第639話 交換日記

 岩山の頂上に着いたらアリサたちとミーティングを行ってからホームに入った。


「あ、タカト。これ、どうするの?」


 マナックの山の前で途方に暮れるミサロ。今すぐ片付けるから怒らないでね。


「ガレージを拡張するよ。フォークリフトをもう一台、入れたいからな」


「さすがにわたしだけでは管理できないわよ」


 ほんと、いつもがんばってくださるミサロ様々ですよ。


「これからは五人で分担して管理するようにするよ。請負員も増えたし、別の駆除員が選ばれたからな。ゴブリン駆除を抑えていこう」


 コラウスでのゴブリン発生率は確実に落ちている。それは報酬から推測できる。ぽつらぽつらとしか入らず、夜はまったく入らなくなっている。ミジーがやってくるときが稼ぎ時だろうよ。


「通路を伸ばして別の空間に倉庫を築こうと思う。ガレージを拡張していっても管理が大変になるだけだからな」


 一体化していればすべてを触ったことになる。それなら倉庫を築いて一括管理したほうが楽なはずだ。まあ、倉庫はオレが担当することになるだろうけどな。フォークリフトを運転できるの、オレとミリエルだけだし。


 ガレージ拡張は安くできるので、一千万円を使ってフォークリフトが通れる通路を作り、奥にバスケットコート一面分の空間を拡張させた。


「一千万使ってもこれだけか」


 まあ、一時避難的ホームを基地化してるオレが間違っている。費用がかかるのは仕方がないだろう。


「女王を倒した分は使ってしまったな」


 別に損した気分はない。これは、ふって湧いたボーナス。惜しみなく使えだ。


「マナックを大量に手に入れられたことが最大の成果だな」


 これで魔石をマナック製作に回すこともなくなった分、ルン(EARのバッテリー)の充填に回せる。なにより、資金調達に使えるのがいい。ミヤマランでたくさん売るとしよう。


 パレットを倉庫に運び、ガレージと玄関をすっきりさせた。


「でも、さすがにマンダリンは入れられないな」


 ガレージの三階部分にはブラックリン三台とマンダリン二台を入れてある。他にウルトラマリンが二台。トレーラーやリヤカーで埋められている。二階は銃器や弾薬でいっぱいだ。


 一階はパイオニア四号と六号、KLX230だけだが、単管パイプやクランプ、コンパネとかある。出し入れをスムーズにするためにスペースは空けておかないとダメだ。今度はフォークリフト二台になるし。


「残り一千万か。夏まではこのままだな」


 コラウスはマルガデルさんに任せる方向で進んでいる。また群れが現れない限りこのままだろうよ。


「いや、酒の消費が早いから減る一方か」


 これは夏になる前にアシッカに向かわなくちゃならんかもな。しばらく銃器の使用は止めてEARにするか。


 ボックスロッカーにルンと魔石を入れて、山崎さん宛の手紙を書いた。


 なんだか交換日記をやっているみたいだが、同じ日本人で同年代。お互い、仲間にも話せないことがある。いろいろ溜まった感情を吐き出しあっているのだ。


「山崎さんも仲間が増えて大変そうだな」


 あちらもセフティーホームに五人しか入れないみたいだが、リミット様の計らいか、それとも引っかけか、仲間は何人でもよく、ただ、セフティーホームには五人しか入れない仕様だったみたいだ。


 それはそれでどうかと思うが、山崎さんの仲間には女王がいるようで、その人が上手く仕切っているようだ。


 近況を書いたらボックスロッカーに入れた。お互い、がんばるとしましょう。


 中央ルームに移ると、もう夕飯の用意ができていた。


「雷牙はまだか」


「今日は外で食べるそうよ。猪をたくさん狩ったから丸焼きにするんですって」


「丸焼きはニャーダ族のご馳走みたいだしな。てか、猪、増えてないか?」


 もしかして、ゴブリンを駆除しすぎたから猪が増えたのか?


「そう言えば、館の周りにも猪が出始めているって聞いた」


 とは、ラダリオンだ。


「なんか被害は出ているのか?」


「皆のお腹に入った」

 

 うん。被害が出ているのは猪のほうか。じゃあ、問題ないな。


「ミロイド砦でも猪を狩ったと耳にしますね」


「そっちもか。あまり増えると畑に被害が出るかもしれないな。増えたら冒険者ギルドに討伐依頼とか出るものなのか?」


「そうね。ここ何年かはなかったけど、前は街の近くまで現れてよく依頼は出てたわ」


「やはりゴブリンがいなくなって戻ってきた感じか。となると、元の状態に戻ってきているんだな……」


「どういうことなの?」


「十六将のなんとかがくる前のコラウスに戻りつつあるってことだ」


「つまり、ゴブリンが減るということですか?」


 さすがミリエル。理解が早い。


「ああ。夏の前にアシッカに移ることを考えないといけないな」


「拠点を移すんですか?」


「いや、オレたちの拠点はあくまでもコラウスだ。移ることはないよ。出張って形が多くなるがな」


 苦労して築いたオレたちの生存圏。拠点を動かすことはない。


「皆で行動することは減るが、道がよくなれば移動も楽になる。パイオニアやマンダリンを扱える者を増やしていく。やりたいってヤツがいたら積極的に誘ってくれ」


 これからは移動力が物言う段階。遠くのゴブリンを駆除し尽くす。

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