第629話 巨人カレー
三日間、見るものも見たし、嘆きの洞窟に戻ることにした。
朝の九時にメビを乗せて飛び立ち、マガルスク王国側に大きく円を描きながら十一時前に到着した。
七日くらい離れていたからか、キャンプ地が大きく拓かれ、巨人用の小屋が二つ、できていた。
「ここに住もうって勢いだな」
住みたいと言うなら反対しないが、ゴブリンの気配はチラホラとしかいないぞ。
ブラックリンを嘆きの洞窟付近に降すと、周囲に散っていたマーダたちが集まってきた。
「とーちゃん! ただいま!」
「長いこと任せて悪かったな。マジャルビンはどうだ?」
「閉じ籠ったままだ。生きたゴブリンを投げ込んだが、出てこなかった」
洞窟にいってみると、縛られた五匹のゴブリンがぐったりとしていた。
サーチアイを取り寄せて、中に突入させた。
暗視装置はついてないが、一応ていどにライトはついている。なんとなくわかればいいし、オートマップとも連動している。洞窟の内部がわかるだけでも充分だ。
吸水ポリマービーズが地面に大量に敷き詰められ、なかなかファンシーな空間になっていた。
動くものはないな。吸水ポリマービーズに吸い取られちゃったか?
「かなり広い洞窟みたいだね。モニスたちでも穴を潜れば中で立てそうじゃない?」
オートマップを見るメビがそんなことを言った。
「昔は竜が住んでいたと言われていたな」
そのときにこなくてよかった。って、巨大マジャルビンがいるから昔だろうが今だろうが関係ないか。
奥はかなり深く、竜が住んでいても不思議じゃない空間であった。
「水が溜まってないってことは穴が空いているってことか。マジャルビン、小さくなって逃げたか?」
それならそれで構わないが、吸水ポリマービーズが消えるまではのんびり待つとするか。
「オレが見張るからマーダたちもゴブリン駆除してきていいぞ。まあ、この付近にはいなくなってしまったけどな」
マルデガルさんが張り切っているようで、オレが察知できる範囲には五匹いるかどうか。全方位満面なく殲滅させているよ。
「それなら集落の様子を見てくる」
「わかった。ラザニア村にいる仲間たちに伝えることはあるか? お前の嫁さんはミサロと一緒に畑を耕しているそうだが」
「ない。あそこなら心配ないからな」
「一応、マーダたちは元気にやっているとだけは伝えておくよ」
「頼む。じゃあ、いってくる」
と、そのまま駆け出していった。半日で着ける身体能力が羨ましいよ。
「メビはどうする? 狩りでもしてくるか?」
「ううん。タカトの側にいるよ」
「そっか。とりあえず、過ごしやすいよう小屋でも立てるか」
吸水ポリマービーズが消えるまで五日か六日はある。単管パイプで過ごしやすいよう組み立てるとしよう。
「メビは細かい石を運んできて地面を均してくれ。大まかで構わないから」
溶岩が固まったような場所だが、石を撒けばそこそこ平らになる。あとはマットを敷けばガタガタ言わないだろうよ。
そう急ぐこともないのでのんびり運び出し、終われば、メビと二人で集めてきた石で地面を均した。
「そう言えばモニスたち、なにやってんだ?」
小屋にいる気配はなかったし、今探ったら一キロくらい離れた場所で止まっている感じだ。
「見てくる?」
「いや、生きているようだし、放っておこう」
あの四人ならそう簡単に死ぬことはないだろう。武器も装備も充実しているしな。
昼を挟み、地面を均したら単管パイプを組み立て、ビニールシートを被せた。
膨らませ式のビニールマットを敷き並べ、飲み水や食料をホームから運び出した。
暗くなる頃、モニスたちが帰ってきた。なにしてたん?
「いい泥があったんでな、煉瓦を作っていた」
「煉瓦? ここに住もうというのか?」
住むにはちょっとキツいんじゃないか? 近くに川もないんだしよ。
「マジャルビンがいなくなれば獣も戻ってくるだろうからな、きっといい狩場になる。それまでに拠点を築こうと思ってな」
本格的にニャーダ族と町を造る気になったのかな?
「そうか。まあ、あと十日はいると思うし、食料は提供するからがんばるといいさ」
ここなら巨人になって暴れても文句は出ない。せっかくの機会だ、巨人の体に慣れておくのもいいだろうよ。
「助かる。わたしたち、誰も大した料理が作れないからな。パンとワインは飽きたよ」
いや、もっと食べるものはあるだろう。もっと調べろよ。
「請負員カードを出せ。カレーを作るから」
オレも料理は得意じゃないが、カレーとシチューなら余裕で作れる。それならモニスたちでも作れるだろう。あとは、カレーとシチューのローテーションを組めばバッチリだ。
請負員カードを見ながら食材を買い、芋とニンジン、玉ねぎの皮を剥かせ、手頃なサイズに切らせて鍋に放り込ませた。
肉はキャンプ地にあると言うので持ってきてもらい、煮たったら入れてもらい、いい感じになったらカレールーを入れてもらう。
味の調整はソースとケチャップを入れて、一煮立ちさせたら完成だ。
米は慣れてないだろうからナンを買わせ、いざ実食──するのはモニスたちだけどな。オレたちはミサロが作ってくれた唐揚げをタルタルソースにつけて食べています。あー美味しい。
「うん。美味い!」
「これはいいな!」
「いくらでも食べられそうだ!」
巨人たちも気に入ってくれたようでなによりだ。
「明日はシチューを教えるよ」
ルーを変えるだけどな。
満足いくまで食ったら酒を出してやり、モニスたちとちょっとした飲み会を開催した。
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