第659話 パージパール

 マルデガルさんがアツコを連れてゴブリン駆除に向かうのを見送ったらルースカルガンの探索を再開させた。


 これと言った理由はないが、まだなにかあるんじゃないかと思ったまでだ。


「あ、ライザさん。時間がかかりそうですし、上にいってても構いませんよ」


 老人に残れっても酷だろうからな。


「いえ、お構いなく。続けてください」


「そうですか? まあ、無理しないでくださいね」


 真面目な方っぽいし、客を放置できんと思っているのかな? 


 格納デッキにあるコンテナボックスを開けていくが、これと言ったものは入ってない。いや、なにも入ってないって言ったほうがいいな。ん? これはもしかしてレーションが入っていたのか?


 古代エルフもアルセラばかりに戦わせていたわけではなく、生身の兵士もいたみたいだ。その兵士に食べさせるレーションなんだろうよ。


「かなり人数のいる戦線に送る途中だったんだろうか?」


 これだけ発展しながら核兵器の類いは使われないとか、クリーンな戦争をしていたんだな。それがいいのか悪いのかは知らんけど。


 格納デッキにある収納ハッチを開くと、対物ライフルかと思えるEARが二丁入っていた。


 ルン(バッテリー)を使用するんじゃなく、マナックを装填する感じだな。どんだけの威力があるんだよ?


「これを使う存在なり標的があったってことか」


 マイセンズの情報にないところをみると、エウロン製のようだ。


 持ってみると、そんなに重くはない。五、六キロってところだろうか? リンクスと比べたら軽いものだ。


「ん? これ魔弾じゃないな」


 弾数表示じゃなくエネルギー表示になっている。それに、これは出力調整ボタンか? 


 製造番号とEARの認証番号をプランデットに入力すると、この兵器、パージパールの情報が展開された。その性能や使い方も。


「……レーザー兵器じゃん、これ……」


 そういう系の兵器がないから使わないんだと思ってた。エウロンって、武闘派な都市だったのか?


 威力数値も出ているが、これは撃ってみないとわからんな。てか、下手な標的だと威力もわからんぞ、これ……。


 ま、まあ、試し撃ちはあとで考えよう。今はまだルースカルガンの探索もあるしな。


 パージパールを戻し、操縦席に向かった。


「……錆びてんな……」


 格納デッキから操縦席に移動する階段を上がっていたら、途中から金属部が錆びていた。


「攻撃されたのか?」


 操縦室の窓が破壊され、操縦席が土が被さっていた。


 これでは掘り出したとしても、二度と飛ぶことはできない感じだな。


 後部の収納ハッチになにかないかと開くと、サバイバルキットやEAR、よくわからない材質のシート、そして、ケースに入ったタブレットが入っていた。

 

「……光一さんが元の世界から持ってきたものか……」


 いろいろアプリでも詰めてきたのだろうか? ホームからポータブルバッテリーとUSBケーブルを持ってきて充電させた。


「このケースが守ってくれたみたいだな」


 しばらく待ってから電源を入れると、ちゃんと開いてくれた。


「暇潰し用のものか? 電子小説や漫画がたくさん入ってんな」


 って、ゆっくり読んでいる場合ではないな。他にないかと探すと、アルバムにたくさんの写真が収まっていた。


「連れてこられたときから小まめに撮っていたみたいだな」


 すべて見るのが大変なくらいだ。


「……若いな……」


 五歳くらいしか違わないのに、とても若々しく見える。まだこの頃は希望に満ち溢れていたんだな。


 最初から見ていくと、段々と顔つきが変わっていってるのがわかる。


「よくわかるよ、光一さん。オレもこんな顔してんだろうな~」


 老ける速度が速すぎる。季節が変わる度に老けていってるよ。


「これは、巨人か。やはり交流はあったんだな」


 衣服からしてモニスみたいな狩人か? にしてはやけに汚れているが? 


「結婚式か?」


 綺麗な服を着た茶髪な女性が花束を持って、背広を着た光一さんの横に立っていた。


 疲れた顔を見せていた光一さんもこのときばかりは嬉しそうに笑っていた。幸せの絶頂って感じだ。


「……オレには死亡フラグを立てたようにしか見えんな……」


 これは、光一さんのプライベート写真。オレが見るものじゃないな。


 タブレットを持って格納デッキに降り、外で待つライザさんにタブレットを渡した。


「これをしばらく貸してもらえますか? この中身を別のものに移して萬田家に返しますので」


 データさえ生きていればデジタルフォトフレームに移せる。タブレットなんて扱えないんだからそのほうがいいだろう。


「この板になにか入っているのですか?」


「萬田光一が生きた証です。この世界にきてから死ぬまでの姿が入っています。茶色い髪の女性と結婚式をしている光景も入っていました。産まれたばかりのお子さんも」


「……写真、ですか?」


「知っているのですか?」


「はい。光一様が家族のためだとアルバムを残してくれました」


 そっか。タブレットに残すくらいだ、デジカメで撮っていても不思議ではないか。


「では、印刷してアルバムにしますよ」


 何千枚となるが、パージパールの代金ってことにさせてもらおう。

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