第623話 オレが原因 *69000匹突破*

 オレ、まったく役に立たず!


 いやまあ、サイルスさんは元金印。メビは獣人。凡人に強さを2かけようと答えは凡人。銃をプラスしても凡人。凡人はどこまでいっても凡人なのである。


 捕まえたウリ坊を見張るだけのオレ。もう笑うしかないよ。


「そう鳴くな。この世は弱肉強食なんだからよ」


 ピギー! ピギー! と鳴くウリ坊ちゃん。弱いってことは罪なんだ。次生まれてくるときは強者になれるようダメ女神にお願いするんだな。聞き入れてくれるかは知らんけど。


「しかし、猪がいっぱいいるな。なに食ってんだ?」


 ウリ坊ちゃんは十八匹。成体は二十五匹。これが一時間もしないで狩られるんだから命豊かなところだよ。


「殺伐としてきたな、オレ」


 こんな世界で一年以上生きてたら甘いことなんて言ってられないが、命を刈るハードルが低くなっている。


「……嫌だな、平気で人を殺すようになるの……」


 クソ野郎ならまだ情緒の安定を図れるのに、この手で殺したのはオレとは関係ない人間。本当に殺す必要があったのかと考えてしまうのだ。


「──タカトー! 珍しいの捕まえたよー!」


 メビの声がしたので嫌な記憶を振り払った。


「なんだ、珍しいのって?」


「赤いウリ坊だよ!」


 って見せられたウリ坊は確かに赤かった。新種か?


「赤岩猪だよ。大きくなると五メートルくらいになるんだ。ニャーダ族でも狩るのが大変なヤツなんだ」


 五メートルって、この世界の猪は巨大化する傾向があるのか?


「もしかして、サイルスさんが倒したのか?」


 さすがのメビでもそんなのは倒せんだろう。


「うん。四メート近いヤツ。解体するからドワーフを呼んできてくれって」


 サイルスさんにしたら雑魚でしかないか。ゴブリン首長(元王)を単独で倒しちゃう人だしな。


「そっか。頼むよ」


 オレはウリ坊ちゃんを見張るって大仕事があるんでな。


「すぐ呼んでくるね! これお願い!」


 脚を縛った赤ウリちゃんを放り投げるメビ。三キロはあるんだから投げないで。


 なんとかキャッチしてウリ坊ちゃんたちの横に置いてやった。


「ゴブリンが動き出したな。血の臭いに気づいたか」


 ラダリオンにも負けない嗅覚を持った害獣だよ。


 しばらくしてドワーフたちがやってきて、女たちにウリ坊ちゃんたちを任せてオレも赤岩猪のところに向かった。


 二キロほどのところにでっかい赤い猪が倒れていた。首はなかったけど。


「メビ。プランデットをかけろ。ゴブリンに囲まれている」


 ハイエナも真っ青な集まり具合だよ。


「了解」


 プランデットをかけたら416デルタフォースを構えた。


「銃声が響き渡るが気にしなくていい。ゴブリンを狩るだけだから」


 銃のことは知っているだろうから驚くことはないだろうが、念のため注意しておく。


「撃つときは方向に注意しろよ」


「了解。ヘマはしないよ」


 グッとサムズアップさせるメビ。もしかしてオレ、知らず知らずのうちにこんなことやっていたのか?


 元の世界の仕草や言葉を使うな~と思ってたが、よくよく考えたらオレがやらないとメビがやるわけがない。ってことは、オレがやっているのを真似ていると見るべきだろう。


「そ、そっか。じゃあ、まずは一時方向、二十三メートルのところに二匹いる。そこから後方に五匹。いけ」


「了ー解!」


 バビュンと駆け出し、五秒もしないで到達。流れるようにゴブリンを駆除していった。


「右に十メートル。三匹だ」


 こちらの指示に流れるように応えるメビの凄いことよ。オレの周り、チートなヤツらばっかりだよ!


 三十分もしないで周囲にいたゴブリン百匹強を駆除してしまった。


 ──ピローン!


 もう? 他でもゴブリン駆除をやっているのか?


 ──六万九千匹突破! 約千匹を率いた首長が北西からやってくるから七万匹まで突っ走れ! ゴーゴゴー!


 いや、ゴブリン大杉くん! 他の魔物はなにやってんだよ! ゴブリンに負けてんじゃないよ! 


 あと、距離と時間まで言いやがれ! いつも情報が不足してんだよ! クソが!


「サイルスさん、砦に向かってください! ゴブリン千匹がやってきます! 請負員を集めて備えてください! メビはここを頼む! オレが時間を稼ぐ」


 ホームに入り、ブラックリンを出してきた。


「ミリエルにホームで待機するよう伝えてください」


 そうサイルスさんに告げて飛び立った。


 上空五百メートルまで一気に上昇し、北西に向かった。


 察知できないことからして軽く十キロは離れているだろう。ゴブリンの歩みからして二、三時間の猶予はあるはずだ。


 五分くらい飛ぶと、密集したゴブリンの気配をうっすらと感じた。


 気配から飢えた感じや怒りの感じはない。これは、焦燥か? なんかイライラしている感じがする。なににイライラしてんだ?


 北西からってことはマジャルビンがいた方向とは違うな。マガルスク王国からでもない。なにかに追われて逃げてきたんだろうか?


 気配からじゃなにもわからんが、千匹の群れがミロイド砦方向に向かっているのは間違いない。なら、駆除するまでだ。


 千匹ならオレとミリエルでなんとかできるだろう。ホームの拡張代を稼がせてもらうとしようじゃないか。

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