第630話 ビニールプール
「……なんだろう。この休んでいられない気持ちは……?」
吸水ポリマービーズが消えるまでゆっくりしてようと思ったのに、二日目で休んでいることが不安で仕方がない。よくわからない焦燥感に襲われるのだ。
「これがワーカホリックってヤツか」
超ホワイトな工場で働いていたからワーカホリックがなんなのか知らなかったが、きっとこんな状況を言うんだろうな~。
銃を手入れしたりマガジンに弾を込めたりとしているのだが、仕事をしている気になれない。サボっているように思えてしまうのだ。オレ、マジでヤベーな。
かと言って、こんなところで遊びに出かけるなんてできないし、酒ばかり飲んでもいられない。休みってなにしたらいいんだ?
ゲームなんて高校卒業以来やってないし、なにか好きなスポーツがあるわけでもない。読書もそこまで興味があるわけでもない。同僚が人気作を教えてくれたときに読むくらいだしな。
「メビも暇すぎて狩りにいっちゃったし」
オレの側にいるとはなんだったんだろう?
まあ、あのくらいの女の子なんて山の天気より変わりやすい年代だ。笑って流してやれ、だ。
「……暖かくなってきたな……」
気温的には四月も終わりじゃなかろうか? 日本の季節と違うからいまいち季節感がわからないよ。
「……花見もできなかったか……」
川沿いの桜、毎年見にいってたんだがな~。せめて今年は海を楽しみたいものだ。
「そうか。もう二年は泳いでないか」
好きなスポーツはなかったが、泳ぎは得意だった。水泳部からさそわれたこともあったんだぜ(自慢)。
「そういや、家庭用のプールがあったな」
ホームに入り、タブレットで調べた。
長さ五メートル。幅三メートル。深さ七十五センチので八万六千円か。水不足のときにも使えるし、これを買って損はないだろう。
「さすがに結構な大きさになるな」
えっちらおっちら運び出し、組み立てようとして地面が凸凹なのに気がついた。
「均さないとダメか」
さすがに破けてしまう。そこそこ均してジョイントマットを敷けば破れたりはしないだろう。
「一人じゃさすがに辛いな」
………………。
…………。
……。
よし。巨人になるか。
やろうと思っていてすっかり忘れていた。巨人の体に慣れておかないといかんやろう。
二メートル近いバールを持ってきて巨人になり、バールの先で地面を叩いていった。
「巨人ってスゲーパワーなんだな」
鉄のバールが木の枝を持っているようで、やすやすと地面を突くことができた。
とは言え、巨人になっていれるのは約三十分。栄養剤を飲めば五十分はいけるかもしれかいが、いざってときのために四十分で止めておいた。
四十分でも空腹感が襲ってきているので、ホームでホテルのビュッフェを買って腹が満ちるまで食べた。
「どうしたの?」
ガレージで食べてたらラダリオンが入ってきた。
「巨人になって力関係してた。館はどうだ?」
「これと言って問題はない。あたしも食べる」
巨人用の物資を大きくしてたから腹が減ったんだってさ。
二人でビュッフェを食べ尽くしたら外に出てジョイントマットを敷き詰め、ビニールプールを組み立てた。
「結構重労働だったな」
九時くらいから始めて組み立てが終わったの、十七時前だよ。
「──タカト、ただいま~!」
一息ついていたらメビが帰ってきた。
「随分でっかいプールだね。モニスたちのお風呂?」
「いや、夏に向けて泳ぎを思い出そうと思ってな。そういや、メビって、泳げるのか?」
風呂に抵抗があったのは最初だけで、あとは平気で風呂や水に入っていた。が、泳げるかどうかまで考えもしなかったよ。
「泳ぐ? 人って泳げるものなの?」
え? 泳ぐ概念すらないのか?
「川で泳いだりしなかったのか?」
「しないよ。川は水を汲むか飲むかだよ」
ゴブリンは泳げるのにそれ以外の種族が泳げないとかいろいろ間違っているだろう。
「確かに、魔物がいる世界じゃ川で泳ぐのも命懸けか」
いつ魔物が現れるかわからない中、キャッキャと泳いではいられないわな。
ホーム連動型水筒から水を入れる。
「さすがに一つじゃいつ溜まるかわからんな」
魔法で水を集める──が、やはり水分が乏しいところから集めると、十リットルそこそこだな。水魔法の使い手が少ないのもよくわかるってものだ。
まあ、そう急ぐわけでもなし。スタンドを持ってきてホーム連動型水筒を縛りつけ、夕飯の用意を始めた。
肉食系女子なメビは肉を出せば文句は言わないが、オレは毎日肉を食える年齢でもない。サバ缶鍋を作ることにした。
「メビはなに作るんだ?」
「テリヤキチキンにする」
何気に料理スキルが高いメビ。狩ってきた鳥を捌いていた。
「鳥っているんだな」
オレ、飛んでる鳥ってなかなか見ないぞ。だからってゴニョみたいに大群で飛んでくる鳥は見たくないけどさ。
「ここは飛ばない鳥が多いからね」
飛ばない鳥? よくよく聞いたらここでは翼のない鳥が一般的な鳥なんだと。逆に空を飛んでいる鳥のほうが珍しいんだってさ。
……ダメ女神はどんな創造をしてんだ……?
「戻った。いい匂いだな」
泥煉瓦を作りに出ていたモニスたちが帰ってきた。
「お疲れさん。モニスたちも作るか?」
テリヤキチキンは教えてやれんがな。
「いや、今日はカレーにするって決めているからいいよ」
昨日もカレーじゃなかったか? どんだけカレー好きな種族なんだよ?
「そうか。食ったらまた飲もうぜ」
飲み会がオレにとっての気分転換だよ。
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