第640話 プレシブス

 朝、起きてすぐ外に出た。


 これと言った変化もなく、銃を撃った臭いもない。何事もなかったと判断したらホームに戻り、用意を整え、朝飯を持って外に出た。


「マスター、おはようございます」


 見張りに立っていた者がオレに気づいて挨拶してきた。


「おはようさん。朝飯、食えるか?」


「はい。いただきます」


 ってことで、おにぎりを渡してやった。


 何事もなかったことを聞き、通路の奥に向かうと、アリサたちは起きていた。


「おはようさん。朝飯を食ったらミーティングをやるぞ」


 マルガデルさんもセフティーホームから出てきたので、皆で朝飯をいただくことにした。


 研究施設を探索することは昨日のミーティングでも話したが、朝飯後のミーティングでも皆に話した。


 ホームから運んできたホワイトボードに研究施設の図を描き、班分けして探索する場所を振り分けた。


「扉は空気が漏れないほどぴっちり閉まっているが、よく見たらうっすらと線が走っている。見つけたらナイフで削ってわかりやすくしてくれ」


 オートマップで部屋があることはわかるが、壁が石化してドアがどこかわからなくなっているのだ。まったく、古代エルフもわかりやすく造ってくれたらいいのによ。ドアの位置が真ん中だったり端だったりするんだよな。


 食休みしたら整備路を使って下に向かった。


 おおよその見取図は紙に描き、ラミネートして皆に渡したので、オレは倉庫を調べることにした。なにか、倉庫の奥に大きな空間があるんだよ。


「ここになにかあるの?」


 うおっ! メビ、いたんかい! 気がつかんかったわ!


 あ、いや、メビは班分けしてなかったな。見張りをお願いしていた気でいたよ。オレ、抜け作くん!


「かなり広い空間がその先にあるんだよ」


 オレたちの前にはシャッターが聳え立っている。恐らく、物資搬入庫だと思う。


 これだけの建造物をマンダリンが通るのが精々な通路を使って、物資を運び入れるなんて拷問すぎる。作業員、ブチ切れるぞ。


 古代エルフの技術力を見ても必ず物資搬入路は造らなくちゃならないし、荷物を降ろす場所は必要だ。それはフォークリフトが証明している。超文明ではあるが、ナノマシンでなんでも造っちゃうほどオーバーテクノロジーではない。


 動力源がないのでシャッターは開けられないが、非常口はあり、手動操作も可能。非常口横にかけられたハンドルを使って非常扉を開いた。


「……まさか港があるとはな……」


 マイセンズにあった港のようなものがあり、五十メートル級の輸送船が半分沈んでいた。


「……出入口も崩れているか……」


 二百メートル先にコンクリートのようなもので造られた出入口があったが、風化で崩れたんだろう。完全に塞がれていた。


「これじゃ、使えるものはなさそうだな」


 いや、輸送船だけってことはないか。船が通る通路を管理したり点検したりする小型艇があるはずだ。ただ、頂上から二百メートル地下に港ってのが意味わからん。この山、周辺を見渡せるほどの標高だぞ。


 疑問に思いながら港を探して回ると、それっぽい空間を発見した。


「非常口がないな。こっちからは入れないのか?」


 オートマップを見ながら探すと、地下からいけるようだった。


「変な造りになってんな」


 増設したのかな? なんで地下からいく造りになってんだよ?


 文句を言う相手もいないので、とりあえず向かってみると、ビンゴだった。長さが五メートルほどある小型艇六艘が浮かんでいた。


「水は濁ってないな。どこかで繋がってるのか?」


 それなら小型艇も風化しててもおかしくないんだが、まあ、古代エルフの技術だと納得しておこう。


「このくらいならホームに入れられるな」


 ミサロに怒られるのでまだ入れたりはしないが、このサイズなら巨人の手を借りたら館の前に置けるだろうよ。


「プレシブスか」


 記憶を探ったら小型艇の名前が出てきた。


 四人乗り用の巡視艇であり、武装はない。性能も元の世界のモーターボートと大差ない感じぽかった。


「湖があれば試し運転ができるんだがな」


 コラウスに湖がないのが残念だよ。


「いや、そうでもないか」


 シャッターの向こうは港だ。端まで二百メートルもある。試し運転するくらいなら充分な広さだ。


「メビ。戻るぞ」


 港に戻り、装備を極力外し、ホームに入ってウェットスーツに着替え、ヒートアックスを持って出てきた。


「泳ぐの?」


「いや、巨人になってあのシャッターを破るんだよ」


 この状況で泳ぐわけないやろ。メビ、たまにトンチンカンになるよな。


 準備運動したらヒートアックスをつかんで巨人になった。


 金床を持って巨人になったときのようなエネルギーを持っていかれる感はない。


 よし! と水の中に入るが、これと言ってヌメりはなく、沈殿物が舞うこともなかった。循環しているのか?


 深さは太もものところまでだから二メートルくらいだ。ここはそんなんじゃないのかな?


 ゆっくりと進み、ヒートアックスのスイッチをオン。二千度にしてシャッターに振り下ろした。


 そう強度はないようで、簡単に斬り裂けた。


 シャッターを破り、水をかけて熱を冷ましたら無理矢理抉じ開けた。


「こんなものか」


 水の中から出て巨人化を解いた。


 ぐぅ~! と腹の虫が鳴いた。まったく、巨人は燃費が悪いぜ。

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