第665話 呪われそう

 朝、七時にモニスたちを連れて館を出た。


 オレの護衛としてメビとモリスの民五人がついてくることになった。


 ミリエルを守るために連れてきたモリスの民だが、コラウスまで連れてこられた同胞を集めるために動いていたようだ。


 コラウスに根づいた者もいたようで、すべてを集めることはできなかったみたいだが、百人近い同胞を館に連れてきたとか。生活も落ち着いたからアシッカに報告に戻りたかったそうだ。


 メビはモニスのリュックサックに乗っているので、パイオニア五号にはオレら野郎だけ。華がない。まあ、あっても困るけどよ。シエイラにそれとなく牽制されてしまったからな……。


 マイヤー男爵領まではメビも知っているのでモニスに先頭を歩いてもらい、次に二組の夫婦、最後尾にオレらが続いた。


 道中、何事もなく、隊商の往来もないので十四時には峠を越えられた。


 モニスはともかく、夫婦二組は歩き慣れてないので休んでもらった。


「奥に巨人用のキャンプ場を作るぞ。ロイズたちは、処理肉をばら撒いてくれ。ゴブリンが結構いるから。メビは見張りを頼む」


 数ヶ月前に駆除したのに、またこれだけ集まってんのかよ。ゴブリンにとってもこの辺は休憩地になってんのか?


 引き寄せるのはロイズたちに任せ、オレはホームから樽を出した。


 この広場の近くに川はあるのだが、巨人が汲むには少なすぎるので、水を溜めるために樽を置いておくのだ。


 空の樽を持ちながら巨人になる。


「木はそんなにエネルギーかからんな」


 密度か? まあ、これなら四樽はいけるな。


 モニスは木を伐ってきて、慣れた手つきで簡易的な小屋を建て、そこに薪を並べた。


 休んでいた二組の夫婦も動き出し、川から粘土を集めて釜戸を作り始めた。


「ほんと、巨人って器用だよな」


 逆に不器用なヤツがいたら暮らし難いだろうな~。


 明日一日かかるだろうと思ったが、今日で大体のものが作られそうだ。


 さすがに寝泊まりできるほどの小屋は作れなかったが、往来が盛んになればここにも巨人が住み着くかもしれんな。


「タカト! ロイズたちが戻ってきたよ!」


 見張りを任せていたメビがやってきて、意識を周辺に向けたらゴブリンが集まってきているのがわかった。


「モニス! ゴブリンが二百匹くらい集まってきている! 武器を持って待機していろ! 合図したら出てこい!」


 広場に向かい、処理肉を中央部にばら撒いた。


「メビとロイズたちは広場から逃げたものだけを駆除しろ! 広場のは巨人に駆除させる!」


 春なのにエサに困っているのか、続々と集まってきている。ここはゴブリンの吹き溜まりか?


「くるぞ!」


 次々と街道のほうから集まってきた。


 処理肉にまっしぐらなゴブリン。これは狂乱化するな。

 

「ヤバ! メビ、背後から百ほどくる! 駆除しろ!」


 前からだけじゃなく後方のゴブリンにも嗅ぎつかれたよ。鼻がいいな!


「了ー解! 任せて!」


 まあ、百匹ていどならメビ一人で充分。完全にお任せする。


 勢いよく集まってきているから一分もしないで広場がゴブリンで埋め尽くされてしまった。狂乱化が始まっちゃったよ!


 ファイブセブンを抜いてゴブリンどもに全弾撃ち込んでやり、駆けてくるモニスたちに道を譲った。


 モニスたちにはオレらが使っていたベネリM4を渡してある。


 ベネリM4も結構使ったし、最近はあまり使ってない。管理を減らすためにモニスたちにあげることにしたのだ。まあ、必要になったらまた買うかもだけど。


「……片付けで一日潰れそうだな……」


 ゴブリンの数が数だし、地面が結構エグれている。てか、この広場、ゴブリンの血で染められているよな。もう呪われてんじゃね?


 ってまあ、一番呪われそうなのはオレか。誰かダメ女神に呪い返しの方法を知る方がいたらオレに一報をくださいませ。


 手持ちの弾がなくなり、それぞれマチェットを抜いて生き残りのゴブリンをプッチしていった。


「地獄だな」


 ゴブリンの死に様になんの感慨もないが、巨人がマチェットを振り下ろしている図ってのは結構怖いものがある。あれがこちらに振るわれたらリアル進撃だな……。


 巨人が穏やかな種族でよかった。これで人間並みに凶悪だったら世界はまたダメ女神にリセットされていただろうよ。


「五十万円に届かなかったか」


 ってことは……計算中……三百匹はいなかったか。意外と集まりなかったな。


「動かない集団がいるな。首長が率いているのか?」


 北のほうにゴブリンが固まっている気配がする。オレが察知できるんだから臭いは充分届いているはずだ。


「タカト! 全滅させたよ!」


 メビも成長してんな。一人でも余裕で駆除できたか。オレも鈍る前に一人で駆除に出ないといかんとな。


「ご苦労様。怪我はないか?」


「返り血も浴びなかったよ」


 もうワンマンアーミーだな。ちょっとした軍事施設ならメビ一人でも壊滅させられそうだ。


「モニス! 暗くなる前にゴブリンを片付けるぞ!」


 もうここでのゴブリン駆除は止めたほうがいいな。埋めるところがなくなりそうだ。


 三本目になったマナイーターを取り寄せる。


「前、どこに埋めたっけ?」


 前回のことを思い出し、ゴブリンを埋める穴をモニスたちに掘ってもらった。

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