第641話 コールドスリープ

 ホームに戻って腹一杯食ってきた。


 まったく、巨人になれる指輪も調整が面倒だぜ。どうせなら数値化して欲しかったよ。


 缶コーヒーを飲みながらプレシブスに乗り込む。


「運転できるの?」


「ああ。マイセンズにもあったみたいだからな。情報は頭に入っているよ」


 ほんと、オレの頭大丈夫なのかな? ダメ女神がなにかしたようだが、世界を何度もリセットしている存在。変なことになってても不思議じゃないわ。


 まあ、障害が残るようなこともないし、考え方が変わったってこともない。こうしてプレシブスを操縦できるんだからよしとしよう。


「機械は何千年も残るのに、使う側が先に滅んでしまうか。諸行無常だな」


 諸行無常を詳しく説明してみろって言われたら困るが、そんな感じだと察していただければ幸いです。


 長く使っていた感はあるが、スイッチを押すとマナ・セーラ(エンジン)が動いてくれた。


 人型に進化すると、操縦法も似てくるんだろうか? 前進後進のレバーがあり、ペダルを踏むことで移動。ハンドルで方向を変える。ただ、魔法を発展させた種族。魔力を覆って潜水まで可能にしてたりするんだよな……。


 これもプランデットと連動できるタイプのようで、かなり細かな操縦や荒い操縦まで可能にできた。


「タカト、あたしにもさせて! これなら運転できる気がする!」


 どういう基準かわからんが、やりたいってんならやればいいさ。小型艇は二艘もあれば充分。あとは壊れても惜しくはないさ。


 岸壁に寄せ、メビに操縦席を譲った。


「オレは探索の様子を見てくる。無茶しないていどに練習してろよ」


「了ー解!」


 なんか不安なのでホームからイチゴを連れてきて見張らせることにした。


 港から内部に向かい、オートマップを起動させた。


 あまり探索は進んでないみたいだが、地下に進んでいる通路、貨物用と思われるエレベーターが四つほどあった。


「避難路はこれか」


 誰かが見つけて開けたのだろう。今も地下に向けて下りていた。


「変な造りだ」


 なんだかまるで思いつきで造った臭いがする。古代エルフもなんらかしらの問題を抱えていたのかもしれんな~。


 オレも老衰で死ぬなら組織として考える必要がある。今はいいが、十年後、二十年後を見てやっていかないと派閥争いで壊滅する恐れがある。


 困ったことにセフティーブレットは人間、巨人、獣人、エルフ、ドワーフと多種族混合の組織だ。どこかを優遇したらどこかが疎かになる。それは不満を生み、怒りが育ち、憎しみに満ちてしまう。


 人間同士の組織すら十年もすれば問題が噴出するのだ、多種族が集まったなら必ずしか考え方や意志疎通に誤解や誤差が生まれてくるだろう。


 それぞれの種族を抑えるためにラダリオン、ミリエル、シエイラ、ビシャやメビに当たらせ、エルフとドワーフには土地を用意し、なるべく役目と仕事を与えて優遇させているよう見せている。


「異世界にきてまで派閥争いに苦労させられるとは思わなかったよ」


 工場でも専務派と次長派に別れ、その中で生きていくのに苦労したものだ。


「中立ってのが一番損するよな」


 だからと言って派閥の手足となるなんてゴメンだ。オレはただ、現状維持を望んでいただけなのによ……。


「前コラウス辺境伯の偉大さがよくわかる。よく巨人やエルフを受け入れて、問題なく治めていたもんだよ」


 現コラウス辺境伯はクソっぽいが、地元を治められない無能など怖くもない。ここは法と秩序が未熟なところ。強い者が正義なのだ。なら、強い人に領地を治めてもらい、オレはそれに協力させてもらうさ。オレの手はもう汚れてんだからな……。


 なんてことをつらつら考えていたら下に着いた。


「ここが底か?」


 頂上からだと四百メートルか? この上に港をがあるとかほんと謎なところだよ。


 抉じ開けられた非常ドアを潜ると、通路が左右に伸びていた。


 オートマップを見ると、作成されているのは右。そちらに向かうと、貨物用エレベーターに出た。


 開け放たれたエレベーターにフォークリフトが二台突っ込んだ形で崩れていた。昇降できないようにしたのか?


 光が動いているのが視界に入り振り向くと、ニャーダ族の者が二人、こちらにやってきた。


「タカト! ちょうどよかった。こっちにきてくれ」


 言われた通りついていくと、大きな空間に出た。


 なかなかSFチックな造りをしており、空間の真ん中、窪んだところに円を描くように透明の箱が並んでいた。


「まんま、コールドスリープ装置って形だな」


 もっとデザインに凝れよ、とは思うが、絵心のないオレには革新的なデザインは思い浮かばない。実用性を大事にしたんだろうと、コールドスリープ装置に向かった。


 透明の箱は二十ほどあり、その中には青い髪のエルフが眠っていた。


「……エルフの髪ってカラフルだよな……」


 なんのアニメキャラだよって突っ込みたくなるぜ。


「これが古代エルフなのか?」


「だと思います」


 身体的特徴にこれと言って変なところはない。ミシニーがウェットスーツみたいなものを着て眠っていても違和感はない。数千年では身体は変わらないってことだろうよ。


「さて。どうしたものか」


 技術を知る者はどいつで、目覚めさせても抵抗しないヤツはどいつなんだか……。

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