第636話 血か?

「仕事終わりに集まってもらって悪いな。ニャーダ族の集落近くに古代エルフの研究施設を見つけた。明日の朝、調べにいくんで、いける者は館の前に集まってくれ。あ、マンダリンでいくからそれに合わせて用意してくれ」


 会議室に集まったアリサたち二十人のエルフに伝えた。てか、増えてね?


「人数は決まってないのですか?」


 ハイ! とアリサが挙手した。マサキさんの教えか?


「んー。マンダリンを操縦できるの何人だ?」


「人並みに動かせるのは十三人。初心者は五人です」


 マンダリン隊でも組織する気か? マナックは有限だぞ。


「じゃあ、全員でいくか。ニャーダ族の集落までの経路を知っておいて欲しいからな」


 今、何台かは忘れたが、エルフにマンダリンを十台渡した記憶がある。二人乗りすれば全員でいけるだろう。


「わかりました。荷物はお願いします」


 これ以上、決めることもないので解散。館の前から入り、ブラックリンを外に出した。


「ミサロ。氷をお願いします!」


 時刻はまだ十八時過ぎ。明日は八時集合にしたのでアードベッグアンオーをいただきたいと思います。


 夕飯をいただきながら酒を飲み、それぞれの状況を話し合った。


 家族団欒、と言っていいのかわからんが、六人が揃うと酒が美味いのはなんでだろうな。気持ちよくていつの間にか眠ってしまったよ。


 気持ちよく目覚めたら男部屋のマットレスの上だった。


 ……なんだろう。ホームで飲むとすぐ眠っちゃうな……。


 安全なところで飲むからすぐに酔っちゃうんだろうか? それなら次からはもっと安いウイスキーにしよう。美味い酒の余韻を感じられないんだしな。


「六時か」


 なんだかんだとこの時間に起きちゃうよな。工場勤務の暮らしがDNAに刻まれたんだろうか?


 ぐっすり眠っている雷牙を起こさないよう部屋から出た。


 いつものようにミサロは起きており、野菜のスムージーを出してくれた。


 ……ミサロの進化が止まることを知らないな……。


 スムージーをいただいたらシャワーを浴び、外の様子を見にいくと、マンダリンが館の前に並んでいた。


 天気もいいので館の周りを散歩し、館の前に戻ってきたらエルフたちが集まっていた。


「おはようさん。早いな」


「おはようございます。ええ、マスターとの遠征なので早めに行動しています」


 真面目な種族だよな。マサキさんの血がそうさせるのか?


「そうか。まあ、時間まで気張らず、体をほぐしていろ。荷物はこれだけか?」


 運びやすいようにリヤカーに載せていた。気配りの種族でもあるのか?


「はい。お願いします」


 あいよと応え、リヤカーをホームに運んだ。


 皆も起きてきてそれぞれ用意をしたら朝飯をいただき、それぞれの場所に出ていった。


 館の前には十八人のエルフたちが並び、ミーティングしてからニャーダ族の集落に向けて出発した。


 毎日マンダリンの練習をしていたのだろう。離陸に乱れはなく、二人乗りしていてもふらつくことなくニャーダ族の集落まで飛行できた。


 直線距離にしたら六十キロくらいだろうか? マナックを満タンにしたら六割ちょっと消費した感じだった。


「やはり二人乗りだと速度が出ないな」


 まあ、狭い空間で運用される乗り物。そんなに出ない造りだから仕方がないんだけどな。


「わたしたちもブラックリンに乗れたらいいのですが」


「ブラックリンはプランデットで制御しているからな。プランデットを使いこなせないと難しいだろう」


 今のところブラックリンを操縦できるのはオレとミリエル、辛うじてカインゼルさんとアルズライズくらいだ。まあ、カインゼルさんとアルズライズは運動神経とセンスで飛んでいるけどな。バケモンだよ、あの二人は!


 アリサたちには休憩しててもらい、オレはニャーダ族の長老と面会させてもらった。


「あの山はわしらの神が住んでいる。昔からなにかあればあそこに逃げろと言い伝わっておるんじゃよ」


 ヨボヨボの長老がそう語ってくれた。


 長老の話と研究施設からして、ニャーダ族は古代エルフに造られたか改造されたかのどちらかだろう。古代エルフはなに考えてんだ?


「神の山に入ることをお許しください」


「女神の使徒たるあなた様なら問題ありません。ニャーダ族をよろしくお願いします」


 ダメ女神の後光が働いているのは癪だが、話がスムーズに運べるなら無理矢理飲み込んでおこう。


「ありがとうございます」


 一応、頭を下げてその場を退出させてもらった。


「目指す山はあれだ。迷うことはないと思うが、最後まで気を抜くなよ」


 ブラックリンに跨がり、岩山まで飛んだ。


「まずオレが入る! 一台ずつ入ってこい!」


 中は直線であり、マンダリンサイズが出入りできるような構造になっている。ゆっくり入れば事故ることはないだろう。


 誘導灯ではないが、滑走路(仮)の端にLEDランタンが並べられていた。メビがやったのか?


 奥まで進むと、キャンプ地となっており、メビが手を振って迎えてくれた。


「ご苦労さん。なにか変わったことは起きたか?」


「ううん。今のところなにもないよ。とーちゃんたちも動いているし」


 オートマップ(二つあります)を見せてもらうと、内部の図が少しずつ作られていた。


「アリサ。とりあえず昼まで休憩だ」


 そう言ってホームに入り、リヤカーを引いてきた。

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