第633話 大人はすぐ酒を飲む

「マルデガルさん。魔石を山分けしましょうか。欲しい魔石はありますか?」


 別チームである以上、山分けは必須だろうからな。


「すべてタカトにやるよ。それで食料やマナックを分けてくれ。金なら別のことで稼げるからな」


「まあ、マルデガルさんがそう言うならオレは構いませんが、念のためにいくつか持っていたほうがよいのでは? 緑の魔石もありますし」


 緑は確か風の魔石だったはず。ワイニーズもここを巣にしようとしたのか?


「これまでの仕事で緑の魔石は溜め込んでいるよ。うちの一族は商売もしているしな。金には困ってないよ」


 さすが光一さんの血が流れたチート一族。受け継げるものがなにもないオレには羨ましい限りだよ。


「わかりました。では、マナイーターは正式にマルデガルさんに譲りますよ」


 並みの剣より強度はあるし、どんな魔力も吸収できる。オールラウンダーなマルデガルさんには最適の武器だろうよ。


「それこそいいのか? 神世の剣だぞ」


「オレからしたらただの道具でしかありませんよ。壊れたらそれまで。別の手段、別の道具を使うまでです」


 なにか一つに頼っていたら思考がそれだけに固まってしまう。状況に応じた道具を見つけ出すほうが生存率が高まるってものだ。


「……お前の強さはそこにあるんだな……」


「単なる弱者の悪あがきですよ」


 こんなもの強さとは言えない。本当に強いならこんなに苦労してないよ。


「もうここには用はありませんし、片付けてニャーダ族の集落に戻るとしましょうか」


 ここの謎は残るが、考えても答えは出ない。なら、さっさと帰るとしよう。


「メビ。悪いが、モニスたちに撤収することを伝えてくれるか? オレは、夜までホームに入るから」


 魔石の整理やプールの片付けをしないといかんからな。


「了ー解! 任せて!」


「タカト。食料と酒をもらっていいか? 冷蔵庫が空になったんでな」


「わかりました」


 洞窟から出てホームに入り、十五日分の食料を身繕い、マルデガルさんが気に入ったストゼロを五ケース渡した。


「──あ、タカト。ちょうどよかった」

 

 ガレージで魔石を選別していると、雷牙が入ってきた。どした?


「コラトラ商会のノーマンって人がキャンプ地にやってきて、タカトと話がしたいんだって」


 ノーマン? コラトラ商会? あ、ミヤマランの商人か。すっかり忘れていたよ。


 マレアット・アシッカ伯爵の後見人的立場の人で、なかなかバケモノの商人って人だ。友人もバケモノだしな。


「うーん。オレも嘆きの洞窟から離れられんからな~。理由は聞いたか?」


「回復薬を売ってくれってさ。なんでも公爵が病気なんだって」


 オレ、回復薬のこと、ノーマンさんに話をしたっけ? 話してないよな。どこから漏れた? アルズライズか?


「回復薬中なら二粒売っていいぞ。金貨十枚で渡してくれ」


 オレの持っている回復薬中を二粒出して渡した。


「時間ができたらオレもアシッカにいくとノーマンさんに伝えてくれ。アシッカで会えないならミヤマランにいきますともな」


 雷牙は忌み嫌われて暮らしていたが、地頭がいい。記憶力も高いのでちゃんと伝言できるのだ。


「わかった。アルズライズにそう言っておくよ」


「ああ、頼むよ。あ、ロンダリオさんたちはどうしている?」


 ここ五日、ゴブリンの報酬がぽつらぽつらとしか入ってこない。ゴブリンがいなくなったのか?


「ロンダリオたちならミヤマランにいったよ。休んでくるってさ」


 あーうん。そーかー。山暮らしじゃいろいろ溜まるしな。発散させにいったんだな。


「わかった。雷牙たちも休んでいいんだからな」


「大丈夫。おれたちは疲れてないから」


 疲れを知らない年代は元気で羨ましいよ。


 雷牙が出ていったら魔石の選別を再開し、十八時前に外に出た。


 キャンプ地を片付け、こちらに移動してきたマーダたちやモニスたちが洞窟のところにきていた。あ、この単管パイプも片付けないといかんかったわ。


「モニス。オレたちは明日帰るが、お前たちはどうする?」


「二人残してわたしとボルは帰る。町を造ることを長老たちと話したいしな」


「そうか。まあ、なにかあればすぐニャーダ族の集落に逃げろよ」


 そろそろ他の魔物が集まってくる頃。巨人でも危険な地になるだろうよ。


「わかった」


 最後と言うのでお疲れ様会でも開くかと、ホームから酒を運び出し、皆で乾杯をする。


「大人はすぐ酒を飲むんだから」


「それが大人になるってことさ」


 オレの返しにニャーダ族の男たちが強く同意した。


 わかり合える大人たちと乾杯。イチゴが見張っててくれるので、浴びるように飲み、潰れたら好き勝手眠りについた。


 朝。ゆっくりとした目覚めだが、気分は最悪。頭いてー!


「バカみたいに飲むからだよ!」


 と、メビに水をかけられてしまった。ご、ご容赦を……。


「出発は午後にしよう」


「賛成~」


 と、満場一致で出発は午後となりました。ニャーダ族、ノリがよくなったな。


「イチゴ。悪いが小屋を解体してくれ」


 解体する元気もないんです。イチゴ、ごめんよ。


 ガチャガチャうるさいが、それはバカ飲みしたオレらの罰。頭を抱えながら二日酔いと戦いました。

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