第649話 毒は毒をもって制す

 エレルダスさんたちを乗せたルースカルガンが飛び立った。


「アリサ。よろしく頼む。シエイラには伝えてあるから」


「わかりました」


 アリサたちもマンダリンに乗り込んで飛び立った。


 視界から消えるまで見送ったら、イチゴをホームに戻した。


 一応、イチゴ用の待機椅子に座らせ、待機モードに移行させた。これで魔力を十パーセントまで落とせるんだよ。


 ウエスでイチゴを拭いてやる。メンテナンスしてやれないのが申し訳ないよ。いつか山崎さんに会ったらイチゴ用のメンテナンスルームを創ってもらうとしよう。


 綺麗にしたら外に出た。


「お待たせ。地下にいくぞ」


 簡易基地──ベースキャンプを拡張するキットを運んで欲しいとエレルダスさんにお願いされたんだよ。


「プレシブスは出さないの?」


「まだ置き場所を考えてないからもう少し先だな。扱いは慣れたか?」


「うん。パイオニアより簡単だったよ」


 それでマンダリンを操縦できないのが不思議なんだよな。なんの作用が働いてんだ?


「しかし、地味に辛いな、地下まで下りるの」


 体力強化と思えばまだ許せるが、毎回となると面倒で仕方がないよ。


 四十分くらいかかって地下倉庫に辿り着いた。ふー。疲れた。


 少し休憩してからホームに入り、パレットとフォークリフトを出してきた。


 エレルダスさんから転送された欲しいものリストを確認。ボックスラックから出してくる。


「水を浄化する装置とトイレか。エルフも食ったら出すんだな」


 昭和のアイドルはトイレにいかないと父親が言ってたが、なんとなくわかるな。エルフは美形ばかり。トイレにいくとか想像もしなかったもんな。


「これはシャワーか。風呂には入らないのか?」


 ミシニーも最初の頃は体を拭くかシャワーを浴びるていどだった、はず。そこまで意識してなかったので、うっすらとしか記憶にございません。


「タカト。あたしたちの家にもこのトイレ欲しい。たぶん、もう消えていると思うから」


 あ、もう十五日以上帰ってないしな。自分たちで買ったのは消えているか。


「そうだな。まだあるし、一つくらいもらっても構わないだろう」


 全部で二十はある。出すのは四つだし、一つもらっても文句は言われないだろうよ。まあ、一応、断りは入れるけど。


 予定より多くなったが、すぐに出すもの。ミサロにため息をつかれる前に出すとしよう。


「よし。戻るか」


 またくることになるだろうから余分に出したものはそのままにして、上に向かった。


 山頂の洞窟までくると、ニャーダ族の男が一人いた。どうかしたのか?


「マルデガルが先に帰るそうだ」


 その報告を伝えるためにきてくれたようだ。律儀だな。


「わかった。ありがとな。じゃあ、オレらは館に帰るよ。そっちはどうする?」


「巨人の代表がくるそうだからおれたちは残るよ。残してきた者を頼む」


「了解。任された」


 そう了承し、ブラックリンを出してきてメビと館に飛んだ。


 館に到着すると、なにやら大賑わい。巨人の奥様連中も集まっていた。


 その中に降りるのは危険なので、少し離れたところに降りて館に向かった。


「マスター」


 オレに気がついたシエイラが駆け寄ってきて状況を教えてくれた。


 古代エルフが住む場所は開墾している場所に決め、巨人に道を整備してもらっている。今は巨人たちにキャンプベースを運んでいるところで、運び出したコンテナを開いて整理しているそうだ。


 なにもここでなくてもと思ったが、キャンプベースは五人しか住めないようで、軍人系の者は職員用の宿舎に住むそうだ。


「空になったルースカルガンを別の場所に移さないとダメだな」


 いつまでも館の前に置かれたら邪魔でしかないし、そう頻繁に使うものではない。少し離れても構わないだろう。


「オレも少し乗ってみるか」


 ルースカルガンの情報はヤカルスクさんから転送してもらった。プランデットのサポートがあるなら問題なく飛べるだろうよ。


「そうか。城に一機置けばいいのか」


 ルースカルガンがあればいつでも領主代理を連れ出せるし、エルフの就職口ともなる。それに、捕まえたゴブリンを運ぶのにもちょうどいいじゃない。


「シエイラ。オレは城にいってくるよ。ルースカルガンを城に置けるか交渉してくる。たぶん、いや、また酒に付き合わされるからホームに入れるかどうかわからないからよろしく頼むよ」


 あの人もストレスが溜まっている。たまに酒でも飲まないとやってられない。その発散に付き合わされるんだよ。酒は一人で飲んでも美味しくはないからな。


「……無事、帰ってきてね……」


 シエイラも付き合わせれて丸一日城に監禁された経験を持つ。なんだかトラウマになっているっぽいよ。


「ああ。巨人になれる指輪をするから大丈夫だよ」


 ポケットから指輪を出して指に嵌めた。


 城にいく前にエレルダスさんにルースカルガンを城に置くことを説明する。


「わたしも連れてってください。わたしからも説明したいので」


「エレルダスさんは、お酒は飲めますか?」


 エルフは酒好きだが、古代エルフはどうなんだろう?


「嗜むていどには」


 オレの勘が言っている。これは絶対、酒豪だ。悪質なほうに。


「……ま、まあ、それなら大丈夫でしょう……」


 毒には毒をだ。この人ならあの領主代理に対抗できるだろうよ。


 ブラックリンをホームに片付けたらパイオニア五号を出してきて城に出発した。

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