第612話 砂ミミズ・ゴーゴン
一晩開けてニャーダ族の長に会わせてもらった。
長と言ってもニャーダ族を束ねている者でなく、長生きした者が代表で立っているだけで、大事なことを決めるには集落で強いヤツが判断するそうだ。
なかなか野生的な基準だが、こんな環境ではそうしないといけないんだろう。オレがどうこう言うつもりはないさ。
「しばらく厄介になります。これを受け取ってください」
もう一年くらい会ってないが、たまに刃物屋のガズが剣や槍、斧なんかを売りにきているようで、こんなときのためにすべて買い取っているのだ。
マーダも食料より鉄の武器が喜ばれると言っていたなので、鉈に近いものを二十本ばかり差し出した。
「ああ、ありがたくもらっておくよ。ゆっくりしていくといい」
完全に御輿扱いだな。
どう振り分けるかは集落で決めてもらい、長の前から下がった。
「まずは、邪魔なゴブリンを集める。マーダ。数千集まっても大丈夫なところはあるか? 狩場から離れているほうがいいな」
「それならいいところがある」
と、マーダに案内された場所は集落から五キロほど離れたすり鉢状の……なんだ? どんな自然現象が起こればこんな地形になるんだ?
広さはサッカーコート三面分はあり、まるで蟻地獄のような感じを出していた。
「ここはゴーゴンと呼ばれる砂ミミズの巣だ」
砂ミミズ? なんじゃそりゃ?
「その、ゴーゴンとやらはニャーダ族に取って重要な生き物なのか?」
「特に重要なものではないな。集落を襲いにきた人間を捨てるくらいだ」
ま、まあ、そいつの自業自得。撃っていいのはなんとやらだ。
「じゃあ、問題ないな」
手榴弾を取り寄せて、ピンを抜いて力一杯投げ放った。
すぐにマルチシールドを展開。爆発を防いだ。
五秒後に爆発。砂がマルチシールドに当たるのがわかった。
「……爆発では出てこないか」
マルチシールドを解き、爆発したところを見るが、ゴーゴンが現れることはなかった。
次に水タンクを取り寄せ、マーダに投げ放ってもらい、ファイブ−セブンを抜いて水タンクを撃った。
「水でも出てこないか。出てくる条件はなんなんだ?」
「……確認したことはないが、死体だと出てくるんじゃないか?」
「ってことは臭いで判断するのか」
それとも血か? 腐液か? ともかく、振動や水で出てくるわけじゃないんだな。
「よし。処理肉を縁に撒くとしよう」
周辺にいるゴブリンは空腹ではないみたいだが、肉は滅多に食えないものだとはわかっている。肉があれば他を置いてもやってくるだろうよ。
オレがホームに入り、処理肉を買ってダストシュートしていき、ばら撒くのは皆に任せた。
三百キロ近く買い、どんな感じか外に出て確かめた──ら、ゴブリンがこちらに向かって押し寄せてきていた。
「もうかよ! ラダリオンたちはあちらに移動しろ! マーダたちは五十メートルくらい離れて木に登れ! マルデガルさんはあちらをお願いします。首長らしき強い気配を感じます。半分狂乱化しているから現れたら問答無用に駆除しろ!」
二千じゃ収まらない。軽く四千匹はいるぞ! どこに隠れていたんだよ!?
結構いるのはわかっていたが、それでも千匹くらいの気配だった。それが四千匹に膨れ上がるとか、地下に潜んでいたのか? って、そんなこと考えている場合ではない。
両腕のマルチシールドを檻のように展開し、腕から外した。
「ここで迎え撃つの?」
うおっ! メビ、いたんかい! いるんなら言えよ! マルチシールドで貫くところだったろうが!
なんて確かめなかったオレも悪いので、グッと飲み込んだ。
「いや、囮だ。処理肉をばら撒く」
これはモニスやマーダ、マルデガルさんにゴブリン駆除をやらせるためのもの。オレは集めるのに徹するよ。
「稼ぎたいなら外に出ていいぞ」
「ううん。とーちゃんたちに譲るよ。結構稼いでいるしね」
「ふふ。親孝行な娘だよ」
マーダにしたら娘に気を使われて憤慨するだろうが、これからを考えたらしっかり稼いで欲しいので娘の思いに応えてくれ、だ。
「きたぞ。防毒マスクをしておけ」
「了解」
まだ百メートルは離れているのにワキガのような臭いが流れてきている。この臭いにも抵抗力を持たせて欲しかったよ。
オレも防毒マスクを取り寄せて装着──したら先頭のゴブリンが現れた。
「……体格いいな……」
やはり森が豊かだと食い物も豊富なんだろうか? 狂乱化するほど肉に飢えているが……。
津波のようにゴブリンが押し寄せるが、マルチシールドはびくともしない。ジャングルジムを乗り越えるように通りすぎていった。
「うわ! 汚っ!」
ゴブリンのヨダレが降ってきたのてマルチシールドを腕に嵌めて上部を閉じた。元に戻す前に洗うとしようっと。
「始まったな」
AA−12の銃撃音が聞こえ、報酬が凄い勢いで入ってきた。
「メビ。ちょっとホームに入る。暇なら撃っても構わないからな」
さすがに多すぎる。ゴーゴンの巣が溢れるかもしれないし、この人数では対処できないかもしれない。そのときの用意をしておこう。
「了解。グロックの練習をしてるよ」
「ああ。じゃあ、いってくる」
メビの頭を撫で、ホームに入った。
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