第628話 ドワーフの町

 とりあえずミロイド砦に滞在することにした。


 まあ、ミロイド砦はコラウス主導でやっているのでオレが口出す……ことはしているけど、オレがなにかすることはない。一日の流れを見るためにあちらこちら回ってみた。


「ドワーフって働き者だな」


 朝の八時から見て回っているのだが、サボっている者はおらず、なにかしら仕事をしていた。


 まあ、長いこと奴隷として生きてきたクセが抜けないのだろうが、社畜って言葉が思い浮かばれて泣けてきそうだぜ……。


「今のオレも似たようなものか。ゴブリン駆除に毎日を捧げてんだからな」


 胸を締めつけられる思いでいると、ドワーフの子供が背負子に薪を積んで現れた。


「……子供、いたんだ……」


 いや、ロズたちも赤ん坊を連れていたが、十歳くらいの子供は初めて見たよ。奴隷でも子供は持てたんだな。


「あ、タカト様! こんにちは!」


 オレがわかるのか、子供たちが立ち止まって挨拶してきた。


「あ、ああ。こんにちは。仕事か?」


「はい。開墾で出た木を切って砦に運んでいます」


 どうやら薪運びは子供の仕事のようで、このくらいの年代の子供が伐り場から砦に運んでいるそうだ。


「そうか。無理するなよ。体調が悪いときは大人に言ってちゃんと休ませてもらうんだからな」


「はい! 安全第一でやってます!」


 子供たちまで浸透してんのかい! いや、浸透させているオレが突っ込むのも変だけどよ。


「うん。ほら、休憩のときに皆で食べろ」


 袋飴を四袋取り寄せ、子供たちに渡した。仲良く分けろよ。


「ありがとうございます!」


 なんとも素直な子供たちだ。そうしないと生きられなかったんだろうか? だったら悲しくなるぜ。


 子供たちと別れ、町を回ってみた。


 バラック小屋ばかりだが、間隔は開けており、ちゃんと清潔にしていた。


「トイレはどこだ?」


 糞尿垂れ流しってわけじゃないとなると、どこかにトイレを作ったはずだ。


「あ、あれか」


 木を組んで作った小屋がいくつかあり、手を洗う用なのか、水瓶が置いてあった。


 二十一世紀を生きてきたオレには堪えられない環境ではあるが、ドワーフたちには概ね好評のようで、この臭いも気にならないようだ。


 ……マガルスク王国ではどんな生活を送っていたんだ……?


「ほんと、人権という概念のない世界なんてクソだぜ」


 差が生まれるのは仕方がないまでも、人らしい生活が送れる世界ではあって欲しいよ。


 町を抜け、マガルスク王国側の森にいってみる。


 一応、小川を境界線としており、男たちが川向こうの木を伐り倒していた。


 チェーンソーならすぐだろうに、男たちは汗を流しながら斧を振るい、木を伐っている。


「器用なものだ」


 斧一つで枝を払い、皮を剥ぎ、均等に切っていっている。それを肩に担いで運ぶんだからそりゃ奴隷にもされるわ。てか、よくドワーフを奴隷にできたな? なんか魔法でも使ったのか?


「ご苦労さん。一休みしてくれ」


 さすがに酒は出せないが、水とジャーキーを取り寄せてやり、男たちに配ってやった。


「ありがとうございやす!」


 なんかドワーフの男たちって昭和臭いっていうか、土方臭いっていうか、下っぱ口調なんだよな。


「無理せず、体調に気をつけてやれよ。大怪我をしたらすぐにセフティーブレットに駆け込め。女神の薬を渡してあるから」


 多少の怪我なら唾でもつけておけと言えるが、大怪我なら別だ。回復薬大と中を十錠ずつ渡してある。さっさと駆け込んで回復させろだ。


「はい! ありがとうございやす!」


 どうも頭を下げられるのって苦手だよな。こっちはそんな大層な人間じゃないんだからよ……。


 とは言え、オレは百人近い集団の代表者。ヘコヘコしていては示しがつかないし、弱気な姿を見せるわけにもいかない。見た目も中身も凡人なのだからせめて余裕ある姿と寛大な態度を見せるしかないだろう。


「オレにはお前たちに場所を用意してやることしかできない。自分の居場所は自分たちで守れ。そして、二度と奪われたりするなよ」


 はいだかおうだかわからない返事を全員から返されてしまった。


 そのやる気やよし。これでここはドワーフたちが守ってくれるだろう。命を懸けて、な。


「さあ、野郎ども、やるぞ!」


 ここを仕切っている男が声を張り上げると、全員がはいだかおうだかわからない返事をして作業を再開させた。


 しばらく様子を見てから町に戻った。


「そういや、女たちの姿を見てないな? なにやってんだ?」


 タイミングよく現れたドワーフの老人に尋ねると、マルス町側を開墾しているそうだ。


「畑にするよう指示があったので女たちにやらせていやす」


 まあ、確かにマガルスク王国側に畑を作るのは問題か。なにかあれば戦場になるんだからな。


 老人に礼を言い、砦を回っていってみた。


「結構伐り拓いてたんだな」


 町ばかり気にしててこちら側のことなんて意識にも入れてなかったよ。


「ミリエルがいるな」


 砦にいると思ったら女たちの中にミリエルの気配を感じた。


「まあ、ミリエルがいるならいくこともないな」


 一人や二人ならまだしも、百人以上いる女の中に入る勇気はオレにはない。欠片もない。回れ右して逃げ出しました。


「お。ゴブリンがいるな。運動がてら駆除しますかね」


 まったく、ゴブリン駆除はつれーわ~。

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