第650話 物語になりそう
いつものように顔パスで進み、すぐに領主代理の前までこられた。
「警備、大丈夫なんですか?」
「わたしを殺せる賊がいるなら見てみたいものだ」
股間が縮むような笑みをみせた。こっわ!
「で、今日はそちらの方のことか。かなり高貴な方とお見受けするが」
アリサといい、領主代理といい、なんでわかるんだろう? オレにはさっぱりわからないんだけど。
「この方は古代エルフであり、マイセンズがあった時代に生きていた方です」
「マイセンズの生き残り、と言うことか?」
領主代理はピンとこないみたいだな。
「魔法で遥か長い年月を眠っていて、オレが目覚めさせました。つまり、約五千年前の方です」
「……壮大過ぎてあまりよくわからんが、お伽噺の住人ってことか……?」
「そう受け止めてもらって構いません。どちらにしろ現代エルフとそう変わりませんからね。生き物は五千年足らずでは別の生き物にはなりませんからね」
紀元前年前の人間と現代の人間が違ってたら学会が大騒ぎだよ。
「お初にお目にかかります。わたしは、エレルダス。エウロンの首府長として役目を持っていました」
「一都市の代表者って感じです。その都市がどれほどの力を持っていたかはわかりませんが、種族復興を願って眠りについた方。それなりの力を持っていることは間違いありません」
「なるほど。タカトが仲介者で助かったと言うことか」
ほんと、理解の早い人だよ。どんな頭の構造をしてんだか。
「わたしどもは今を生きる方々に敵意を向けることはありません。わたしどもが生きられる場所を少しわけていただけると助かります」
と、領主代理の目がオレに向けられた。お前の考えを話せ、って目だ。
「エレルダスさんたちは少ないですが、その技術力は都市の一つや二つ、簡単に滅さるだけの力を持っています。わかる者が見れば恐怖でしかありません。それを放置できる権力者はいないでしょう」
「そうだな。お前ですら恐怖の対象に見えるからな」
まあ、わからないではない。その力を見せてしまったんだからな。
「なので、領主代理個人でエレルダスさんの仲間を雇ってください」
「わたし個人か」
「ええ。コラウス辺境伯としてではなく、領主代理個人としてね。可能ですか?」
「可能だ。子飼いを持つのは貴族として当たり前のこと。つまり、個人の財産として扱われる。貴族は自分の財産を奪われることを嫌う。それは身内でも同じ。国は身内間の争いには介入しない」
それはそれで問題な気がするが、テメーんとこの問題にこちらを巻き込むなってことなんだろうよ。
「エレルダスさんたちは、空を飛ぶ乗り物を持っています。それを城に置かせてください。それがあれば領主代理は短時間でどの町にもいけ、午後のちょっとした時間にゴブリン狩りをすることもできますよ」
領主代理なら他にも活用法は考えつくだろうが、今はそれで充分だろう。この人は城の中で机に向かっているのは苦痛でしかないだろうからな。
「もし、内政でお困りでしたら補佐する者も紹介できますよ」
「それ、オレも欲しいです」
もしかすると、パソコンや紙を用意できるかもしれない。オレが出すものは十五日触らないと消えてしまうからな。
「わたしに売り込みにきたのだろう。横からかっさらうな」
そ、そうでした。セフティーブレットのことはこちらで解決するとしよう。
「わかった。わたし個人で雇い入れよう。だが、そちらが満足する金や待遇は用意できんぞ。そちらからしたらわたしたちなど野蛮人だろうからな」
「問題ありません。想定していた中で最良の部類です。いきなり文明ゼロから始める未来生活はしたくありませんからね」
ライトノベルのタイトルみたいなこと言うな。古代にはライトノベルがあったのか?
「それはわたしもしたくないな。酒のない人生なら早々に終わらせたいよ」
「それはオレも同じです」
仕事終わりのビール。それがあるから明日もがんばろうと思えるのだ。
「わたしもです」
と、エレルダスさん。やはり、この人は酒豪だ。それは領主代理も悟ったようで、机の上を片付け始めた。
「よし。出会いを祝って乾杯でもするか」
「なにを飲みますか?」
「乾杯はスパークリングワインだな。あるか?」
「よく冷えたものがあります。ツマミはミサロにお願いしてあるので持ってきますね」
領主代理はよく飲んでよく食べるのだ。
「それはいいな。唐揚げはあるか?」
「タルタルソースたっぷりかかった唐揚げをお願いしました」
「うむ。ミサロに礼を言ってくれ。あれは至高だ」
「ミサロはあげませんからね」
もうなくてはならない存在。奪う者がいたらたとえ領主代理でも許しませんよ。
「取らんから安心しろ。うちの料理人をそちらに出しているからな」
そんなことしてたんかい。オレ、聞いてねーよ。
「そんなことより酒もたくさん持ってこい。今日は朝まで飲むぞ」
「それはいいですね」
ノリノリな領主代理にノリノリで返すエレルダスさん。なんだか混ぜるな危険な二人なような気がしてきた。
いや、大丈夫。今のオレは巨人になれる指輪をしている。底無しにだって負けないさ。
別室に移り、ホームから酒や料理を運び出し、それぞれがそれぞれのグラスにスパークリングワインを注いだ。
「この出会いに」
領主代理の音頭にオレとエレルダスさんも「この出会い」にと返した。
「「「乾杯!」」」
さあ、宴と書いて地獄と読む飲み会の開始だ。
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