ミリエル・マイセンズ編

第679話 オールラウンダー

 タカトさんからマイセンズにロンガルを捕まえに行くことをお願いされた。


 ほんと、タイミングがよすぎる。女神がタカトさんの行動を逐一見てないと無理なアナウンスだわ。


 この世界に神がいることはタカトさんが示し、わたしも声を聞いたことがある。あの存在は神としか言いようがない存在だと痛感もするわ。


 けど、タカトさんを苦しめる存在は許容できない。苦しめることは許さない。崇拝することはないわ。


 ただまあ、神に勝てるほどわたしは強大ではない。反抗したところで神に手が届くことはない。わたしが出来ることはタカトさんの力になること。タカトさんの代わりに動くことしかできない。


 わたしはラダリオンのように戦う術はない。ミサロのように料理も出来ない。シエイラのようにタカトさんの心を守る器量もない。器用だけど、他の三人のように横にも後ろにも立てない。


 でも、わたしはタカトさんの杖。転ばないよう支えられる杖だ。それは他の三人には出来ないこと。わたしだけが出来ることだ。


「無理はするな。いざとなればお前だけはホームに逃げろ。あとはオレがどうにかするから」


 タカトさんが常に言うセリフ。他を切り捨ててもわたしたち駆除員を守る覚悟を見せているのだ。


 自分に憎悪を向けられてもわたしたちだけは守る。わたしたちを駆除員に引き込んでしまった罪悪感から。


「わかりました。いざとなればホームに逃げますよ」


 わたしたちはそう答えるように決めてある。タカトさんの心を守るために。そうさせないために。タカトさんが苦しまないように。


 そうさせないよう出来るのはわたしだけだ。こればかりはラダリオンやミサロ、シエイラにも出来ないでしょう。わたしは、タカトさんのためなら冷酷にもなれるし、人を利用することだって躊躇わない。すべてはタカトさんを守るため。わたしたちの側にいてくれるためにわたしは狡猾に生きるのよ。


 とは言え、そんな露骨には出来ない。人を動かすためには利を与え、情を与え、希望を見せることで人を動かす。タカトさんから学んだことだ。


 タカトさんは自分は凡人だと言うけど、人を、いや、種族に関係なく魅了するのは天才的だと思う。


 人間しかいない世界から来たとしても他人との垣根が低すぎる。どんな種族でも自分と同じ存在と接している。あれはやろうとして出来るものではない。生まれもっての資質でしょうよ。


 なにより凄いと思うのは相手の本質を見抜くことね。本人は意識してやってないところがまた凄い。そして、いつの間にか相手の心に入っている。


 まあ、妙齢な女性には入って行かないけど、同性や子供、バケモノ染みた人にはすっと入って行くのよね……。


 タカトさんとある程度計画を立てたら外に出た。


「タカトさん、計画性も凄いのよね」


 未来でも見ているのかしら? って思う計画を立てたりするのよね。あれで自分は凡人って言うんだから理解出来ないわ。


 ……まあ、だからこそ女神に選ばれちゃったんでしょうね……。


 他の駆除員は特別な力をもらったようだけど、ゴブリン駆除は短命だ。二百年前の人は二年と半年。百年前の人も三年も生きられなかったという。


 百年前の人が撮った写真を見たけど、日に日に表情が変わっていき、余裕のない顔になっていた。


 タカトさんと出会ったとき、コウイチって人と同じように余裕のない顔だったわ。


 ただ、タカトさんが他の駆除員と違うのは特別な力をもらわなかったこと。自分は凡人であり、力に頼らなかったことでしょう。


 自分に力がないのなら数を集め、領主代理を味方に引き込み、道を整備し、そこに住む者を自分の味方にする。


 言葉にすれば簡単だが、やろうと思ってもやれるものじゃないわ。少しずつ、少しずつ、人を取り込んでいき、利を与え、自分の価値を教え、自分の味方にするなんて英雄のすることよ。凡人に出来ることではないわ。


 わたしに同じことが出来るかわからないけど、下地はタカトさんが調えてくれた。わたしはセフティーブレットでナンバー2的な立場になっている。


 本当はラダリオンかシエイラがやるべきなんでしょうが、ラダリオンは槍であり、シエイラは後方支援型。自由に動いて回り、状況に応じて臨機応変に対処するのは無理でしょう。


 わたしが求められているのは器用貧乏ではなく、オールラウンダー。タカトさんの代わりにタカトさんの求めることを可能にすることだ。


「「ミリ様」」


 外に出てすぐ、メーとルーが駆け寄ってきた。


 見た目は八歳くらいだけど、中身はわたしと同じ十五歳(双子談)。長いこと孤児として強かに生きてきただけに知能は高い。文字も少しはわかっていて、わたしが教えたことで結構書けるようになったわ。


「次の仕事よ」


 二人はわたしの副官的な立場として育てている。オールラウンダーとは言え、一人で出来ることは少ない。いろいろやるには人を使うしかないのよ。


「主要メンバーを砦に集めて」


 組織を強固にするには情報共有と意志疎通。そして、人の顔を見て言葉を交わすことが大事だとタカトさんから学んだわ。

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