第647話 ルースカルガン(小型艇)
朝、目覚めたらそのまま外に出てみる。アリサから緊急の連絡がないかを確かめるためだ。
館に入り、夜番の職員から連絡がないかを尋ね、なにもないと言うことなのでホームに戻った。
朝飯をいただいたらブラックリンでニャーダ族の集落に向かった。
本当はカインゼルさんの様子を見にいきたいが、イチゴを回収するのと小型艇の操縦ができる者を連れてくるのが先だ。
目覚めたあとに使おうと思ってコールドスリープ装置の下に入れておいたのなら、操縦できるヤツがいるってことだ。
小型艇を操縦する情報はあってもさすがに技術がなければ怖くて動かせない。間違って落とすくらいなら操縦できるヤツに任せたほうがいい。
集落を旋回し、まだエレルダスさんたちはきてないようなので、山頂に機首を向けた。
山頂にはエルフの何人かが出ており、ニャーダ族の姿は見て取れなかった。ゴブリン駆除にいったのかな?
周辺に意識を向けると、ニャーダ族の気配を感じた。じっとしていられなかったか。
洞窟の前に降下すると、エレルダスさんたちが外に出てきた。
「昨日、なにかありましたか? 凄まじいまでの転移震を感知したのですが」
プランデットはそんなことまでできるのかよ。オレの記憶にはないぞ。
「女神が地下から小型艇やマンダルーガーを出してくれました。恐らくそれでしょう」
サラッとマンダルーガーも加えておいた。
「……神がそんなことを……」
「素直にゴブリン駆除をやっていれば融通を利かしてくれるんですよ」
素直にゴブリン駆除をやらなかったときのことは考えたくないがな。
「外の空気を吸って体調はどうですか? なにか変化はありましたか?」
「問題ありません。わたしたちは抵抗力が強いので」
風土病にも勝てるのか。古代エルフはスゲーよ。これで文明を続けてくれてたらオレがこの世界に連れてこられることもなかったのにな。
「小型艇を操縦できる者はいますか? この時代に順応できたのなら場所を移そうと思うのですが」
「わかりました。ヤカルスク。ルースカルガンをお願いできますか?」
あの小型艇、ルースカルガンっていうんだ。
「わかりました」
答えたのはエルフの男で、マンダリンに跨がっていた。
「アリサ。悪いが、港からイチゴとメビを連れてきてくれ。ミリエルがイチゴを使いたいんでな」
オレがヤカルスクさんを連れていくのでイチゴのことはアリサにお願いするとしよう。
「ヤカルスクさんは、マンダリンに乗れるんですか?」
「おれは軍人だ。大抵のものは乗りこなせる」
なにか雰囲気が違うと思ったら軍人だったのか。そう言われたら強そうに見えてきたよ。
「黒いマンダリンもで?」
「……愛機を残せなかったのが残念だよ……」
オレが乗っているブラックリンを悲しそうに撫でていた。
「では、マイセンズで手に入れたものをヤカルスクさんに渡しますよ」
「まだあるのか!? ここにあるのも奇跡だと言うのに」
「これを混ぜてあと十台はありますよ」
ホームには三台。あとはアシッカの倉庫に入れてあるよ。一台は壊れたので部品取り用にしてあります。
「……じゅ、十台も……」
「新品なので慣らしは必要ですが。ちょっと待っててください」
ホームに入り、ブルーシートでくるんでいたブラックリンを引っ張り出し、マナックを入れて起動させ、五分くらい暖気(必要はないんだけどね)してから外に出した。
「おおっ! 本当に新品だ! 型番が2000番台だと!? 特殊戦軍仕様じゃないか! マジかよ!」
エルフの世界にもマジとかあるんだ。いやまあ、今風に脳が自動翻訳されてんだけどね。
「あんた、よく乗りこなしているな。特殊戦軍でもエリートしか乗りこなせないものだぞ」
「文字通り、女神にマイセンズの情報を脳に焼きつけられたんですよ。乗りこなせているのはプランデットのお陰です。これなしには飛ばせません」
「神は随分とお前に気をかけているんだな」
「迷惑この上ないですけどね」
気をかけられて危うく死にそうになるのなら放っておいてもらったほうが健やかにゴブリン駆除をやれるわ。
「プランデットです」
「これも最新のだな。使いこなすのに時間がかかりそうだ」
やはりプランデットって使いこなすのに手間がかかるんだな。必要な機能を使っているミリエルが凄すぎるよ。
「オレのプランデットで操縦を奪うことができます。思い切って飛んでもらっても構いませんよ」
「飛ぶくらいなら助けなどいらん。これでもエースだからな」
ブラックリンに跨がると、マナ・セーラを唸らせ、なんの躊躇いもなく離陸した。
「……凄い。プランデットなしで飛んでいるよ……」
特別仕様で手動で調整するのは至難に近い。それを手動で飛ぶとかバケモノだよ!
「エレルダスさん。ルースカルガンで戻ってきます。用意をしててください」
「わかりました。ヤカルスクは少々難がある者ですが、あなたなら問題なさそうですね。よろしくお願いします」
「ええ。あのくらいの性格なら問題ありませんよ。では」
ブラックリンに跨がり、最大速で飛ぶヤカルスクさんのあとを追うべく離陸した。
「ヤカルスクさん。オレが先導します。ついてきてください」
「ラー!」
イチゴ以外から聞くとなんか違和感があるな。
ヤカルスクさんが後ろについたのを確認したらラザニア村に機首を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます