第627話 備えあれば憂いなし

 ゴブリンの片付けが終わり、キャンプ地で打ち上げをしたらミロイド砦に戻った。


 道中何事もなく、ドワーフの町に戻れば歓声で迎えられた。な、なによ、いったい?


「ドワーフたちにしたらタカトは女神の使徒であり、自分たちを受け入れてくれた救世主でもある。今回は自分たちを守るためにゴブリンの大群と戦った。これで感謝しないヤツはおらんよ」


 見方によれば確かにそうだが、本当に救世主扱いされるのは勘弁して欲しい。オレはただの駆除員なんだからよ……。


「それに、この地をドワーフの町にしてくれるよう働きかけてくれてくれてることも広まっている。お前が他種族に寛容であることもロズたちから伝わっている。これでお前を憎む者がいたら見てみたいものだ」


 まあ、憎まれるより好かれたほうがいいが、過大な期待は持たれたくはない。オレに統治者としての能力があるわけでもなければカリスマ性を持っているわけじゃないんだからよ……。


「旦那!」


 KSGを持ったドワーフたちがこちらに走ってきた。


「ガドー。お前はいかなかったのか?」


 ロズたちと一緒にマガルスク王国にいったのかと思ったよ。


「はい。おれは請負員を教えなくちゃならないんで」


 確かに誰かが残らないと請負員は纏まらないか。ドワーフの中で銃に長けているのはガドーしかいないしな。


「P90はまだ使えているのか? KSGを使っているみたいだが」


 確かP90はドワーフに渡した記憶がある。


「兵士に持たせました」


「兵士?」


「コラウス辺境伯の兵士として雇い入れた」


 と、サイルスさん。あー。なんかそんなことも話したっけな。


「相変わらず領主代理は決断が早いですね」


「それはお前が敵対勢力や教会、街の問題を解決してくれたからだ。でなければ、さすがのミシャでも決断はできなかっただろう。コラウスを変えたのはお前なんだよ」


 それは自覚もあるし、望んでやってきたので反論はしない。これからもオレらが暮らしやすいようコラウスを変えていくんだからな。


「で、兵士は何人雇い入れたんです?」


 話を変えて兵士のことを尋ねた。


「とりあえず五十人だ」


「随分と思い切った雇い入れですね。予算はあるんですか?」


「給金を安くした分、二級市民として戸籍を与えた。望めば街に住むこともできるが、ここから離れんだろうからここで土地を所有する許可を与えた」


 かなり優遇したのがわかる。まあ、ここでは土地なんてただみたいなもの。開拓するのはドワーフたちなんだからな。


「五十人だとP90は足りんだろう」


 十丁くらいだったはずだ。


「請負員が魔物を追い払っているのでP90はおれらが管理しています。兵士には手斧や剣、弓を持たせています」


 まあ、町を守るくらいならそれで充分か。まだ攻めてくる軍隊もいないんだからな。


 ミロイド砦に向かうと、物資がところ狭しと積み重ねられていた。


「街から物がなくなりそうですね」


「そうだな。先を見る目を持つ商人はコラウスを出て、秋には荷物を大量に運んでくるだろうよ」


「そう言えば、アシッカに向かった商人もいましたね」


 ミヤマランに買いつけにでもいくのかな? 山脈の道も小さい馬車なら通れそうだし。


「やはり、夏にはアシッカにいくのか?」


「ええ。今年は海までいきたいですからね」


 道を造るのが主目的だが、水の魔石を手に入れるのも目的だ。


 ジュリアンヌ(マイヤー男爵領の魔石屋ね)のところで買った水の魔石はもうない。早目に手に入れないといざってときに困る。もう水魔法はオレに取って必要不可欠な力だからな。


「サイルスさんもいきますか?」


「さすがにいけるか。ミジャーやマガルスク王国のことがあるのに。本当ならお前に残って欲しいくらいだ」


 止めないところをみると、オレの立場はちゃんと理解してくれてるってことだ。


「カインゼルさんに留守は任せましたし、金印のマルデガルさんがいます。あの人も女神により駆除員となりました。コラウスに残ると言ってましたから頼るといいですよ。勇者に匹敵する力の持ち主ですから」


 まだ魔法の力を見せてもらってないが、あれだけの身体能力なら魔法だって相当なもののはずだ。


「なんの偶然か必然か、マルデガルさんは風の魔法が使えます。空を飛んでくるミジャーならマルデガルさんは天敵でしょう。被害は相当抑えられると思いますよ」


 そこにミシニーも混ざれば無敵だろうが、きっとミシニーはついてくるだろう。てか、ミシニーはまだマイヤー男爵領にいるのか? ほんと、自由なヤツだよ。


「マルデガル・ジェネスク。あの一族はなにか違うとは思っていたが、まさか駆除員の子孫だったとはな」


 ほんと、駆除員の遺伝子ってどうなってんだろうな? まあ、あのダメ女神がそんな些細なこと気にしないだろうけどよ。


「なので、そう心配することもないですよ。もしものときはアシッカから食糧を調達すればいいんですからね」


 今年は芋と豆を中心に植える。アシッカは人が少ないのだから充分他に流せるはずだ。


「お前はそこまで考えていたのか?」


「備えあれば憂いなし。余裕があれば多少の問題が起きてもすぐに立て直せます。コラウスには国と戦っても負けない地になってもらいたいですからね」


 一番の懸念はこの国。ソンドルク王国だ。他国と戦争して、その民を奴隷にした国など信じられるか。口出しされない領地にして対抗してやるさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る