第631話 水着
「冷たっ!」
朝、ビニールプールに被せたシートを外し、水に手を突っ込んだら冷たくてすぐに出してしまった。
気温は春とは言え、水の温度は心臓に悪い温度だった。
さすがに入れないのでモニスに譲ったヒートソードで温めてもらった。うん。風呂になっちゃったな。
まあ、温水プールがあるのだから構わんだろうと、ホームで水着に着替えてきた。
「なにをするんだ?」
オレの不思議行動に興味があったのか、モニスたちが出かけることなく待っていた。
「泳ぎの練習だよ。巨人は泳いだりは……しないか」
そもそも巨人が入れる水場などないわな。
「今年は海にいくからな。万が一のときのために泳ぎを練習しておくんだよ」
ゴブリンが海にいるわけじゃないが、アルズライズの話では離れ小島にもゴブリンはいたそうだ。
川を泳いでいる姿を見たからにはアルズライズの話がウソだなんて思えない。あいつらならやると確信を持って言えるぜ。
準備運動をしたらビニールプールに入った。いい湯だな~。
じゃなくて、まずは仰向けになって浮かんでみる。
久しぶりの浮遊だが、意外と簡単にできるものだ。これなら腕の力だけで進めるな。
長さ五メートル。幅三メートル。深さ七十五センチなので本格的に泳ぐことはできないが、慣らしには充分だ。
潜水も昔は二分もできなかったのに、身体アップしたから、三分ほど潜っていても全然平気だった。
「ぷっは! 気持ちいい!」
どこかの水泳選手みたいなことを言ってしまったが、オレ、こんなに泳ぐのが楽しく感じたっけ?
ビニールプールから出て、火照った体を冷やした。さすがに十分も入ってられないよ。熱いわ。
「タカト。あたしも入っていい?」
「構わないが、裸では入るなよ。水着を買えよ」
もう裸で入る年頃じゃないとは言え、メビならやりかねないので一応注意し、請負員カードで競泳水着を買わせた。
……スクール水着と考えたヤツは一度滝に打たれて煩悩を払うことを勧めます……。
「いきなり泳ぐのは無理だから浮き輪を使うといい」
まずは水(お湯だけど)に慣れるのが一番と、浮き輪を買わせた。
膨らませてビニールプールに投げ、着替えてきたメビを入らせた。
「あはは! 楽しい!」
元々身体能力が高く、風呂にも慣れているからか、浮き輪に入って足をバタバタ動かして泳いでいた。
「十分くらいしたら一旦上がれよ~」
湯たありして溺れたりするなよ。
「……楽しそうだな……」
あ、モニスたち、まだいたんかい。泥煉瓦作りはいいのか?
「入りたいならモニスたちもビニールプールを買うといい。まあ、巨人サイズとなると水を溜めるのは大変だがな」
さすがに巨人のプールとなれば水を溜めるだけで一日、いや、二日はかかりそうだ。
「村なら水を溜めるのもすぐだろう」
「いや、川の側に穴を掘って水を流せばいいんじゃないか?」
「それはいいな。四人ならそう手間もかからんだろう」
本当に手間じゃないから巨人を敵にしたくないんだよな。
「まあ、穴を掘る道具を教えるよ」
スコップやツルハシ、バールなんかをモニスたちに教えた。
「じゃあ、いってくる」
ウキウキした感じで川に向かう四人。そんなにプールが気に入ったのだろうか? 巨人の趣味嗜好がよくわからんよ……。
体が冷えたのでもう一度プールに入り、潜水を繰り返した。
三日も続けると、不思議と水の気持ちがわかってきた。
水の気持ちがわかるってなんだよ? とか自分自身に突っ込んでしまうが、そうとしか表現できないことが起こっているのだ。
……十五分経過か……。
防水腕時計を見ながら潜水時間が十五分を過ぎた。
いつの間にかオレは水中でも呼吸ができる魔法を使いこなしているようだ。
……この世界の魔法、万能すぎね……?
生命を創ることはドベタなクセに、魔法は万能に創るとか意味わからんわ。なにを目指して天地創造したんだよ?
……この分だと、水面を歩くとかできそうだな……。
潜水するのに魔力を消費しているようで、三十分が限界のようだ。
水面に出ると、マーダたちが戻っていた。あ、吸水ポリマービーズを出して十五日になるんだった。すっかり忘れていたよ。
「なにをしているんだ?」
「水魔法の練習だよ」
泳ぎの練習がいつの間にか水魔法の練習になってしまったよ。
「集落のほうはもういいのか?」
「ああ。長老たちと話し合って町を造ることを決めた。モニスたちは川か?」
メビから聞かなかったのか? と思ったらプールの脇に置いたデッキチェアで眠っていた。
……一応、イチゴに見張らせているが、油断しすぎだよ……。
「モニスたちも川辺でプールを作っているよ」
一日で完成させて、水遊びしているそうだ。ちなみに、男たちはモニスより若いんだってさ。オレ、完全に四十代かと思ってたよ。
「マーダたちも入れ。走ってきて汗をかいただろう。冷たいビールを用意しておくよ」
ポンプで水を循環させて綺麗にはしてたが、そろそろ水を交換しなくちゃならない。捨てるならマーダたちに汗でも流してやろう。
「それはありがたい!」
ニャーダ族は風呂を苦手としないようで、パッパと服を脱いでプールに飛び込んでしまった。
「年頃の娘がいるんだから前くらい隠せ。メビに撃たれても知らないからな」
ため息一つ吐き、バスタオルで体を拭いてからホームに入った。
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