第618話 家庭円満

 一日、なにもせず、朝から酒を飲み、ミサロが作ってくれた料理を食べて眠った。


「……工場で働いていたときの休みとなんら変わらねーな……」


 一番ダメな休日の過ごし方なのはわかる。でも、こんな過ごし方しかできないんだよ。社会人ならわかってくれるよね!


 お昼過ぎくらいに眠りについたから十八時くらいに起きてしまった。


「あら、もう起きたの?」


 中央ルームにはミサロだけ。他はいなかった。


「皆は?」


「それぞれの場所でバーベキューしてるそうよ。シエイラはまだ城から帰ってないわ」


 シエイラ、まだ領主代理に捕まっているのか? まあ、いろいろ問題があるから対策に付き合わせられてんだろうよ。シエイラ、補佐役として優秀だからな。


「そうか。コーヒーを頼む」


 さすがに寝起きで酒を飲む気にはなれん。コーヒーで濁った頭をすっきりさせるとしよう。


 ブラックコーヒーを淹れてもらい、チビチビと飲んで頭を目覚めさせた。これは、体を動かさないと明日に差し支えるな。


「……静かだな……」


 おしゃべりな者はいないが、それでも六人揃えば賑やかになる。誰かはしゃべっているものだ。それが二人だとこんなに静かになるとはな。ラダリオンと二人のとき、どんなだったっけかな?


「寂しい?」


「いや、寂しくないよ。見えるそこにミサロがいるしな」


 静かでも孤独ではない。誰かの温もりがホームに残っている。匂いが残っている。オレは一人ではないと教えてくれるのだ、寂しいなんて感じないさ。


「……タカトはそういうこと平気で言うんだから……」


 あん? オレ、なんか変なこと言ったか?


 なぜか横に座ってくるミサロ。なんだい、いったい?


 まあ、見た目は大人だが、実年齢は十七歳。甘えたいときもあるんだろと、好きなようにさせた。


 甘えん坊が発動したのか、膝枕をしてくるミサロ。魔王軍では甘えるなんてことできなかったはず。それは日頃の態度からも察せられる。


 他に誰もいないんだから皆が入ってくるまで甘えさせてやろうと、頭を撫でてやった。でっかい犬だな。


 いつの間にか眠っていたのはオレのほうで、起きたらマットレスで寝ており、なぜかオレが膝枕されていた。


「そのままでいいよ」


 起き上がろうとしたら頭を押さえられ、膝に押しつけられてしまった。


 ……オレの大好きな匂いだ……。


 体臭なのかボディソープの匂いか、とてもいい匂いがする。


 落ち着いてきたのか、また眠気が襲ってき意識が落ちていった。


 次に目覚めたときは一人で寝ており、ミサロの代わりにラダリオンがマットレスを枕にして眠っていた。


「……五時か……」


 なんだかんだと十七、八時間も眠っちゃったよ。結構疲れが溜まっていたんだな。体がすっごく軽いよ。


 ラダリオンを起こさずユニットバスに向かい、熱いお湯で体や意識を目覚めさせた。


 さっぱりしたところにビールを流し込みたいが、ゴブリンの片付けも終わったのだから嘆きの洞窟にいくとしよう。恐らく、倒した以外のマジャルビンが巣くっているだろうからな。


「……タカト、おはよ……」


「あい、おはよう。まだ早いからまだ寝てていいぞ」


 久しぶりに長く眠ったから体が鈍っている。ガレージで軽く体を動かすとしよう。


 ジャージに着替えて準備運動をしたら縄跳び、腹筋、腕立て伏せ、サンドバッグを打った。


「……お、衰えてんな……」


 身体能力がアップしても日頃から体を動かしてないと体力は落ちるんだな。道具に頼りすぎているのも考えものだな。


 兵隊が何十キロと歩くのは体力強化や鈍らないようにしてたんだな。


「オレもレベルアップする体にして欲しかったよ」


 元の世界のものが買えなくなるのは嫌だけどさ。


 またシャワーを浴びて出ると、ミリエル、雷牙、ミサロが揃っていた。シエイラは街から帰れないのか。


 挨拶を交わし、軽く状況を聞きながらミサロが作ってくれた朝飯をいただいた。


「ラダリオンは館を頼む。巨人たちの補給も溜まっているだろうし、嘆きの洞窟はオレたちだけで攻略するよ」


「わかった」


「雷牙たちはアルズライズたちが戻ってくるまでなにかするのか?」


「山小屋を作るって。ロンダリオたちがしばらくそこでゴブリン駆除するみたいだよ」


 まあ、あそこもゴブリンがたくさんいる気配がしていたからな。これから暖かくなればさらに増えるだろうよ。


「ミリエルはまだミロイド砦にいるのか?」


「はい。ドワーフの中に手足を欠損した者が多いので回復してくれと頼まれているので」


「病気のヤツがいたら回復薬を使えよ。回復魔法は病気をさらに悪くするかもしれないからな」


 ミリエルの回復魔法は欠損部位を回復させるほど強力ではあるが、万能と言うわけではない。悪い腫瘍を増大させるなんてこともあり得る。回復させたら死んでしまったでは笑えんからな。


「はい。それを含めてドワーフに協力いただいています」


 ミリエルはそういう現実的な目を持っているから頼りになるんだよな。


「まあ、死ぬ前に回復薬を飲ませろよ」


「はい。任せてください」


 にっこり笑うミリエルが恐ろ頼もしいよ……。


 朝飯が終わればオレも支度をしてラダリオンにダストシュート移動してもらった。

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