第663話 なんでや?
遺跡からマンダリンやプレシブスをホームに運び入れ、ブレット傭兵団の拠点やら館に出すので五日もかかってしまった。
ラダリオンに手伝ってもらったからそれだけの日数で済んのだが、ゴブリン駆除以外のことで忙しいってのは平和的でいいものだ。
とは言え、最近、上前が入ってくるのが少なくなっている。もうこの周辺からゴブリンがいなくなったのだろうか?
「マルデガルさんが駆除してんのかな?」
アツコのセンサーならゴブリンを探すこともできる。帰ってこないのはそんな理由からなんだろうか?
「請負員を移動させることもできんしな、しばらくは堪えてもらうしかないな」
ミジャーがきたときはゴブリンも集まってくる。アシッカに連れていくことは避けておいたほうがいいだろうよ。
まったく、順調なときは稼げず、金ばかり出ていく。ゴブリン駆除以外の稼ぎ方を考え……あるか。ホーム運送業。また商人に声をかけるとしよう。
「カインゼルさん。オレらは戻りますね」
滝で作業しているカインゼルさんに帰ることを告げた。
「ああ。わしもあと少しずつやったら館にいくよ」
「わかりました。オレはしばらく館にいますんで」
アシッカにいくメンバーを募らなくちゃならない。職員に動いてもらうからオレは館にいるとしよう。
ブラックリンに乗り込み、メビとともに館に向かった。
館に戻ったら外に出したプレシブスにブルーシートをかける作業をし、終わればシエイラと話し合いをした。
「街の巨人が仕事が欲しいと言われているので二十人くらいは余裕だと思いますよ」
「二十人か。こりゃ、四十人くらいになりそうだな」
ラザニア村とロースト村からもいきたいって者がいた。三十人と見ていたが、余裕を持って五十人分を用意しておくか。
「ミリエルに先行してもらうか」
「ミロイド砦はいいので? まだ治療をしていると言ってましたが」
ここ数日、ホームの中で休んでないからミリエルから報告を聞いてなかったんだよな。
「そっか。なら、ラダリオンに巨人を任せるか。どちらにしろ食料はラダリオン頼みになるんだからな」
「では、マスターが先行するので?」
「ああ。雷牙を戻してホーム内作業をお願いするよ」
ミサロは館に固定しなくちゃならない。雷牙には悪いが、ホーム内作業をやってもらうとしよう。ハンドリフトは扱えるみたいだからな。
「シエイラも連れていきたいところだが、ミジャーのこともある。悪いが残ってくれな。海に着いたらミサロと交代で移動してもらうから」
「まあ、ホームで会えるのですから大丈夫ですよ」
「すまないな。仕事ばかりさせて」
「仕事ばかりしているのはマスターでしょう。そろそろ休んではどうです?」
「大丈夫だよ。命のやり取りをしてないなら楽なものだ。けど、人集めは職員に任せるか。アシッカにいったらまた休みなく働くだろうからな」
「それがよろしいかと。わたしも付き合いますよ」
机の下でオレの手を握るシエイラ。他の女には色香を感じないのにシエイラにだけは反応してしまうんだよな……。
「……そうだな。久しぶりに二人で飲むか」
シエイラも結構飲めるタイプだ。まずは二人で酒を楽しむとしよう。
「でも、その前に仕事を片付けるか」
巨人が五十人分ともなればとんでもない量となる。その計画を立てなきゃならんだろう。
「職員も増やさなくちゃならんな」
計画を立てようと、手の空いている職員を集めたら三人しか集まらなかった。
「そうですね。ですが、街は人材集めが始まっています。優秀な人材はもう引き抜かれているでしょうね」
コラスウでは知識層が薄い。読み書き計算だけできる者も少ない。その少ない者は商会に取られているそうだ。それは各町も同じで、探しても大した数は集められないだろうってさ。
「育てるのが一番いいんだが、それに割く時間がないしな」
こんなときだからこそ人材育成をやるべきなのはわかっている。だが、それに割く時間も人もいないんだよ。自分に使う時間だってないんだからよ。
時間は作るもの?
それ、命の危機に陥っているときに言えるか? 今まさに命を失いそうなときに言えるか? こっちは戦国時代みたいなときを生きてんだよ! 平和な時代の理屈なんて通じねーんだよ! 凡人にそんなことできねーんだよ!
ケッ! 無能と罵るなら勝手にしろ。オレは一度だって自分を有能とは思ったときはない。凡人は凡人なりにがんばるしかないと生きてきてんだよ。
「けどまあ、今のうち確保しておくか」
「考えがあるのですか?」
「ミヤマランで奴隷と孤児を確保する」
コラウスの孤児を確保すると、街の商会や組織に反感を買いそうだ。マルティーヌ商会は孤児の確保に動いている感じだった。マルティーヌ商会の動きに気づいた他も真似るだろうよ。
「奴隷はわかりますが、孤児もですか?」
「教育してやれんが館周りの草むしりや畑の世話、館の掃除はさせられるはずだ。使えそうな年長者がいれば孤児たちの指揮は任せられるはずだ」
この時代に児童なんちゃら法はない。搾取するわけでもないのだから文句は出ないはずだ。
「シエイラは反対か?」
反対と言うより納得できないかだな。シエイラも孤児であり、自分の力で今の地位を築いてきたんだからな。
「いえ、賛成ですよ。マスターが決めたことですから」
と、柔らかい笑みを浮かべていた。
「オレが決めたことでも間違っていたら遠慮なく言ってくれ。オレの常識はこの時代と合わないからな」
元の世界の倫理観に縛られている。いくつか振り払ったつもりでも捕らわれていることはある。それを指摘できるのはシエイラしかいないのだ。
「わかりました。間違っているときは間違っていると言いますよ」
「ああ。シエイラがいてくれて本当に助かるよ」
「そう言うのは結構ですから」
本心を言ったのに、なぜか冷たい反応。なんでや?
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第14章 終わり 2023年9月14日
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