第632話 洞窟の中へ

 たぶん、吸水ポリマービーズを出して十五日が過ぎたと思う。日にちを数えてなくてごめんなさい。


 まあ、そう急ぐ必要もないと、ビニールプールを片付けていると、マルデガルさんが戻ってきた。


「ご苦労様です。たくさん駆除できましたか?」


 別チームだから何匹駆除したかはわからんのよね。


「ああ。三千匹は駆除したよ」


 駆除員になって二十日くらい。もう最速駆除数一位じゃないかよ。


「数がわかるってことは女神のアナウンス、知らせがあったってことですか?」


 まさかマルデガルさんが数えていたわけではあるまいて。


「ああ。千匹毎に知らせがくる。嘆きの洞窟に戻れと教えてくれたよ」


 余計な一言をつけるところからしてダメ女神が見張っているようだ。


「マジャルビンは死んだのか?」


「まだ調べてませんが、魔力反応はありますね」


「そうか。ちょっと見てくるよ」


 あっさりと窪みに飛び降り、マジャルビンがいる洞窟に向かっていった。


 ただでさえ強いのに、三千匹駆除してレベルアップした人に怖いものなしか。羨ましいよ。


 オレは弱いので安全第一、命大事に行動させていただきますと、ニャーダ族の手を借りてビニールプールの片付けを進めた。


「タカト! マルデガルが洞窟に入ったよ!」


 見張りに立っててもらったメビが声を上げた。


「大丈夫だと思うが、一応様子を見ててくれ。無理に援護することはないから」


 下手な援護はマルデガルさんの邪魔になる。大人しく見ているほうがマルデガルさんのためになるだろうよ。


 片付けが終わり、ホームに運んだら昼になったので、ミサロが作ってくれた料理を運び出した。


「タカト。洞窟のマジャルビンは萎んでいたぞ」


 マジャルビンの魔石をつかんで戻ってきた。


「急激な水分消失はマジャルビンに取って致命傷だったみたいですね」


 その水分は人間でいう血であり、マジャルビンに取って大切な栄養も含まれていたはず。それを奪われて生きてられる生き物はいないだろうよ。


「お前にかかればマジャルビンなんて雑魚なんだな」


「雑魚とは思いませんが、倒し方がわかっている魔物に恐れる必要はないだけですよ」


 幽霊の正体見たり枯れ尾花、ってな。相手の正体がわかればなにも怖くないさ。


「他にもマジャルビンはいましたか?」


「いたよ。瀕死の状態ではあるがな」


 それはなにより。安全に勝つって最高だぜ。


「メビ。ショットガン装備にするぞ。弾は鳥撃ち用の弾な」


 ホームからAA−12を持ってきてメビに渡した。


「マーダたちはラットスタットを装備しろ。それならマジャルビンにも効果があるはずだから」


 まだ試してはいないが、電気に強い体とは思えない。殺せなくても最大で放てば動きを封じることはできるはずだ。


 ラットスタットを取り寄せ、マーダたちに配った。


「先頭はオレ。マルデガルさん。メビは援護。マーダたちは少し離れてついてこい」


 脚立を使って窪みに降り、洞窟に向かう。


 プランデットのセンサーをフル動員。洞窟の奥に微弱な動体反応が五つあった。


「水浸しだな」


 流れなかった分が地面に溜まっていたので、水を集め、ウォータージェットで外に排出してやった。


「結構臭くないな」


「文字通り、入り込んだ魔物を骨の髄まで吸い尽くしたんだろうな」


 マルデガルさんが地面に敷き詰められた骨を足で踏むと、なんの抵抗もなく砕けてしまった。えげつない魔物だよ。


「マナイーターで殺したんですか?」


「ああ。魔力を吸ってやったら水袋が崩壊したよ」


 オレの前を進み、四十センチくらいの水袋にマナイーターを突き刺した──ら、ばしゃんと水風船が破裂するように崩れてしまた。


「もう満杯か」


 柄の底を開け、マナックを出した。


「何個になりました?」


「これで七つだ。まったく、神世の武器は恐ろしいものだ」


 オレからしたら便利アイテムとしか思えんけどな。


「マナックは大事に保管しててください。マルデガルさんの実家にあるロボットを動かすエネルギーとなりますから」


 マルデガルさんにマナイーターを渡したのは自らマナックを調達してもらうため。うちに二機も稼働させられる余裕はないんでな。


「反撃もなさそうですし、サクッとマジャルビンから魔力を吸ってください」


 完全に虫の息状態。なら、サクッと止めを刺しましょう、だ。


「タカト、これ」


 と、メビがAA−12で差した先に魔石が転がっていた。


「……女神の言っていたお宝は魔石のほうか……」


 マジャルビンが巣くう場所に金銀財宝があるわけじゃない。あるとすれば魔石か古代エルフの遺跡のどちらかと思っていたのだ。


「マーダ。落ちている魔石を集めてくれ」


 作業鞄を取り寄せ、マーダたちに渡した。


 魔石回収は任せ、オレは洞窟内を調べる。


「……本当に巨人が住めそうな空間だな……」


 どんなことが起きればこんな大空間が作られるんだ? 自然現象とは思えないぞ。


 なにかの遺跡かとプランデットで探るが、これと言って人工的なものは検出されない。ただ、溶岩が固まった空間のようだった。


「タカト。集めたぞ」


 作業鞄八個に大量の魔石が入っていた。どんだけ補食してたんだよ?


「マルデガルさん。魔石をマナイーターで吸ってみてください」


「わかった」


 マナイーターの切っ先を魔石につける──が、なにも起こらなかった。


「やはりか」


 魔石を持ってきた時点でそうなんだろうと思ったがな。


「これだから女神製の道具は信用できないんだよ」


 便利ではあるが万能ではない。道具はしょせん道具でしかないのだ。

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