第658話 アツコ起動
百年近く土の中で眠っていたのにルースカルガンが錆びたことはなく、つい最近埋められたかのように状態がよかった。
後部ハッチが開いたままになっており、機体番号も錆びることなく読み取ることができた。
「エウロン77・バーグス03−5か。マイセンズのものではないな」
ってことは、エレルダスさんが所属する都市のルースカルガンだ。
ただ、マイセンズのルースカルガンと規格は同じようで、これが軍用輸送機として使われていたみたいだ。
「……これが飛んでいた時代は戦争をしていたんだな……」
同種でも意見が違えば戦争をする。それはエルフでも同じようだ。
格納デッキにはコンテナボックスが積まれており、戦場に物資を運んでいたんだろうか? いくつか開けてみるが、中身は空だった。
これと言ったものはなく、椅子に座らされたアルセラだけだった。
「ロボコップタイプなんだ」
二千年代のスタイリッシュなロボコップの女性版って感じだ。ロボ感があるイチゴとは違うな。体型も女性的だ。本当にロボットなのか?
プランデットで確かめるが、脳だけ生身ってこともない。完全無欠にロボットだった。
ただ、ヘルメットを脱がせると、生身としか思えない顔が現れた。しっかり髪(短髪ね)も生やしているとか凝りすぎじゃないか?
「マナックはどこから入れるんだ?」
イチゴは腰のところにあり、カバーを開ければマナックを入れられるようになっている。こいつも腰だろうか? あ、これか。
腰のところにマナックを入れるカバーがあった。
「──お待たせ。ロボットは動かせそうか?」
と、香水の臭いを落としたマルデガルさんがやってきた。
「今からです。ライザさんは下がってください。マルデガルさんは万が一に備えてください。最後にどんな命令を受けていたかわかりませんので」
命令権が光一さんにあったとも限らない。目覚めた瞬間に殺戮マシーンになられたらオレじゃ止めることもできないわ。チート持ちに押さえてもらわないとな。
「危険なのか?」
「わかりません。いざとなれば壊してください。弱点は頭なので」
アルセラには自爆装置は搭載されてはいない。タダ、優先的にデータを破壊する装置が組み込まれているだけだ。
このアルセラもそうなのかわからないが、頭を隠す構造になっているなら頭が弱点ってことだろう。そうじゃなかったらこれを造ったヤツは悪辣ってことだ。
「では、動かしますね」
イチゴのようにブースターケーブルは使わず、マナックを入れ、プランデットから魔力を送った。これはエレルダスさんに教えてもらった起動方法だ。
イチゴのときのようにハードディスクが起動したときのような音がして、体が微かに震え出した。
マナ・セーラに魔力が回ったようでアルセラの瞼が開いた。
……エメラルドの瞳なんだ……。
イチゴは濃い青だった。なにか意味があるんだろうか?
「再起動確認。全ローカルに異常なし。情報結合不可。位置情報不明。マンダコウイチの生体反応なし。状況不明。エウロン首府長代理イチノセ・タカトに説明を求めます」
首府長代理? エレルダスさん、そんなことまでやってたんかい!
「情報容認。ルースフェンス開始」
「ルースフェンス開始」
インストール的な感じだな。
十秒もしないで情報を送り、アルセラが椅子から立ち上がった。
「命令権がマンダコウイチからイチノセ・タカトに移りました。行動名、アツコの基本情報をルースフェンスします」
「了解」
「ルースフェンス開始」
アルセラのコードネームがアツコって、光一さんの思い入れがある人だろうか?
アツコからの情報で光一さんの顔がわかった。
昭和感からオレより年配かと思っていたが、見た目から二十三、四歳って感じだ。若いな。オレもこのくらいに連れてこられたらもっと動けたんだがな。三十歳はキツいんだぞ。
「ルースフェンス終了。アツコ、待機」
「ラー」
そこは同じなんだ。
「タカト、どうなんだ?」
「オレの制御下に入りました。光一さんが目覚めたときのために譲渡しやすくしててくれました」
マサキさんの存在を知り、次の駆除員が現れたときのために命令していてくれたようだ。若いのに思慮深い人だったようだ。
「このロボットはアツコ。光一さんが名づけたようです。これからマルデガルさんに、いえ、萬田貞一さんに譲渡します」
その情報もエレルダスさんが入れておいてくれたようで、アツコの権利を萬田貞一さんに移した。
「命令権がイチノセタカトからマンダサダイチに移りました。権利者番号01マンダサダイチを確認。再起動します」
マルデガスさんの生体情報をインプットしたら再起動させて、マルデガスさんのアルセラとなった。
「マルデガルさん。あとはマルデガルさんが指揮してください。細かい命令をしなくてもアツコは自分で行動してくれますから」
マルデガルさんの行動や考えを徐々に学んでくれる。これで自我が目覚めたらターミネーターの世界に……なったんだっけな。まあ、マルデガルさんならアツコに負けることはないだろうよ。強さだけならマルデガルさんのほうが強いんだからな。
「マンダサダイチ。命令を」
「おれのことはマルデガルと呼べ」
「ラー」
「北にゴブリンの気配がします。アツコの扱い方を覚えてくるといいですよ。ただ、アツコが殺してもマルデガルさんの点数にはならないから注意してくださいね」
マルデガルさんにはプランデットを渡してある。アツコに教わりながら使いこなせるようになってください、だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます