第646話 ジレンマ
「お疲れ様でした」
少し疲れたロンダリオさんたちが拠点に戻ってきた。
「稼いでいるようですね」
「ああ。嬉しい悲鳴ってヤツかね。アシッカに戻ろうかと話し合うと、なぜかゴブリンどもが集まってきやがるよ」
「オレも経験ありますよ。じゃあ、腰を据えるかと覚悟したらまったく出て来なくなるんですよね」
まさにゴブリンのジレンマ。
「まさにそれだ。どうしたもんかと決めかねているよ」
「それならもうしばらくここにいてください。ロンダリオさんたちに渡すものがあるんで」
そう告げてホームからマンダルーガーを出した。
「新しいパイオニアか? なにか違うような気もするが」
さすがゾラさん。魔法使いから逸脱しようとしている人だ。
「これは古代エルフの車です。マイセンズとは違う遺跡で見つけたものです。これをロンダリオさんたちで使ってもらおうと思いまして」
「それは助かるが、いいのか? かなり高価なものなんじゃないか?」
「高価は高価ですが、これだと遠く離れた場所にいても連絡が取れるんですよ」
ゾラさんなら理解できるだろうと、首を傾げる四人は置いておき、マンダルーガーの使い方を教えた。
「なるほど。大体はわかった。しかし、凄いな。鳥の目で地上を見るか。マイセンズで古代エルフの凄さを理解したつもりだったが、一割もわかっていなかったんだな」
鳥が少ないのに、鳥の目とか表現するゾラさん。この人、ほんとスゲーよ。人工衛星なんて概念もないのによ。
「運転はパイオニアとそう変わりはありません。ハンドルについているボタンで切り替えるくらいですね。あと、EARも渡しておきます。ここにルンを二つセットできます。マナックはコンテナボックスに入っています。アシッカとコラウスの間を二往復できる量です。半分を切ったらセフティーブレットの支部に寄ってください」
アシッカとミヤマラン間だと走れないが、ロンダリオさんたちなら山脈を越えるくらいなんでもないだろうよ。
「そうだ。バイクも渡しておきますよ」
ホームからKLX230を引っ張ってきた。
「マンダルーガーは四人乗りですし、誰かバイクを運転してみませんか?」
「おれが乗る!」
と、ミセングさんが手を挙げた。オレとしては斥候担当のマリットさんかと思ったんだがな。
「まあ、ミセは馬に乗りたがっていたしな」
馬とバイクは違うような気もするが、熱意は大切だ。この五人なら運動神経は問題ないからな。
「なるほど。パイオニアより簡単だな」
パイオニアもそう難しくはないと思うんだが、車やバイクがない世界の人。インスピレーションで乗れるとわかるんだろうよ。適当だけど。
運動神経がいい人は初めてのものでも乗りこなせる理不尽。一月もしないでオレを追い越しそうだぜ……。
とは言え、道もないところで乗るのは技術がいる。辿々しく拠点の周りを走っていた。
「タカト。もう少し教えてくれ」
ゾラさんに呼ばれ、助手席に乗り込んでコンソール系の扱いを教えた。
暗くなるまで教え、ミセングさんも慣れてきたのでホームに帰らせてもらった。
「雷牙。また頼むな。オレは館に出るから」
万が一のときのために雷牙にはホームに残っていてもらったのだ。
「わかった」
「あ、そう言えば、アルズライズとビシャがいなかったが、どこかにいったのか?」
「商人の護衛でアシッカにいったよ」
ノーマンさんか? まあ、あの二人が護衛しているなら心配することはないな。もうしばらく任せるとしよう。
雷牙が外に出たらタイミングよくラダリオンが入ってきたのでダストシュート移動してもらった。
「ん? ここはどこだ?」
ラザニア村周辺なのは間違いないが、出たそこは森の中だった。ゴブリン駆除でもやっていたのか?
まあ、請負員の気配がわかるのだから迷うこともないし、魔物の心配をすることもない。散歩感覚で館に向かった。
「あ、ここは開拓予定地か」
将来、畑にしようとして巨人に木々を伐ってもらっている場所だ。
「館のほうも見て回らないといけないな」
と思ってもゴブリンやなんだで館にいられないでいる。椅子に座ってふんぞり返っていたいよ。
館に着くと、巨人たちが小型艇の周りに集まっていた。
「あ、タカト。こりゃなんだ? 家か?」
見たこともないとなんなのか想像もできんか。
「空を飛ぶ乗り物だよ。扱い方を覚えたら飛ぶところを見せてやるよ」
身を縮めれば巨人一人なら格納デッキに入るんじゃなかろうか? まあ、人権無視も甚だしいからやらないけどさ。
「まだ動かせないから早く家に帰って一杯やったらどうだ」
オレは先に一杯やるよとホームに入った。
そのままシャワーを浴びにいこうとして立ち止まり、ガレージの片付けをすることにした。次はプレシブスを入れなきゃならない。その場所を作っておかなくちゃな。
「あ、タカトさん。明日、イチゴを使ってもいいですか? オーグの群れがうろついているみたいなんです」
「応援は必要か?」
「大丈夫です。サイルス様もいますし、イチゴにオーグの位置を示してもらえばそう苦でもないですから」
「そっか。オレは大丈夫だからイチゴは使っていいぞ。ただ、遺跡に置いてきたから午後にはホームに入れておくよ。夕飯後、ミーティングするが大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。双子もミロイド砦での生活に慣れたみたいですから」
あーメー&ルーのことも聞いてなかったな。ミーティングのときに話を聞くとするか。
ミリエルは中央ルームに向かい、オレは夕飯までガレージの片付けを行った。
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