第15章 上

第664話 準備

 アシッカへの同行を募ると、次の日から反応があった。


 まずは商人がやってきた。


 前回、同行した商人の他にもアシッカに支店を出したい商会や王都に本店を構える支部店まで同行を求めてきたのだ。


「なんでだ?」


 不思議に思ってシエイラに尋ねた。


「アシッカも辺境ですが、ミヤマランに近いです。ライダンド伯爵領回りでいくとかなりの時間がかかるそうです。アシッカまでの道のりが五日ですからかなり短縮されるそうですよ」


 まあ、確かに道もよくなり、護衛もいる。ライダンド回りがどれくらいかかるかわからんが、エントラント山脈越えを考えたとしても十日はかからないだろうよ。


「報酬が入らないところをみると、エントラント山脈も静かになったみたいだし、新たなルートになるかもしれんな~」


 小さな馬車なら通れるだけの道幅はある。馬車の数が増えても採算は充分出るかもな。


「かなりの数ですね。これは長くなりますよ」


「そうだな。あまり長いと護衛が大変になるな」


 今のところ同行する商会は八。まだ午前中なのでまだ増えると見ていいだろう。仮に十になったとして、馬車は五台から十台。最大百台になるか。


 コラウスに百台もの馬車と物資があるのか疑問だが、ないとも言えない。チャンスとしてかき集めてくるかもしれんな~。


「いっそのこと、巨人に運んでもらうか? 巨人の食料はセフティーブレットで出すんだし、大した荷物は持っていかんだろうしな」


 巨人が四十人もいたら魔物なんて襲ってくることもない。仮に襲ってきたとしてフルボッコにする未来しか見えないよ。


「そうですね。護衛も請負員の巨人にさせればいいんですしね」


 その交渉は巨人のダン──請負員であり、セフティーブレットの職員としたので、あいつにさせるとしよう。


 出発は十五日後。大雨でもなければ決行。峠を越えるために日の出とともに出発する旨を伝えた。


 十五日で準備できるのか? とは思ったが、大抵の商会はミスリムの町に店を構えているようで、オレたちも前日にはミスリムの町に集合することになった。


 なんでも商人たちがミスリムの町の町長と交渉してくれたようで、町の外の広場を使わせてくれるそうだ。


 どんなものかとシエイラを連れて見にいくと、町の南側に隊商広場があった。


「あーあったな。すっかり忘れていた」


 ライダンド伯爵領にいくとき、同行した隊商がここから出発したっけな。


「川はないんだな」


「確か井戸がいくつかあったはずです」


 広場に入ると、井戸が四隅にあり、馬が水を飲むための水桶が並んでいた。


「巨人が一晩過ごすとなると、水とトイレは必要か」


 食べれば出すのは巨人も同じ。七、八メートルの巨人が四十人もいたら凄いことになるだろうよ。


 前は十人くらいだったから山に入ってしてもらったが、今回は女も何人か混ざっている。配慮は必要だろうよ。


「簡易トイレを用意して、穴に捨ててもらえば構わないと思いますよ。ホームのようなトイレに慣れると厳しいですが」


 シエイラもトイレを使うときはホームに入ってくる。まあ、オレもそうだけどな。外ではキツいよ。


「水はラダリオンに出してもらえばいいとして、問題は食料調達だな」


 大きくさせればいいと考えていたが、五十人分(仮)ともなればとんでもない量となり、ラダリオンだけで出すのは大変だ。


「巨人に何人か先行してもらい、各所で釜戸を作ってもらってはどうかしら? 一人見張りを立たせておけば輸送部でも食料は運べるでしょうからね」


 なるほど。よほどの者でもなければ巨人は器用だ。釜戸くらい簡単に作ってしまうだろうよ。


「戻って職員と相談するか」


 まだ時間はある。職員と話し合って不備がないかを考えるとしよう。


 館に戻ると、ロースト村からアシッカにいきたいと言う者が五人きていた。


「モニス、許可はもらえたのか?」


 いきたいとは言っていたが、イチノセの開発もある。長老たちの話し合いではいけないかも、とは言っていたのだ。


「ああ。あちらにはゴブリンがいるんだろう? イチノセ周辺では狩りもできないからいかせてくれと説得したよ」


 まあ、マルデガルさんが根絶やしにしたようなもの。また増えるにしてもしばらくは無理だろうよ。秘境はライバルが多いからな。


「こいつらも請負員としてくれるか?」


 四人は初顔さんで、男女二名ずつだった。


「夫婦か?」


 なんとなく二組の距離感からそう尋ねてみた。


「ああ。アシッカに巨人の村があるだろう? そこに移住したいのだ」


 ラザニア村のようにロースト村も種族保存のために分散し始めたのかな?


「そうか。でもその前に頼まれてくれるか? ゴブリン駆除に協力するからさ」


 移住しようってんだから一からやろうとしているってこと。なら、釜戸くらい余裕で作れるだろうよ。


「構わない。お前が手伝ってくれるなら簡単にゴブリンを狩れるから。なにをすればいい?」


 各所に巨人用のキャンプ地を作ることを説明した。


「それはいいな。つまり、巨人も旅ができると言うことだろう? 願ったり叶ったりだ」


 言われてみれば各所にあれば巨人も行き来できるってことになるか。


「それはよかった。今日は休んで、明日の朝、出発するとしよう」


 今日は離れを使ってもらうとしよう。雑魚寝になるが、巨人五人なら問題ないはずだ。

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