第686話 魔法の杖

「ここをマルセルの門と名づけ、地上までの洞窟をブレットの通路、地上の門はアーティと名づけました」


 以前、写真で見た洞穴的な様子はなくなり、パイオニアが二台並んでも余裕な門となっていた。


「ルー。写真を撮っておいて」


 ルーにはカメラを。メーにはオートマップとビデオカメラを任せている。常に最新の情報と、変化の流れを残しておくためにね。


 マルセルの門を潜ると、中は篝火が焚かれていた。


「発電機を設置したほうがいいわね。空気が悪いわ」


 エルフなら魔法の光で照らせばいいと思うのだけれど、使える者がいないのかしら?


「しかし、凄いわね」


 前に見た写真がウソように通路が整備され、道の両脇に排水路まで作ってあったわ。


 地下湖までまっすぐで、ここはタワーライトが設置してあった。


 発電機を使っているみたいだけど、やっぱり空気が悪いわね。エルフたちは気にならないのかしら?


「マルバオさん。ここにランダーズで見つけた発電機を設置しますね」


「おれたちに使えるものなんですか?」


「大丈夫ですよ。マナックを入れてスイッチを入れればプランデットを通して魔力が行き渡りますので」


 わたしもよくわかってないのでやってみせることにする。


 発電機はパレットに乗るくらいのサイズで、プランデットを通して魔力を送る機械だ。


 線を通して魔力を送る方法もあるそうだけど、それをやる作業が面倒なので、ブレット通路を覆うために中継器を設置することにした。


 ホームから発電機を運び出し、中継器をマルバオさんたちに設置してもらう。


「プランデットの右端に青い光が出たと思います。文字を出してください」


 マイセンズのエルフは古代エルフ語を使える。青い光の意味がわかるはずだ。


「魔力開通が出ました」


「それでプランデットを通して魔力が送られ、いろいろ魔法が使えるはずです」


 謂わば、プランデットは魔法の杖となったわけだ。


「大きな魔法は使えませんが、光を創り出したり火を創り出したり小さな魔法は誰でも使えますし、自力の魔法を強力にもできます。ただ、マナックの消費は多くなります」


 わたしはまだ古代エルフ語はわからないけど、文字の形から発動させることはできる。エレルダスさんによれば思考発動と言うらしいわ。


「決まった魔法を決まった通りにしか発動できませんが、一から勉強しなくていい分、楽でしょう。まずは使ってみて学んでください」


 人を殺すほどの威力は出せない設定になっている。失敗したとしても問題ないでしょうよ。もし、怪我をしたらわたしが回復してあげるわ。


「では、プレシブスを出しますね。ライガ、ホームに入るわよ」


「わかった」


「皆は休んでいて。なにかあればライガに連絡するから」


 そう告げてホームに入った。


「ミサロ。ダストシュートして。プレシブスを取りにいってくるわ」


 館の周辺に水場がないので、カインゼルさんの故郷にプレシブスを置いてあるのだ。


「わかったわ。あと、タカトがカインゼルさんのところでも回復事業をやって欲しいって言ってたわ」


 回復事業とは人々に回復をさせてセフティーブレットの支持を得るための行動だ。他にも教会の力を落とすためでもあるそうよ。


 ……内から侵略させたらタカトさんに勝る人はいないわよね……。


「ライガ。ビシャたちに今日は戻れそうにないって伝えておいて」


 ライガにお願いし、ミサロにダストシュートしてもらった。


 またホームに入ってブラックリンを出し、リハルの町に向けて飛び立った。


 ブラックリンを操縦できるのは今のところわたしとタカトさんだけ。プランデットを扱えるかどうかで決まる乗り物なのよね。


 言葉で説明するのは難しいけど、体で動かすってより頭で動かすって感じだ。画面に映るものを処理して飛ばすからね。


 戦闘型なので機動力、速度はマンダリンの倍。しっかりハンドルを握り、両足を踏ん張ってないと振り落とされてしまう。頭で動かすと言っても体を鍛えてないと乗れないでしょうね。


 しばらく乗ってなかったから風圧に負けそうになるけど、身体強化魔法で踏ん張った。


「……魔法も体ももっと鍛えないと……」


 やることが多くて訓練に時間を割けてないけど、ルーやメーに仕事を振って時間を作っていくとしましょうか。


 魔力消費は早いけど、十分もしないでリハルの町にやってこれた。


 ただ、リハルの町にくるのはこれが二度目。最初はタカトさんがいたから覚えてないのよね。きっと地図を見ててもよくわからないでしょうよ。


 仕方がないのでリハルの町の前に降り、ブラックリンをホームに戻してからリハルの町に入った。


「ここでルーとメーは生きていたのね」


 わたしも酷い生活をしていたけど、メーとルーも結構酷い生活をしていたようだ。


 身の安全のために魔石のついた杖を取り寄せた。


 一応、グロック19は腰に差しているけど、咄嗟に動けるのは魔法だ。杖のほうが心強いのよね。


「さて。まずは冒険者ギルドで尋ねましょうか」


 夕方まで時間はあるし、リハルの町を見てからカインゼルさんのところに向かうとしましょうかね。


「ふふ。一人で歩くって初めてかも」


 なんだかわくわくしてきたわ。

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