第617話 魔力欠乏症

「怪我はないか?」


 あの弾丸みたいな触手を反動の大きいデザートイーグルで撃ち落とし、マジャルビンまで肉薄。外皮(?)を剥がした。並みの者なら最初の触手で死んでいたはずだ。オレも危うく殺されるところだったし。


「無傷」


 にっこり笑うラダリオン。そんな姿は普通の女の子なんだがな。


「よし。ダストシュート移動してくれ」


 ブラックリンから飛び降りて巨人化。四、五倍になったヒートソードをマルビジャンに落としただけ。玄関に現れたときに床に鼻を打ったくらいで疲れてもいない。マジャルビンの魔石でも回収するとしよう。残っていれば、だけど。


 ラダリオンにダストシュート移動してもらい外に出ると、水蒸気が辺りに満ちていた。


「生臭いな」


 ゴブリンの死臭と混ざって気持ち悪い。防毒マスクをするとしよう。


「あ、ヒートソード、元に戻さないといけなかったんだ」


 まあ、元に戻すの面倒だし、モニスやるか。ヒートソードでマルビジャンを倒せるとわかっただろうしな。次は任せるとしよう。


 時間とともに水蒸気も収まっていき、なんか表現し難いマジャルビンの死骸が現れた。


「……あの中から魔石を取り出すの嫌だな……」


 仕方がない。可能な限り水分を飛ばすとしよう。あらよっと!


 全力で水分を集めてゴーゴンの巣にポイ。さらに集めてポイ。ポイポイのポイ。で、カサッカサになった。


 ……オレも魔力が飛んでいってカサッカサになりそうだわ……。


「ラダリオン。魔石を取り出してくれ」


 ちょっと休ませてください。脚がガクガクしてきたわ。


「タカトさん、大丈夫ですか? 魔力欠乏症になってませんか?」


 正座で地面に座っていると、ミリエルやモニスたちがやってきた。


「ま、魔力欠乏症?」


 なんじゃそりゃ?


「寒いとか体に力がはいらないとかです」


「あー。体に力は入らないな。そこまで酷くはないが」


「それが魔力欠乏症です。急激に魔力を使用すると起こるものです。下手すると死んでしまうので気をつけてください」


 マジか。そんなことあるんなら先に言ってて欲しかったよ!


「わ、わかった。気をつけるよ」


 まさか魔法にそんな落とし穴があったとは。次からは気をつけて使うとしよう。


「ハァー。何事も上手くいかないものだな」


 銃を使えば金がかかり、魔法を使えば命の危機がある。何事もメリットデメリットがあるとは言え、ないものねだりをするのが人間ってものだ。


「タカト、魔石があったよ!」


 巨人のまま魔石をつまんでいるラダリオン。サッカーボールくらいありそうだ。


「ご苦労様! ホームに運んでおいてくれ!」


 あのサイズならボックスロッカーに入るだろう。なんでも黒い魔石は転移魔法に使えるそうだ。この世界の魔法ってなんでもありだよな。


「わかった」


「よし。ゴブリンもいなくなったし、集落に戻るとしよう。明日は休みにしよう」


 オレも魔力欠乏症っぽいので大事を取って一日休ませよう。


「ミリエル。体力はあるか?」


「はい。全然大丈夫です」


「それならミロイド砦に戻ってくれ。双子のこともあるしな。オレはホームで休ませてもらうよ。もう動ける気がしないよ」


 今も立ち上がる気になれない。声は普通に出せるんだがな。


「わかりました」


「イチゴに送ってもらえ。ゴブリンからマナックができたしな」


 自分で向かうのもイチゴに送ってもらうのもマナックの消費は大差ない。ミリエルの安全が買えるなら送ったほう得だろうよ。


「ラダリオンは、皆と一緒に戻ってくれ。オレはここからホームに入るよ」


 ダストシュート移動、万歳である。


「わかった」


 サンキューとホームに入った。


「あ、タカト。ちょうどよかった」


 ホームに入ったら雷牙がいた。どうした?


「アルズライズがパイオニアを使いたいんだって。ミヤマランの様子を見にいきたいって言ってた」


 山脈を越えてからゴブリンが現れたんだ。そこまで聞いてなかったよ。


「わかった。オレをダストシュート移動させてくれ」


 パイオニアは自分の装備だと思わないといけないし、玄関まで移動させる必要がある。体格のせいで雷牙には運転できないのだ。


 回復薬中と水を飲み、回復させた。


「回復薬は魔力回復もできるんだな」


 そんな感じはしてたが、今回のことではっきりした。回復薬は魔力も回復させる万能薬だってな。


「ダストシュート移動するよ」


「あいよ」


 で、ダストシュート移動してもらった。寒っ!


 さすが二千メートル級の山脈。まだ雪が残っており、気温も一桁台だった。


「タカト、悪いな忙しいときに」


「大丈夫だよ。ちょうど終わって帰るところだったから」


「パイオニアは一台でいいのか?」


「ああ。まずおれとゾラ、マリットの三人で様子を見にいく。ゾラたちはミヤマランにいったことがないと言うんでな」


「じゃあ、一号を出すよ。もしものときは放棄して構わない。もう古くなったからな」


 整備すればまだまだ走れるが、その整備している時間がない。輸送部の連中もタイヤ交換くらいしか教えてないしな。


「わかった。まあ、大事に使うよ。戻ってくるのが大変になるからな」


 パイオニア一号を出してきてアルズライズにキーを渡した。


「オレらは明日を休みとした。一日中ホームにいるから緊急時は連絡ボールを取り寄せてくれ。ここからミヤマランまでならブラックリンでひとっ飛びだからな」


「了解」


「もういくのか?」


 三人がパイオニア一号に乗り込んだ。


「ああ。街の前で野営して朝から行動しようと思ってな」


「そうですか。まあ、安全運転で向かってください」


 出発する三人を見送ってからホームに戻った。

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