第652話 羨ましい夫婦

 領主代理の朝の業務が終わったらルースカルガンを呼び寄せた。


 ルースカルガンは迷彩機能があるので、透明化でき、反重力装置があるので近くで見ない限り街の者たちに気づかれることはないだろうよ。


 前にグリフォンのような魔物が襲ってきて台無しになった中庭は、まだ修復してなく、均したていどにしてある状態だ。


「なぜ直さなかったんです?」


「あれからそんな暇があったと思うか?」


 オレには暇はなかったが、別に修復する暇はあったんじゃないの?


「この時期に信用がおけん者を城に出入りはさせられん。辺境はなにかとゴブリンが入り込むからな」


 顔パスで城に入れるオレは信用されているってことか。


「エレルダスさん。プランデットで出入の管理ってできますか? その設定も」


「可能ですよ。プランデットがあれば」


 ってことで、ホームにあるプランデットを二十個ばかり取り寄せた。


「マイセンズはわたしが考えるより形を止めているのですね」


「気になるならいってみますか? 魔物の巣になっていますが?」


 グロゴールが倒れたならロースランやロスキートが戻ってきているかもしれない。が、あの頃の知識を持った人がいるならまたいく価値はあるんじゃないかと思う。


「お願いできますか。一度、自分の目で見てみたいです」


「わかりました。人を集めましょう」


 まずはプランデットを設定してもらおう。オレの知らない設定を知っているみたいだからな。


「なにかきたな」


 領主代理が空に目を向けた。


 オレも空に目を向けるが、なにも見えない。いや、微かに空が歪んでいる。ルースカルガンか。プレデターより科学が発展してないか?


「きましたね」


 反重力装置による重力の歪みを感じる。さすがに周囲に影響を与えるか。


 空間の歪みがシュンと消えてルースカルガンが中庭に着陸していた。


「……恐ろしいものだな……」


「どんなに技術が発展しようと人が追いついていなければ滅びるだけです」


 技術が恐ろしいんじゃない。それを使う者が未熟だから恐ろしいってことだ。


 ルースカルガンの格納ハッチが開き、ヤカルスクさんたちが出てきた。


「どうぞ、領主代理」


 もちろん、一人で乗せるわけではない。ハーフエルフの……なんだっけ? 絡みがないから名前を忘れました。


 領主代理は珍しそうにルースカルガンを見上げるが、恐れはなに一つ見せない。ほんと、肝が座っているぜ。


 さすがに操縦室には入れられないので、オレたちは格納デッキに備えつけられている折り畳みの椅子に座った。


「外が見たかったな」


「映像でよければ可能ですよ」


「頼む」


 プランデットをかけてもらい、エレルダスさんが遠隔操作して領主代理に外の風景を見せた、と思う。領主代理が「おおっ!」って驚いているからな。


 オレたちが向かっているのはミロイド砦。まだサイルスさんがいるので視察として向かっているのだ。


 オレらがいくことはミリエルから伝えてもらい、砦の南側を開けてもらっている。


 街とは違い、そう騒がれることも、ウワサが流れることもないだろうから通常飛行で向かい、指定した場所に着陸した。


 オレらがくるのを相当前から待っていたようで、タープが張られ、休んでいた様子が見て取れた。


「すっかり変わってしまったな」


「きたことあるんですか?」


「まだ少女だった頃にな」


 計算はしないでおく。まだ命が惜しいから。


「活動的な少女時代だったんでしょうね」


「将来は冒険者になろうと考えていたな。もっとも、暴れすぎて父上に王国兵団に放り込まれてしまったがな」


 それは前領主の苦労が垣間見れるな。


「ミシャ。とんでもないものに乗ってきたな」


「サイだって空を飛ぶものに乗っただろう」


「おれには才能かなかったから諦めたよ」


 そういや、マンダリンの練習してたが、いつの間にか乗っているとこ見なくなったな。諦めたんだ。


「とりあえず、砦に向かいますか」


 領主代理をパイオニア二号に乗せて砦に向かった。


 ここにいられる時間は一時間くらいなので、砦内を見てもらい、物見台に上がってドワーフの町の様子を説明した。サイルスさんが、だけど。


「本当に昔の面影はなくなったな。父上と一緒に魔物と戦った日が懐かしいよ」


「恐らく、またそんな日がくるかもしれませんよ。マガルスク王国がきな臭いですから」


「戦争か?」


「それはなんとも言えませんね。距離が距離ですし、道なき道を越えてこなくてはなりませんからね」


「お前はなにかあると踏んでいるのだな」


「ないのならないで構いません。ただ、備えることは今からやっておくべきです。後悔したくないのならね」


 なにかあってからでは遅い。なにかある前に動くべきだ。


「人材が不足しているこの状況では難しいが、やらねばならないか」


「そう難しく考えることはありませんよ。ただ、ドワーフたちに認めてやればいいだけです。この地をお前たちの故郷にすると。それでドワーフたちは命を懸けて守りますよ」


「ふふ。お前のそういうところが頼もしいよ。使徒でなければ将軍として迎えたかった」


「それはサイルスさんにお任せします。そんな柄じゃないんでね」


 全軍突撃! とか言う職業にはつきたくないよ。マッハで胃が溶けるわ。


「そうだな。お前はゴブリンを駆除していろ。コラウスを守るのはわたしの仕事だしな」


 まったく。頼もしい限りだ。


「では、次はニャーダ族の集落に向かいましょうか」


「わかった。サイ。頼むぞ」


「ああ、任された」


 公衆の面前で抱きつくお二人さん。羨ましい夫婦関係だよ。

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