第611話 ニャーダ族の集落

 進みは順調だった。


 未開の地かと思ったが、魔境を迂回する道があり、意外にもそこそこ往来があるんだそうだ。それならパイオニアでくるんだったよ。


「マルデガルさん。次はやや右。三十歩先に二匹隠れています」


 アルズライズも凄かったが、マルデガルさんはさらに上をいっている。チートタイムがあったとしても勝ち切れない体力とスピードである。一時間で百匹は駆除してしまった。


「よし。二匹倒した」


 返事にまったく疲れを感じない。普通の人なら全力疾走で移動しているのに息切れ一つ起こさないよ……。


「了解。休憩しますか?」


「大丈夫だ。まだまだ疲れていないよ」


 光一さんはどんだけ強かったんだ? マルデガルさんなら魔王と戦えるんじゃないか? 少なくともローダーは確実に単独で倒せる強さだぞ。


「ラダリオン。疲れないか?」


 歩きながら常に菓子を食べているけどさ。


「まだ一時間で疲れないよ」


 皆元気で羨ましいよ。


「メビ、酔ったりしないか?」


 スコープを覗きながら周囲を警戒するメビ。大丈夫なのか、それ?


「大丈夫だよ。パイオニアを運転するより揺れてないし」


 いや、かなり揺れるよ! お前、どんだけ荒い運転してんだよ! まったく、他が凄すぎてついていけんわ。


 二時間毎に休憩を挟み、二十キロほど進んだところで陽が暮れてきた。


 巨人の歩幅なのに二十キロしか歩けなかったか。まあ、マルデガルさんのゴブリン駆除を指示しながらだから無理はないんだけどな。


 モニスたちに道の脇を切り開いてもらい、そこを今日のキャンプ地とした。


 ラダリオンとホームからキャンプ用具と料理を運んできて、皆で食事をした。


「オレとイチゴが見張るからモニスたちはゆっくり休んでいいぞ。明日もたくさん歩くだろうからな」


 オレは指示していただけなので眠気はない。午前二時まで起きて、あとはイチゴに見張りを任せるとしよう。


「ラダリオンはホームでゆっくり休めな。マルデガルさんもセフティーホームで休んでください」


「いや、夜中に出てくるよ。一人で動くことは多いが、隊で動くこともある。すべてを一人に任せるのは不和の元だ。しっかり役目を振り分けろ」


 さすが金印の冒険者。頼りになる言葉である。


「わかりました。モニスたちは先に休んでくれ。八時間後に起こすから。マルデガルはまだ起きてられますか?」


「問題ない」


「では、二十二時まで見張りをお願いします。五時まで休んでください。メビも同じな」


「了ー解」


「わかった」


 見張りの順番を決め、順々に休み、何事もなく朝を迎えた。


 久しぶりの野営で体は重いが、まあ、今日も移動とマルデガルさんへの指示だ。大丈夫だろう。


 用具を片付け、ホームから運んできた食事をして出発する。


 午前中、道を進み、途中から道を外れて山の中に入った。


「モニス。そのまま西に進んでくれ。マルデガルさん。ゴブリン駆除は終わりましょう。木々が密集しすぎて手間ばかりかかるでしょうからね」


「了解。殿につくよ」


 指示がなくなったのでオレも周囲の警戒をする。まあ、巨人が五人もいたら並大抵の魔物が寄ってくることもないだろうよ。


 深い山なのでまっすぐに進むことはできないので、山の頂上に立ったら方角を確認し、夕方近くなってマーダたちの気配を感じ取れた。


「あ、ここ見覚えある。集落までもう少しだよ」


 キャンプしようか悩んでいたらメビが声を上げ、リュックサックから飛び降りた。ニャーダ族もチートだよ。


「誰か聞こえるか?」


 たぶん、三キロも離れていないのでプランデットで呼びかけてみた。


「──ハルスだ。聞こえるぞ。タカトか?」


「ああ。三キロくらい離れた場所にいる。ラダリオン以外に巨人を四人連れてきた。ハルスから見て南東方向だ。この距離なら暗くなる前には着くと思う」


「了解した。こちらからも迎えを出す」


 十七時になるが、三キロくらいなら一時間くらいで到着できるだろう。


「タカト! こっちだよ!」


 木に登ったメビが集落があるほうを指差した。


「モニス! 集落までもうちょっとだから進むぞ! がんばってくれ!」


「わかった」


 何事もなく進み、ニャーダ族の男が二人、迎えにきてくれた。


「もうすぐだ!」


 と、言う通り、ニャーダ族の集落にはすぐ着いた。


 人攫いどもに滅ぼされたと思っていたが、四十人くらいのニャーダ族が暮らしていた。


「ニャーダ族って結構いたんだな」


「ここでは纏まるほうが危険だからな。集落を分散させて生きていた」


 マーダに言ったらそんなことが返ってきた。


「いっそのこと町でも造ったらどうだ? 巨人の力を借りたら一年でそこそこの町にはなるだろう。巨人族も別の棲み家もできて種が増やせるだろうよ」


 リハルの町から約二日。巨人が五人もあるけば獣道より立派な道ができたようなもの。往来するにはそう苦ではないだろうよ。


「ここならゴブリンを根絶やしにするのに何百年とかかりそうだしな。土地を伐り拓き、畑を作り、家畜を飼うまでゴブリン駆除の報酬で生きていけるはずだ」


 早々、人間が攻めてこれるような場所でもない。二十世紀くらいの文明になるまでは平和に暮らせるだろうよ。


「まあ、それはニャーダ族の判断だ。好きにしたらいい。モニス! 暗くなる前に野営の準備を終わらすとしよう!」


 なにはともあれ寝床の用意だ。

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