くなっておくに越したことはないわ。コラウスでもかなり有力な家だからね。城にも結構な数を送り出しているわ」


「……それほどの家だったのね……」


 雰囲気が並みじゃなかったけどさ。


「リハルの町はジェネスク家に支配されていると言っても過言ではないわ。がんばってね」


 シエイラは冒険者ギルドでも地位は高かったみたいだけど、貴族と渡り合うには厳しいでしょう。領主代理とのやり取りでかなり疲労したみたいだしね。


「ええ。いってくるわ」


 外に出て、ライザ様とミズホさんとジェネスク家に向かった。


 写真でジェネスク家のことはわかっていたけど、こうして見ると異国情緒があるわよね。タカトさんによればニホン建築風と言っていたわ。


 男爵は貴族の中でも下であり、上と下の差が激しい。城を持つ家から小屋みたいなところに住む者もいた。ジェネスク家は異国情緒すぎてどれほどの規模かよくわからないわね。


 ホームと同じで家の中は靴を脱ぐようで、スリッパを出された。


「ばーちゃん、帰ってきたのかい?」


 廊下を進んでいると、四十過ぎくらいの男性が現れた。


「マルデガル。まだいたのですか?」


 この人が新しく駆除員になった人か。タカトさんとは違った飄々としたタイプの人よね。


「ひでーな。おれだって毎日ゴブリン駆除してたら萎えるよ。ん? 誰だい?」


「セフティーブレットのミリエルです」


「ああ、あんたがタカトの補佐かい。話しは聞いているよ。あんたがいてくれるから自由に動けるって」


 タカトさん、誰彼構わず話しすぎです。


「わたしこそタカトさんがいてくれるお陰で動けていますよ」


 いろいろな意味でね。


「今日はお休みですか?」


「ああ。ゴブリンがいなくてな。増えるまで待つことにしたんだよ」


 チート持ちで金印でもある人。本気になったら千でも二千でも余裕でしょうね。まあ、わたしもチート持ちみたいなものだけど……。


「夏まで時間はあるのでライダンド伯爵領にいってはどうです? カノロ湖周辺にゴブリンを見たと報告が上がってますから」


 ライダンド伯爵領にいった輸送部からの情報だ。最近、カノロ湖周辺でゴブリンを見ると冒険者が言っていたそうよ。


「ライダンド伯爵か~。しばらくいってなかったな~」


「いくのであればセフティーブレットの館にきていただければルースカルガンで送りますよ」


 ルースカルガン一号艇は城に詰めているけど、発電機を設置したことで通信ができるようになった。呼べばすぐきてくれるでしょうよ。


「それはいいな。明日にでもいってみるよ。セフティーホームに料理をできるヤツを入れたいからな」


 確かに料理ができる人がいてくれると助かるわね。もうミサロの味がうちの味になっているからね。


「では、伝えておきます」


「ああ、頼むよ。じゃあ、今日は酒でも飲んでくるか。んじゃ──」


 と、風のように去っていってしまった。ほんと、タカトさんとは全然違うわね。


「ごめんなさいね。だらしない子で」

 

 七十歳から見たら四十歳くらいでも子供扱いなのね。ライザ様の強さがよくわかるってものだわ。


「いえ、お気になさらず」


 奥へ通され、夕食まで三人で話し合った。

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