第685話 エウロス

 何事もなく朝を迎えた。


「ビシャ。ライガ。ロンガルの情報を集めてきて」


 まだ運び出すものがあるのでロンガルに手が回せないのよね。


「ミリエル、マンダリン出して」


 なぜかパイオニアは運転できないのにマンダリンは操縦できるのよね、ビシャって……。


 ホームからマンダリンを出してきて、駆除員の子孫が作ったと言うアイテムバッグをビシャにつけさせた。


「かなりの量のものを入られるけど、十五日縛りがあることを忘れちゃダメよ。その中に入れても女神のルールは消えたりしないんだから」


 たくさん入るのはいいけど、タブレットや請負員ガードで買ったものは十五日触らなければ消えてしまう。


 アイテムバッグに弾を入れて銃に自動装填されるようになったが、連続で撃つなんて狂乱化したときや魔物が大群で現れたときくらい。そんな状況でもなければ弾の管理が面倒なだけだわ。


 通常の駆除ならマガジンマガジン七本もあれば充分だし、足りなければ報酬で買えばいいだけ。わざわざ自動装填することもなかったって、タカトさんが嘆いていたわ。


 まあ、空マガジンを捨てなくてもいいし、銃にコーティングはされているので無駄にはなっていない。アイテムバッグは請負員を中心に渡すようにすることになったわ。


 わたしは基本、魔法を使うし、ラダリオンは銃の扱いが上手いので無駄弾は撃たない。ミサロは戦わないから必要なし。タカトさんは、一人で動くならまだしも今は必ず誰かをつけさせている。早々最前線で戦うことはないわ。


 ……それでもいざってときは最前線に立っちゃうのがタカトさん。駆除員が長生きできないってことがよくわかる。女神の人選基準がわかるというものだわ……。


「狩っていい? どんな味か気になるし」


「一匹なら構わないけど、なるべく警戒されないようにしなさい。捕まえるのに手間がかかるのは困るからね」


 この限られた空間で、ローダーやロースランに狙われて生きてきたのだ、逃げるのもお手のものでしょうよ。


「わかった。ライガ、いくよ!」


「うん!」


 なんだかすっかり姉弟って感じよね。たまにはメビも構ってあげなさいよ。


 子供が嫌いなわたしでもビシャとメビは妹と思え、ライガは……まあ、モフモフしてて可愛いわね。ミサロは完全にペット扱いだけど。


「エレルダスさん。始めましょうか」


 地下六階に向かい、昨日の続きを開始した。


 お昼になって地上(?)に上がると、肉塊が置いてあった。ロンガルの肉?


「手頃なロンガルを狩ってミサロに捌いてもらった」


 手頃なといいながら肉塊のサイズからロンガルの大きさがわかるというもの。それを狩る二人もだけど、捌くミサロもミサロよね。あの子、自分は弱いと言っているけど、絶対強いはずだわ……。


「どうするの?」


「丸焼きにするんだ! ライガ、やるよ!」


「うん!」


 やる気満々の二人が準備を始めた。ほんと、ニャーダ族って、丸焼きするの好きよね。まあ、わたしも肉は好きだから構わないけど。


「すぐ焼けるの?」


「ううん。夕方までかかるよ」


 うん。ホームから料理を運んできましょうかね。


「それで、ロンガルの情報は得られたの?」


 昼食が終わり、食休みにカフェオレを飲み干したらビシャに尋ねた。


「群れはだいたい三グループに分かれていて、グロゴールを倒したところにいる群れが一番強い感じかな」


 ビシャも成長したものよね。狩りをしながらもそこまで詳しく調べているんだから。タカトさんの見る目がよすぎるわ。


 スケッチブックを取り寄せてロンガルの分布図を描いてもらった。


「ゴブリンやロースランは見た?」


「ううん、見てない。エルフたちは見たって言ってるけど」


 そのエルフたちの代表、マルバオさんにも話を聞くと、若い個体が隠れるように生きているようだ。


「若い個体ではロンガルを狩るのを大変でしょうから他のなにかを食べているってことですか?」


 ロースランは雑食だしね、他のものを食べて生きているんでしょうよ。


「はい。木の実を食べています。恐らくロンガルが食べたものの中にあったんじゃないですかね? 結構自生しています」


「マイセンズの土には小さな人工生命体、エウロスが放たれているので空気を作るために育ってたんでしょうね」


 なにを言っているのかまったく理解できないけど、古代エルフの技術は凄いってことなんでしょう。


「この空間が五千年も維持されているのはエウロスってのがあるからですか?」


「まあ、そうですね。この限られた空間で生きると言うことは並大抵のことではありません。いろいろ仕掛けがなければ百年と生きられないのです」


 エルフの時間感覚や技術は本当に理解できないわよね。


「ミリエル様。船を仕入れたとライガから聞きました。一艘譲っていただけませんでしょうか?」


「ええ。タカトさんから言われているので二艘渡しますよ」


 マイセンズにきた理由の一つにプレシブスをエルフに渡すこともある。ただくるだけなら洞窟を使ったほうが早いし、マナックの消費を抑えられるからね。


「では、これからいきましょうか。エレルダスさん。あとはお願いしますね」


 あとは細かいものばかり。イチゴがいれば難なく運び出してくれるでしょうよ。

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