第616話 相棒ラダリオン *68000匹突破*

 ゴブリンから魔力を吸うのと片付けるので三日もかかってしまった。


 その途中、六万八千匹を突破したが、忙しくて流してしまったよ。マジャルビンがゴブリンを食らいにくるってことらしいがな。


「いや、ゴブリンを食うのがいるんかい!」


 ほんと、そういう重要なことは先に言えや! それならゴブリンをマジャルビンのところに誘導してやったのによ!


「タカト! でっかいマジャルビンがこっちに迫ってるよ!」


 偵察に出てくれたメビやマーダたちが戻ってきた。


 ハァー。あのダメ女神は迎え撃つ準備もさせてくれないのかよ。


「ご苦労さん。皆は下がっててくれ。ラダリオン。やるぞ」


「わかった」


 小さくなっていたラダリオンが元のサイズに戻った。


「戦うのか? 家を包み込むほどの大きさだぞ」


 マーダたちは信じられないって顔で驚いていた。


「マジャルビンの倒し方なら何十もあるよ。ただ、もっと安全に倒せる方法を使いたかったがな」


 マジャルビンの巣にゴブリンを引き寄せ、膨らんだところをマルダートをつけたドローンを突っ込ませる、ってことをやりたかったよ。


「タカト、あれを倒せる方法が何十もあるのか? 魔法は効かんし、獅子王ですら逃げる相手だぞ」


 マルデガルさんも怪訝そうな顔をしている。金印でも厄介な生き物なんだ。


「移動速度も遅く、長距離攻撃もない。ただ、水の触手を振り回すだけの水袋ですよ」


 ライダンド伯爵領のロズ村の近くにあったマルダ洞窟。あの中にいたのはマジャルビンだったようで、魔王が使役した存在だったんだってよ。


 ……一年も前のことを今言うなって話だよ。クソが……。


「モニス。悪いがマジャルビンが進路を変えたらゴブリンの死体を放り投げてゴーゴンの巣に誘導してくれ」


 マジャルビンが向かう先はゴーゴンの巣に捨てたゴブリンだろうが、異変に気づかれて逃げられても困る。出てきてくれたのならありがたく倒させていただきましょうだ。


「二人でやるのか?」


「二人で充分ですから。ラダリオンは先日もマジャルビンを倒してますしね」


 AA−12二丁で蜂の巣にしたあと、百キロの塩を振り撒いて倒したよ。


 それならラダリオンに任せてもいいのだが、塩を買ってないし、食べ物を殺しの道具に使うのは日本人として失格のような気がする。他にも手段があるのだからやらないでおこう。


「ラダリオン! 頼むぞ!」


「任せて」


 二人でホームに入った。


 オレはイチゴとブラックリンに跨がり、ラダリオンは腰のベルトをデザートイーグル二丁に換えた。


 なんでもマジャルビンの表面は粘りけがある水を纏い、多少吹き飛ばしても死ぬことはないが、中心部に内臓っぽいものがある。そこも再生能力は高いが、熱には弱かった。


 もうそれだけわかれば充分。対処法も導き出されるってものだ。


 この世界、理不尽な生き物が多いが、不死の生き物はいない(と思いたい)。ちゃんと死ぬ生き物で構成されている。殺す手段がわかったらなにも怖いことはない!


「よし。やるぞ、ラダリオン」


「うん!」


 先にオレが出て空高く飛んだ。


 ◇◇ラダリオン◇◇


 タカトが出ていったのであたしも外に出た。


 マジャルビンはなんだか腐った水の臭いがするからすぐ位置がわかった。


 モニスがゴーゴンの巣に導く必要もなくマジャルビンはそちらに向かっている。


 ミロイド砦でもそうだったけど、あいつらは知能は低いが、食欲は旺盛だ。そこにエサがあるなら周りなど関係なく突っ込んでくる。


 マジャルビンと言う生き物を知ってしまえばなんてことはない。大きいだけの鈍重な魔物など怖くもない。慎重で臆病なタカトが一切恐れないのもわかる。これはただの水袋だ。


 だからって油断はしない。水の触手は厄介だ。当たればあたしでも怪我をするだろう。


 近づいてきたあたしに気がついたマジャルビンが触手を伸ばしてくる。が、一直線にしか伸ばせないことは知っている。


 右腰に差したデザートイーグルを抜いて真っ正面から撃ち崩してやる。


 次々と放ってくる触手を撃ち崩してやり、近距離まで近づいた。


「くたばれ!」


 左腰のデザートイーグルを抜いてマジャルビンに突き刺し、連続で撃ってやった。


 デザートイーグルのマズルフラッシュはもう武器だ。いや、巨人サイズになったデザートイーグルそのものが凶器だけど、マズルフラッシュだけでロースランくらいは殺せるだろう。


 弾が切れたらすぐにマガジン交換。本体を包む水袋を剥いでやった。


 半分くらい剥いでやればさすがのマジャルビンも回復に動きを止める。それが自分の最後とも知らずに。


 あたしの役目はこれまで。すぐその場から逃げる。


 それを狙ったかのように、空からタカトの匂いがした。


 あたしが隠れられるくらいの木の陰に飛び込み、マジャルビンを見ると、ちょうど巨大化したヒートソードが突き刺さるところだった。


 二千度まで高まったヒートソードに勝てる生き物はそうはいない。体のほとんどが水分なら特にだ。


 一瞬にしてマジャルビンが沸騰。体内から水蒸気が発生。そして、爆発した。


 タカトはこういう戦いをさせたら無敵の強さを見せる。これで自分は弱いと言っているんだから信じられないよ。


 あれで終わりと判断し、ホームに入る。


 そこには玄関にへたり込むタカトがあたしを見てにっこり笑った。


「お疲れさん、相棒」


 あたしだけに言ってくれる言葉にあたしも笑って返した。


「うん。お疲れ」


 恥ずかしいので心の中で「相棒」と返した。

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