第648話 ロマン装置

「……本当にルースカルガンがある……」


 そりゃ信じられないわな。あれだけの質量をあそこから運び出せるなんて神でもなけりゃ不可能だわ。


 ……それだけの力があってゴブリンを駆除できねーってなんだよって話だぜ……。


 ダメ女神に理不尽を説いたところで「そんなの数億年前に捨てました~」とか言われたら憤死してしまう。サラッと流しておけだ。


「開けますか?」


 緊急開放装置があるが、開けたら二度と閉まらない。他に開け方なんてあるのか? オレの記憶にはないが……。


「問題ない。眠る前に入る場所を造っておいたからな」


 ルースカルガンの下に潜り、ないはずのハッチを開けてしまった。


 ヤカルクスさんが中に入り、しばらくしてルースカルガンを起動させた。


 元の世界の航空機とは違い、エンジン音は静かだ。自動車のエンジンをかけたくらいだろうか? 古代エルフの乗り物はすべてエコだよな。


 後部ハッチが開き、ヤカルクスさんが出てきた。


「なんのコンテナですか?」


 格納デッキには白いコンテナボックスが収まっていた。


「起きた世界がどうなっているかわからないからな、密封式の基地だ」


「このまま出せるんですか?」


「ああ。出しても大丈夫か?」


「構いませんよ。ここは巨人の村なので移動も簡単でしょうからね」


 巨人が二人もいたら動かせるんだろうよ。


「巨人も生き延びているのか。さすがに滅びたと思ったんだがな」


「あなた方が巨人を生み出したので?」


「いや、前文明の種族だ。この大陸にはいなかったんだが、おれらが滅んで流れてきたのか?」


 エルフの前は巨人がこの世界を支配していたってことか? 巨人、よく生き延びたものだ。この世界は世界大戦や種族間戦争はなかったのか? ダメ女神が言うやり直しってなんなんだよ?


「この世界は歪ですね」


「ああ。おれらの時代にも言われていたよ。まともな進化を辿ってないってな。だが、神に干渉された世界なら納得だ。すべてのことに神が介入しているからな」


 まあ、あのダメっぷりではさもありなん。有能な女神なら三回も世界をやり直してねーよ。


「コンテナを出す」


 そんなことはあとだと、ルースカルガンからコンテナを出した。


「すぐ発進できますか?」


「問題ない。すべて正常だった」


「では、いきましょうか」


 操縦室に移り、オレは副操縦席に座った。


「単純な造りですよね」


「プランデットに表示されるからな。操縦計器は簡素化されているんだよ。お前の時代はどんなものなんだ?」


「今度、書物を見せますよ。オレの世界はヤカルクスさんの時代より三百年は遅れていると思います。世界の隅々までいけるようになりましたが、宇宙には選ばれた者しかいけませんでしたから」


「一番文明が輝いていた時代だな。そこで間違えるとおれらのように滅びるだろうよ」


「種族に関係なく、同じ道を辿るものなんですね」


「そうだな。今度は間違えたくないものだ。よし。発進する」


「建物を吹き飛ばしたりはしませんか?」


 結構凄い噴射をする機体なんだが。


「その辺も改造してある。滑走路がないところに降りる可能性もあったからな。反重力装置、起動」


 さすが古代エルフ。ロマン装置を発明しているよ。


 ふんわりと体が浮かび上がり、慌ててシートベルトを装着した。先に言ってよ!


「これ、体に障害とか起こしませんよね?」


 反重力装着の情報はなんもないんですよ。


「確かめている時間はなかった。だが、反重力装置で死んだヤツはいないから大丈夫だろう」


 よし。降りたら回復薬小を飲むとしよう。


 ルースカルガンがゆっくり上昇していき、百メートルほど上がったらメインスラスターが火を吹いた。


 反重力装着が切れたのか、体重が戻り、シートに沈み込んだ。超技術のクセに乗り心地ワリーな。乗り物に弱いヤツなら吐いているぞ。


 ブラックリンとは速度が違うので十五分もしないで岩山が見えてきた。


「こいつの航続距離はどのくらいなんです?」


「改造したからそんなに飛ばないが、千キロはいけるはずだ」


 千キロか。確かに飛ばないな。通常型なら三千キロは飛ぶのによ。


「魔力消費も凄そうですね」


「五百回は飛行はできるマナックは用意した。悪いが、また倉庫から出してくれ」


「マナックを造る装置はないんですか?」


「かなり巨大な装置が必要だからな、用意はしなかったよ」


 ハァー。これからも山崎さんを頼るしかないのか。またビールでも送っておくとしよう。


「着陸できますか?」


「さすがに平行に着陸はできんが、乗り込むだけなら問題はない」


 また反重力装置をオンにしたようで、体がふわっと浮かぶ感じがしてルースカルガンがゆっくりと降下していき、洞窟の前に着陸した。


「お見事」


「ふふ。どう致しまして」


 サムズアップで賞賛したら、ノリがいい人のようでサムズアップで返してきた。


「おれが安定させている。悪いが、エレルダス様たちを誘導してくれ」


 まあ、右前に傾いている。怖くて離れられないわな。


「わかりました。速やかに機乗させます」


 シートベルトを外し、反重力装置が起動している中、格納デッキに向かった。

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