第684話 圧

「……ミリエル。あなたまで……」


 せっせとフォークリフトで発電機を運び入れていると、ミサロが呆れたようなため息を吐いた。


 ミサロはホームを担当している。いや、仕切っていると言っていいでしょう。


 睡眠時間が三、四時間だからわたしたちが眠っている間も動いて中央ルームからガレージまで管理している。


 料理も万全から掃除だって万全。洗濯だってミサロがやっている。もう完璧すぎて誰もなにも言えないくらいだ。


「すぐ出すものだから大丈夫よ。ガレージに残すものはないわ」


 ガレージはタカトさん担当だからタカトさんの許可を得ればいいけど、細かく触るのはミサロだ。勝手に仕事を増やしたらミサロからの圧で押し潰されちゃうわ。


 ……タカトさんもミサロの怒りを買わないように気を使っているしね……。


「それならいいけど、中央ルームに持ち込むときは言ってね」


「ええ、ちゃんと言うわ」


 両脚がなかった頃は生きるために必死にやっていたけど、わたし、料理も掃除も苦手なのよ。だからホームのことはミサロに従うしかないのよね。


「館とアシッカに出すものには札をつけておくからラダリオンに伝えておいて」


 ミサロはパイオニアもフォークリフトも運転できないので、館のはタカトさんに任せるしかない。


「タカトさんは?」


「アシッカよ。あと、ビシャとライガをそちらに向かわせるそうよ。昼に伝えたから明日には到着するんじゃないかしら? 二人とも走るの速いからね」


 ビシャは時速五十キロのパイオニアについてこれる脚力がある。アシッカからなら夜についても不思議じゃないわね。ビシャはマイセンズまでの道を熟知しているんだから。


 なんて考えていたら本当にビシャとライガが夜にやってきた。マイセンズのエルフとともに。どんだけ急いできたのよ……。


 わたしたちはランダーズの外でキャンプをしている。地下だと排水機能が生きてないとエレルダスさんが言うのでキャンプ道具を外に移したのだ。


「そんな急ぐこともなかったのに」


 いくら獣人でも無茶苦茶よ。


「タカトがミリエルを頼むって言うから」


 まったく、タカトさんは。わたしのところはイチゴがいるのに戦力を傾けすぎよ。


「まあ、あたしたちもゴブリン駆除に飽きてたしね。マイセンズならなにかおもしろいことがあるんじゃないかと思って急いできたんだ」


 それならタカトさんの側にいたほうが起こる確率は高いと思うけど……。


「仕方がないわね。まずはお風呂に入りなさい」


 お風呂は用意してあるので、汗だくのビシャを先に入らせた。


「ライガ。わたしはホームに入るわよ。エレルダスさん。あとはお願いします。発電機を館に出してきますので」


 明日やろうと思っていたけど、ライガがきたならさっさと発電機を館に出すとしましょう。ミサロに圧をかけられたくないしね。


 ホームに入り、ミサロにダストシュートしてもらった。


 館に入り、エウロンのエルフがいないかを捜した。


「あ、ヤカルスクさん」


 いないな~とエウロンのエルフが住む場所にいこうかと思ったらルースカルガン一号艇を任せられているヤカルスクさんが入ってきた。


「どうかしたか?」


 この人はエルフらしからぬ気配を出している。かなり強いということがわたしでもわかるわ。


「発電機を出したいので片付けをお願いします」


「発電機? ──ああ、マルディークな。わかった。館の前に出してくれ。一号艇に積み込むから」


「わかりました。あと、マイセンズの情報をエレルダスさんからわたしのプランデットに入れてもらいました。情報を移してください」


 わたしのプランデットを渡した。やり方を聞いたけど、全然わからなかったのよね。


「明日の朝には返すようにはする。発電機を城に運びたいからな」


「はい。シエイラかミサロに渡してください」


 明日まで使うことはないし、ルーとメーにも持たせてある。なくても問題はないでしょうよ。


「では、出しますね」


 ルースカルガン一号艇の前でホームに入り、フォークリフトで発電機や館に出して欲しいと言われたものを出していった。


 すべてのものを出すとガレージがすっきり。これでミサロからの圧は向けられないでしょうよ。


「ヤカルスクさん。わたしはホームに入りますね」


「ああ。これをエレルダス様に渡してくれ」


 なにかガードを渡された。


「デジカメのメモリーカードみたいなものだ」


 技術が高かっただけにタカトさんがいた世界のものに理解力があるわよね。わたしはまだ理解できないものがたくさんあるのに。


「わかりました。他に伝えることはありますか?」


「ない。気をつけるよう伝えてくれ。あの方は大人しそうに見えて大胆なところがあるからな」


「はい。必ず生きて連れ帰ります」


「それはライズに任せろ。お前はお前の命を優先させろ。でないのと、タカトに会わせる顔がないからな」


「わかりました。自分の命を優先させます」


「それでいい。でないとタカトが悲しむからな」


 タカトさんはいつの間にヤカルスクさんと仲良くなったのやら。ほんと、コミュニケーション能力が高い人だわ……。


 ではと、ホームに入り、夕飯とシャワーを浴びたらライガにランダーズ前にダストシュートしてもらった。

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