第626話 オレは救世主ではない

 ──ピローン!


 こんなものかと思ったとき、電子音が脳内に響き渡った。仕事終わりに聴きたくない音だよ。


 ──七万匹突破だぁー! イェーイ!


 テンションたけーな。こっちは疲れてんだ、なにもないならさっさと終わらせてくれ。


 ──女王駆除、やったね! 二千万はボーナスだよ。これからもゴブリン駆除に励んでください。あ、光一さんが所有する蔵に金属の箱があるから譲ってもらってね。将来、必要になるかもしれないから。


 その必要になる将来を教えろよ! そこが肝心なことだろうがよ! 


「……まあ、不穏なことじゃないだけマシか……」


 てか、将来に必要になるってなんだ? アルセラがあるってことは古代エルフの道具か?


「考えても仕方がないか。いったときに調べたらいいさ」


 オレの頭の中にはマイセンズの情報が入っている。と言っても好き勝手に情報を出せるようにはなっていない。恐らくダメ女神がリミッターなり仕掛けたんだろう。うっすらと情報があって、強く思わないと明確に出てこないんだよ。


 缶コーヒーを飲んで一休みしていると、メビの気配が近づいてくるのを感じた。


 ロケット花火と空瓶を取り寄せ、打ち上げて場所を教えた。


 しばらくしてメビが到着。全力疾走でやってきたようで、激しく息をついていた。


「そんなに急がなくてもいいんだぞ」


 タオルを取り寄せて汗を拭いてやり、水を飲ませてやった。


「でも、ありがとな」


 オレのために急いで駆けつけてくれたんだから感謝は示しておこう。


「うん!」


 体は大人でも中身はまだ子供だな。


「ドワーフたちもきているのか?」


「サイルスのおじちゃんが率いて向かっているよ。百人くらい連れていくとは言ってた」


 百人か。かなりの数だが、それだけいれば魔石を取り出せるな。


「そうなるとキャンプ地を決めないとダメだな」


 砦から歩いて半日の距離。戻るのも大変だし、食糧調達するのも大変だ。サイルスさんたちがくるまでキャンプできる場所を探しておかないとな。


「あっちに川があったよ」


 キャンプと言えば水場があるところ。まあ、なくてもオレがいれば関係ないが、水があったことに越したことはないだろう。少なくとも水浴びできるしな。


 メビに案内してもらい、キャンプができるようマチェットを振って伐り拓き、ホームからキャンプ用具を運び出した。


 ミリエルやイチゴも合流し、サイルスさんたちがくるまで腹拵えをした。


 定期的に花火を打ち上げて場所を示し、暗くなる前にサイルスさんたちが到着した。


「お疲れ様です。今日はゆっくり休んで明日から魔石取りをお願いします。夕飯のあとは甘いものを出すので楽しみにしててください」


 この人を動かすなら甘いものが一番。グレートなパフェでも出してやろう。


「ふふ。お前は人の動かし方を知っているな」


「気持ちよく働いてもらいたいだけですよ。お前たちには酒を用意した。明日に差し支えないていどに飲むといい」


 エルフに負けず劣らず酒が好きな種族だが、長い奴隷生活で酒を飲んだことがある者は少ない。あまり強い酒は避けておこう。


 料理はミサロが作ってくれたのでドワーフたちには寝床を築いてもらい、今日は前夜祭的な感じで騒いだ。


 見張りはイチゴがいるのでオレらはホームで休ませてもらい、朝の六時に出てきた。


「イチゴ。問題はあったか?」


「なにもありません」


 まあ、昨日あれだけ暴れたら大抵の魔物は逃げ出すか。


 サイルスさんたちも起きてきたので朝飯を運び出し、八時から動き出した。


 五から六人で一組になってもらい、目印をつけながら魔石回収をしてもらった。


 オレ、ミリエル、サイルスさん、メビ、イチゴは魔物が襲ってこないよう警戒に出た。


 かなり広範囲になったので魔石回収は三日もかかってしまった。


「かなり勢力があった群れのようだな」


 爪先くらいの魔石の他にゴルフボールくらいの魔石が四十ばかりあり、首長と思われる魔石は拳大くらいあった。


 ……最初に潰してて本当によかったぜ……。


 チートタイムがない以上、正面切って戦うことはもうできない。サシで戦うなら巨人になってもいいが、群れとなったら爆撃したほうが確実だ。


「お前にしては形振り構わず動いたが、なにがあったんだ?」


 あ、説明してなかったわ。


「女王がいる群れでした」


「なっ!? それは本当なのか? お前の説明では国を滅ぼすほどの存在なんだろう」


「ええ。ただ、女神としてはそれほど脅威に思える女王ではなかったみたいですね。魔石もそれらしいものがないですし」


 色の濃さはあるものの、首長以外で大きい魔石はない。ドワーフたちの報告ではメスが何匹かいたが、特殊な姿をしたものはいなかったと言う。ってことはまだ幼かったってことだろう。


「恐らく、棲み家を追われた際、次の女王として選ばれたのでしょう」


 まあ、これはオレの想像だが、なにかがあって、次の女王を連れて逃げ出したのだろう。


「……なぜかは考えたくないことが起こったと言うことか……?」


「でしょうね。女神の言葉からして疫病が関係しているかもしれませんね。幸い、その疫病はドワーフにはかからないそうなので、早急に防衛陣を築いたほうがいいですね」


「ハァー。コラウスは呪われているみたいだな?」


「オレのせいではないですからね」


 魔女裁判みたいなことしないでくださいよ。


「わかっている。それどころかお前を遣わしてくれた女神様に感謝だ。そうでなければコラウスは去年、滅んでいたことだろうよ」


 ハァーはこっちだ。オレはただの駆除員だって、救世主みたいなことをさせられてんだからよ……。

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