第622話 疫病

 嘆きの洞窟からミロイド砦まで、そう遠くないので一時間くらいで到着できた。


「かなり発展したな」


 ミロイド砦の前(西側・マガルスク王国側)にスラム的な町ができていた。


 ただ、考えなしに建てているからか、スラム感が拭えない。これは早めに都市計画を立てないと将来大変な思いことになるぞ。


 ミロイド砦も改修が始まったようで、たくさんの人が働いている感じだった。


「タカト! あそこにミリエルがいるよ!」


 メビが指差す方向、川の川上にミリエルやメー&ルー、サイルスさん、ルスルさん、ドワーフたちがいた。


 ブラックリンを旋回させてそちらに向かった。


 ゆっくりと降下させ、ふわりと着陸させる。


「メビ。あちらにゴブリンが二十匹ばかりいる。片付けてきてくれ」


「了解!」


 新しく買ってやった416のデルタフォース仕様(雑誌から取り込んだヤツ)を掲げて森の中に駆けていった。


「お疲れ様です。なにかありましたか?」


 ミリエルはこれといった問題はないと言っていたが。


「いや、人が増えてきたからな、水の調査をしていたのだ。用水路を造るか井戸を掘るかをな」


 やはり水か。この川も幅が二メートルで水深もそれほどない。飲料水としても不安になる水量だろうな。


「井戸を先に掘ったほうがいいかもしれませんね。今年は雨が少ないでしょうから」


「それは本当なのか? 女神様の言葉を疑うわけではないが……」


「まあ、信じる信じないは好きにしたらいいですよ。雨が降らなくても山には水が含まれているでしょうね。地上の水は減っても地下の水は豊富でしょうから」


 魔境は高い山があり、万年雪が積もっているとマルデガルさんが言っていた。なら、下流に位置するここなら地下水が流れているはずだ。


「井戸がいくつかあるなら水に困ることはないでしょう。今年を乗り越えればまたいつものように雨が降るでしょうしね」


 雨が降っただけ晴れると、コラウスに住む者に取って常識になっている。急激な環境変化でもないのなら来年は雨が降るってこと。今年だけが異常なんだろうよ。


「去年は麦の収穫がよかったんですよね?」


 領主代理はすべての倉が埋まったと言っていた記憶がある。酒の席だったので絶対とは言えないが。


「ああ。お前たちがゴブリンを狩ってくれたからな」


「倉を建てて麦をこちらに運ぶといいと思いますよ。食糧があるとドワーフたちに見せれば不安になることもないでしょうし、安心して町を築いてくれるでしょう。今、ドワーフって何人くらいになったんです?」


 三百人は超えたとはミリエルから聞いたが、なんかそれ以上いる勢いだったぞ。


「昨日で五百人を超えました」


 とはルスルさんだ。


「それ、マガルスク王国が崩壊しているんじゃないですか?」


 奴隷だった者が五百人も逃げてくるって尋常じゃないだろう。とんでもないことが起こっている証拠だ。


「疫病が流行っているそうです。人間だけにかかるものらしいです」


「ミリエル。発熱した人間はいるか?」


「いえ、いません。皆さん、元気です」


 ドワーフにはなんらかしらの抗体があるから移らないってことか?


「サイルスさん。ドワーフを組織してマガルスク王国から逃げてくる人間は入れないようにしてください。発熱しているようなら処分を。発熱してない者は十日くらい隔離して様子見するべきですね」


「ああ。マガルスク王国の者はいれないよう通達しているが、もう一度徹底させよう。ルスル。頼むぞ」


「わかりました。マグ。人を砦に集めてください。わたしから指示を出しますので」


「わかりやした」


 マグってドワーフが代表なのかな?


「ロズたちはどうしたっけ?」


「マガルスク王国に向かいました」


 あ、いったのか。逃げてきたドワーフの対応で諦めたのかと思ったよ。あ、ロズに弟いたな。なんて名前だっけ? 思い出せん。


「そうか。無事帰ってくることを願うとしよう……」


 前に言ったことを覚えてくれているといいんだがな。生きて帰ってこいって。じゃないと助けにいけないからな。 


「──タカト! ウリ坊を捕まえたよ!」


 ゴブリン駆除に駆けていったのに、なぜか猪の子を両手につかんで戻ってきた。


「異世界の猪の子もウリ坊って呼ばれてんだな」


 てか、ウリがあるんだ。まさか、光一さんが原因か?


 マルデガルさんにサツマイモのことを聞いたら光一さんが元の世界から持ってきたそうだ。


 十五日縛りをどう突破したかと思ったら、準備金で買ったものだったとは。ダメ女神らしいオチである。


「丸焼きにして食べようよ!」


 野生児の発想だな。


「他にもいたか?」


「うん。いっぱいいたよ」


「ここにドワーフが住み始めて魔物が減ったから集まってきたんだろう。魔物とも言えない獣は人が住む近くにいつくからな」


 とはサイルスさん。さすが元冒険者ギルドのマスターだった人だ。


「食うのは止めて飼うとしよう。いいエサを食わせてゆったり飼えば美味い肉になるだろうよ」


 どうするかは知らんが、それなりに育ててれば野生で育つより美味い肉になるはずだ。


「ミリエル。ドワーフに話してくれるか? オレとメビでもっと捕まえてくるよ」


 いっぱいいるならドワーフたちに食わせてやるとしよう。丸焼きはちょっと食ってみたいしな。


「わかりました。メー。ルー。ウリ坊をお願い」


「「わかった」」


 ミリエルの言葉に素直に従うメー&ルー。飼い慣らされたのか?


「おれもいこう。久しぶりに体を動かしたいからな」


 ってことで、サイルスさんも一緒に狩りにいくことにした。

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