第687話 そつがない

 タカトさんのお陰で歩けるようになり、たった一人で歩くというのはワクワクするものなのね。


 まあ、脚があったときも歩いていたけど、歩けなかった時代が悲惨なだけに歩いていたときの思い出がかき消されているわ。


「オートマップを持ってくるんだったわ」


 わたし、結構方向音痴だったりする? 住宅街みたいなところに入ってしまったわ。


「あ、すみません」


 このままでは冒険者ギルドに到達できなそうなので、ちょうどよく現れた上品そうな老婦人に声をかけた。


「なにか?」


 なかなか凛とした老婦人だこと。家庭教師だったマリーテ夫人を思い出すわね……。


「お手数をかけて申し訳ありません。冒険者ギルドの支部がどこか教えていただけませんでしょうか? リハルの町は初めてで迷ってしまいました」


「……そう。近くまでいくからついてきなさい」


 一瞬のうちに値踏みされたが、それ以上は言わず、冒険者ギルドの支部まで案内してくれた。


「あなたは冒険者なのかしら?」


「いえ、ゴブリン駆除ギルドの者です。ミリエルと申します」


「ゴブリン駆除? イチノセ様のお仲間なのですか?」


 ん? この人、プランデットの情報にあったマンダコウイチさんの子孫じゃなかったかしら?


「はい。駆除員のミリエルです。マンダヒサエさんですか?」


「ライザで構わないわ。マンダヒサエは家族名ですから」


 そうだった。ライザ・ジェネスクさんだったわ。


「では、ライザ様と呼ばせていただきます」


「わたしは、ミリエル様と呼ばせていただきますね」


 年の功というヤツかしらね? なんとなくわたしの背景を察しているようだわ。


「イチノセ様からあなたのことは聞いていますよ。リハルの町にきたらよくして欲しいと頼まれました」


 そういうところがそつがないのよね、タカトさんって。


「そうでしたか。ありがとうございます」


「いいのですよ。わたしも駆除員の子孫であり、孫が駆除員として動いています。わたしはもう年よりなのでゴブリンを駆除できませんが、現駆除員の方々に協力させてください」


 駆除員の子孫がどんな立場かわからないけど、タカトさんが五年以上生きて、子供を残すならジェネスク(マンダ)家のようなことになるんだろうか?


 わたしはタカトさんを尊敬しているし、愛している。でも、タカトさんの子供が欲しいって気持ちはない。まあ、愛されたい気持ちがないと言えばウソなるけど、子供を作ってあげたいってことはないわ。


 ……この先どうなるかはわからないけどね……。


 冒険者ギルドの支部は町館ってところにあり、まだ陽が高いので冒険者はちらほらとしか見て取れなかった。


「ありがとうございました」


「いいえ。せっかくですし、ミズホと顔合わせしておきましょうか。これから長い付き合いになるでしょうからね」


 ミズホって確か、支部長だったわよね? 


「会えるのですか?」


 わたし、ただ冒険者ギルドの支部の場所とミランル村の場所を聞こうと思っただけなのよね。


「まあ、いなければ会えませんが、昨日会いましたからいるはずです」


 そう言われて支部に入り、職員に声をかけると、奥にいた五十歳くらいの女性がこちらにやってきた。


「ライザ様。どうかしましたか?」


「セフティーブレットのミリエル様の案内です」


「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのミリエルです。タカトさんからミズホ支部長のことは聞いております」


 ミズホさんがこちらを見たら挨拶をした。


「あんたがミリエルかい。タカトから聞いているよ。実質、副ギルド長だってね」


 ほんと、タカトさんはそつがない。根回しができているんだから……。


「明確に言われていませんが、わたしがタカトさんの補佐や代理を任されています」


 副ギルド長をやれとは言われてないけど、タカトさんから頼られているのはわかるし、そうでありたいとわたしも思っている。故に、周りから様づけで呼ばれるんでしょうね。


 タカトさんは現場の人。机にふんぞり返って命令するのは向いていない。人の中にいてこそ能力を発揮できる人だとわたしは思っているわ。


「そうだね。あんたみたいのがタカトの後ろにいるなら安全だね。あれは、誰かが後ろにいないと暴走しそうだから」


「暴走しそうに見えますか?」


「していただろう? 自分は凡人だと言いながら誰よりも最前線にいて、誰よりも危険に飛び込んでいる。駆除員の性か女神がそういった者を選んでいるかはわからないが、あれはこれからも最前線にいて誰よりも危険に飛び込んでいくだろうね」


 ふふ。わかる人にはわかるものなのね……。


「英雄ならいい。だが、タカトは英雄じゃない。どちらかと言えば救世主的立場だろうね。人を、他種族を纏められているからね」


「それはわたしもそう思っています」


 タカトさんとしては迷惑なことでしょうがね。


「あんたは見た限り、冷静で冷酷だ。いい意味でだよ」


「わかっています。わたしもタカトさんを守るためならいくらでも冷酷になる覚悟はありますから」


 魔物やバケモノからタカトさんを守るのはラダリオン。わたしは、人からタカトさんを守る。害を与えようとしたり利用する者はわたしが排除する。人を殺すことに躊躇いはしないわ。

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