第656話 ジェネスク男爵
リハルの町の町長は代々、萬田家から出ているそうで、ジェネスクの家名を持ち、男爵の位を持っているそうだ。
「マグレスク・ジェネスク男爵となるのですか?」
「ええ。ですが、普段は町長と呼ばれております。他の町も同じでしょう」
なるほど。町長が男爵なんて聞かないわけだ。町長呼びが広まっていたからなんだな。
「普段は町館に?」
それらしい建物なんてあったか? あまり印象は残ってないが。
「はい。あちらで生活し、こちらに帰ってくるのはたまにですね。なにかと忙しいもので」
オレにはなにをしているか想像もつかんが、リハルの町は魔物と戦う最前線。なにかと忙しいのだろうよ。
「忙しいところすみませんでした。マルデガルさんからご実家にロボットがあると聞いてお邪魔させてもらいました」
「ロボットをですか?」
「ええ。故障してなければ動かせると思います。最近、その時代を生きていたエルフが長い眠りから目覚めました。タチバナ・マサキと言う名に覚えはありますか?」
一族に名は伝わっているとマルデガルさんは言っていたが。
「名前だけは。あなたと同じ駆除員だとか。光一様も自分の前に駆除員がいたことに気がつき調べたと聞いております」
「やはり、百年毎に異世界から連れてきているみたいですね」
まあ、その時代に一人かはわからんがな。つーか、元の世界から拉致しすぎだろう! 人権無視にもほどがあるわ!
「光一さんは日記や記録は残していましたか?」
「いえ、詳しい情報も記録もありません。伝え聞いた話しか残っておりません」
そんな余裕はないか。オレも忙しくてシエイラに任せているんだからな。光一にはなにも言えないよ。
「イチノセ様は、この世界にきて何年になるのですか?」
「約一年ですね。真冬の山奥に放り出され、やっとのことコラウスに辿り着きました」
「光一様も最初は山の中に放り出されたと言ってました。そこから半年してコラウスに流れ着いたそうです」
オレと同じで弱いところからスタートだったんだ。ラダリオンに出会えただけオレはラッキーだったな。
「光一さんは、ずっとコラウスにいたんですか?」
「アシッカにもいったみたいですが、ほとんどはコラウスにいました」
「光一さんの最後を聞いてもよろしいでしょうか?」
重要な情報はそれだ。オレにも起こることかもしれないんだからな。
「詳しくはわかっておりませんが、ミジャーが襲来したときに傷を負ってしまい、治療の甲斐なく亡くなったそうです」
ミジャーか。バッタのような虫の群れのばず。それで怪我? 治療の甲斐なく? そこに重要な情報が隠れていそうだな……。
「領主代理からミジャーが発生するかもしれないことは聞いていますか?」
「はい。つい先日、城で注意勧告を受けました」
「女神の口振りから確定ではありませんが、夏、雨が少ないのならやってくるとオレは見ていいと思います。絶対に防げる対処法はないでしょうが、被害を抑える方法はいくつもあります。策は領主代理やマルデガルさんに話してあります。リハルの町としては食糧確保に集中してもらえれば助かります」
「食糧ですか?」
「オレはミジャーがどんなものか知りませんが、狙うのは若い麦でしょう。でなければ山を越えてやってくるとは思えません」
草なら山にたくさんある。なのに、山を越えてまでやってくるのは食うものが決まっているから。コラウスで大量にあるものと言ったら麦しかないだろうよ。
「オレは夏の前にアシッカに向かいます。コラウスは領主代理指揮の下、ミジャーに対処してください。セフティーブレットからはカインゼルさん指揮する部隊を残していきますので」
「……さすがだな。コラウスにきて一年もしないで掌握済みとは。ミジャーごときでは揺るぎもしないか。ミズホが認めるわけだ……」
支部長とも仲良くやっているのか。完全にリハルの町は町長に支配下に置かれてんな。
「コラウスが一体となれば大体のことは片付けられます。今からでも領主代理につくことをお勧めします。オレは領主代理から領主にさせます」
「させます、か。一連の流れを見ていたらウソとも思えないから笑えないな」
そのために損することでもしてきたのだ、領主代理にはコラウスを支配してもらうさ。
「そして、この度、マルデガルさんは女神によりゴブリン駆除員に任命されました。恐らく、ジェネスク男爵家はいろんな厄介事に巻き込まれるでしょう。これまでの駆除員のように。これからも繁栄したいのなら今から備えることです。今のところ、駆除員が五年以上生き抜いた者はいませんからね」
オレが史上初、老衰で死んだ駆除員となってやる。そのためなら労力は惜しまない。損することも厭わない。勝利は我に、だ。
「……マルデガルがですか……?」
「詳しいことはマルデガルさんに聞いてください。オレとは別として駆除員になったので、マルデガルさんのことは教えられてないので」
親族なんだからじっくり話し合ってください。オレはオレの家族がいるんでな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます