第637話 整備路

 そう広い場所でもないのでテントは張れなかったが、滑走路(通路)なので雨風の心配はない。エアーマットを膨らませ、単管パイプで仕切りをするくらいでよしとした。


「もうちょっと広いとフォークリフトが出せたんだがな」


 秘密の研究施設だったのだろう。滑走路(通路)は高さと幅が三メートルしかないので、フォークリフトで動き回るのは難しそうだ。


 けどまあ、ハンドリフトなら動かせるので、簡易トイレを出すことはできた。


「マスター。面倒ですけど、トイレは外に出しましょう。ここは空気の流れが悪いですし」


 アリサの言葉で、簡易トイレを外に移動させた。


 オレの影響か、エルフたちも綺麗好きとなり、衛生観念が数百年進化してしまったようだ。


「固定しないとダメだな」


 先ほどまでは気にならなかったが、山頂付近なので風が強い。針金を張って固定するとしよう。


 それはアリサたちに任せ、オレは手洗い用の水をホームから運んできた。


 キャンプの準備が整えばエルフたちを集めて昼にする。


 ミサロに頼んでいたので料理を出すだけ。ここだと火を使うのは危険そうだしな。


「って、地下は空気があるのか?」


 ここですら空気の流れがないのに地下だとさらにないだろう。と思ったら空気が流れているのに気づいた。


「マルガデルさんか?」


 地下まで二百十メートルくらい。チート持ちならこのくらい余裕だろうよ。


 皆で昼飯を食いながらオートマップを見ていると、滑走路の横に空間があることに気づいた。


 ……整備路かな……。


 いくら何千年も残るように造ったからって、細々な機器類は整備しないといけない。どんなに文明が栄えようと故障は起きるし、不具合は発生するもの。ダメ女神から流された情報の中にも整備班はいた。この研究施設が同じ年代のものなら整備路があっても不思議ではない。


 オートマップを持って出入口らしき場所を探ると、うっすらと線が走っていた。


 ドアノブ的なものはない。マイセンズではタッチパネル式だったのでここもそうだろ。風化しててよくわからんが、打ち込みやすい場所が凹んでいた。


 まあ、機器部分は風化していても金属部は風化はしていない。手動で動かせる駆動は生きているはずだ。


 ナイフでタッチパネルの部分を掘り出していくと、回せるギアがあった。


 回す道具はないが、ラチェットレンチを加工すればいけるな。


 ヒートソード……はなかったのでヒートアックスとレンチのジョイントを持ってきてジョイントを熱し、ギアにつけた。


 冷めるのを待ち、ラチェットレンチをつけてギアを回した。


 潤滑油も風化していると思ったが、なんの抵抗もなく回り、バチンと音がして扉の形を浮かび上がらせた。外に出るタイプか。


 必死に回し、三分くらいして扉が外に出始めた。辛っ!


 交代で回し続け、十分くらいで中に入れるくらい扉が前進してくれた。


「……もっと単純な造りにしろよな……」


 まあ、このくらいしないと何千年も残らないんだろうが、そこまでしても古代エルフ本人らが残らないんだからとんだ笑い話だな。


「まずオレが入る」


 プランデットには酸素濃度センサーもついている。オレがカナリアになって調べるとしよう。


 オートマップを見ながら穴の方向に進むと、階段が現れた。


「……マイセンズを思い出すな……」


 地下まで約二百十メートル。ランダーズ(マイセンズにあった塔ね)での昇り降りを考えたらマシか。


「メビ。きていいぞ」


 ここまでは空気が回った。問題は階段だな。


 ホームに入り、ポータブルバッテリーで動く扇風機を買ってきて階段に設置した。


 これで空気が回るかはわからんが、ゆっくりと降りていき、十メートル降りる毎に扇風機を設置していった。


 一時間かけて地下に到着。かなり広い空間だった。


「倉庫か?」


 マイセンズで見たブロックラックが並び、EARやプランデットが入っていたコンテナボックスがパレットに積まれて収まっていた。


 開けてみると、なにかの部品が入っていた。


 記憶を探ればなんなのかわかるかも知れないが、考えるのもエネルギーを必要とする。使い道もないんだから気にするなだ。


「持ち帰れそうなものはなさそうだな」


 研究施設って言うくらいだし、衣服や食糧はなさそうだ。


「タカト、これマンダリンじゃない?」


 メビがライトを向けた先にビニールに包まれたマンダリン十台がブロックラックに収まっていた。


「ブロックラックに収まっているってことはフォークリフトがあるな」


 マンダリンよりフォークリフトがあるほうが助かる。一台だと交互に使わないとならないからな。


「お、あったあった。閉鎖空間にあったから風化することもなかったようだな」


 まあ、同じ年代のものならロードン処理(メッキ)を施されているだろうから、空気があっても早々朽ちたりはしないがな。


 魔力も拡散しない造りになっているのでスイッチをオンにすると起動してくれた。


「よっし! 古代エルフの技術万歳!」


 一回り大きいフォークリフトだが、操作は変わらない。慣れれば問題なく扱えるさ。


「フォークリフトがあるならマナックもあるな」


 座席を開けると、マナックが十六個収められるようになっていた。


「残り六個か。結構長時間動かせるようになっているみたいだな。そんなに激しく動かさないといけなかったのか?」


 マイセンズで見つけたフォークリフトは六個しか収まらなかった。ちなみにマンダリンは八個でイチゴは六個です。


「それなら期待できそうだな」


 どこですか~? と探したらマナック専用庫を発見。マイセンズと同じくらいのマナックが眠っていた。


「古代エルフ様に感謝です!」

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