第678話 ルースカルガン二号艇

 ラダリオンに一番広場に残ってもらい、ミサロにダストシュート移動してもらって館に出た。


「エレルダスさん。ルースカルガンに誰かいますか?」


 館の事務所で楽しそうにパソコンを使うエレルダスさんに声をかけた。


 ……エレルダスさんにしたら化石みたいな機器なのに楽しいんだろうか……?


「少し待ってください」


 プランデットをかけて誰かに通信を送った。いや、見えてるわけじゃないんだけどね。


「ルーシェがいるそうです」


「ルーシェですか。響きがすっきりした方ですね」


 エウロン系のエルフは一度聞いただけでは覚えられないし、呼び難いんだよな。


「そうですね。若い子なので今風に名づけられたのでしょう」


 エルフの世界にも今風の名前とかあるんだ。長生きしている種族はジェネレーションギャップも凄そうだな……。


「どうかしたのですか?」


「女神がマイセンズへ入れる通路の情報をルースカルガンに入れたと言われたので見てみようと思いまして」


「女神はよほどあなたを気に入っているようですね」


「迷惑でしかありませんがね」


 碌でもないことに巻き込まれるくらいならダメ女神のアナウンスなんていらねーよ。まあ、自業自得なことも多々あるけどさ。


「わたしもいきます。マイセンズのことは興味がありましたから」


 なんでも先に滅んだのはマイセンズで、数百年、各地下都市と交流はしてなかったそうだ。


 ルースカルガン二号艇はまだ館の前に置いてあり、まだ生き残っている衛星から送られてくる情報を集めることに使われているよ。


「あ、エレルダス様! ちょうどよかった。どこからか強制介入された形跡を発見しました。今、全力で調査しております」


「調査は止めていいわよ。それは女神からの介入だから。グリーグを調べなさい。マイセンズの情報が入っているはずだから」


「め、女神ですか!? わ、わかりました!」


 なるほど。見た目は二十歳くらいだが、言葉の端から確かに若いってのがわかった。


 宇宙に衛星を上げるくらいの技術力なのに、情報の打ち込みはキーボードなんだな。そのほうが効率がよいのだろうか?


「ありました! 画面に出します」


 ルースカルガンの窓にマイセンズの地図が映し出された。


「ここが港で奥に通路があります。奥はかなり広い通路だという話です」


 途中から外に出られたそうだが、マンダリンが通れるくらいのものだったって話だ。


「ここにいってもらえますか? 巨人の食糧にロンガルって生き物を連れてきて欲しいんですよ」


 ルースカルガンの格納デッキなら一匹は入るはずだ。


「わかりました。いきたかったので好都合です」


「ミリエルに指揮をさせます。ミリエルならロンガルを眠らせることもできますからね」


 巨人になれる指輪を使えば運ぶことも難しくはないはずだ。


 エレルダスさんにマイセンズにいくメンバーを決めてもらい、オレはホームでミリエルが入ってくるのを待った。


 さすがに酒は飲めないので文字の勉強をして待つことにした。


 コーヒーを飲みながらのんびり書き取りしていると、ミリエルが入ってきた。


「あ、タカトさん。明日、館に戻りますね」


 中央ルームに入ってきたミリエルがタイミングがいいことを口にした。


「よかった。ミリエルにお願いしたいことがあったんだよ」


 ダメ女神からのアナウンス内容とロンガルをマイセンズから運び出すことを語った。


「わかりました。わたしがいきます」


「悪いな。ミリエルにもミヤマランにきて欲しかったんだが、ロンガルを眠らせるなんてこと、ミリエルにしかできないからさ」


 ラダリオンだと殺してしまいそうだし、巨人を送るのも手間だ。雷牙ではまだ荷が重いしな。ミリエルにしか頼めないのだ。


「大丈夫ですよ。なんでもかんでもタカトさんが負担することはありません。わたしにできることがあるならなんでも言ってください」


「ミリエルが動いてくれることで負担は減っているよ。逆に、負担をかけてないか心配だよ。無理なときは無理と言ってくれよ。じゃないと、勘繰って頼み事を減らしてしまうからな」


 まだ十六歳の少女に任せていい量じゃない。十六のオレなら悲鳴を上げて逃げているところだ。


「はい。無理なときは無理と言いますよ。だから、頼み事があるなら遠慮なく言ってくださいね」


「ありがとう」


 ほんと、ミリエルがいてくれるお陰でかなり楽をさせてもらっているよ。オレだけでは些細なことに目を向けられなかったことだろうよ。

 

「それで、ロンガルは何匹連れ出すんです?」


「そうだな。外でも生きていけるか調べるためにも番で五組は必要かもな」


 マイセンズは気温が一定であり、雨も雪も降らない地。長いことそんな地で生きたロンガルが外で生き抜けるかわからない。試しで五組を連れ出すとしよう。死んだらまあ捕まえにいけばいいんだからな。


「今からダストシュート移動するか?」


「いえ、メーとルーも連れていきますので、こちらに迎えにきてもらえますか? ドワーフを何人かつれていきたいので」


「ドワーフを?」


「はい。何人かはセフティーブレットに取り込んでおくべきだと思いまして」


 なるほど。種族別に均等に取り込んでおかないと差別だとか、自分たちは優遇されていると思われても困るか。人間至上主義とかと思われるのも嫌だしな。


「多種族を纏めるのも大変だな」


「タカトさんが異世界人で、女神の使徒だから纏められていますが、この世界の人間ではこうも上手く纏められなかったでしょうね」


 オレもそう思うよ。オレが見えないだけで種族差別はあるからな。


 ─────────────


 2023年9月29日 次はちょっとミリエル編。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る