第607話 ロースト村

「ん? モニスか?」


 道を走っていると、モニスが道を歩いていた。


 ……巨人が道を歩いているのも違和感なくなってきたな……。


 クラクションを鳴らすと、気づいたモニスが振り返った。


「タカトか。ちょうどよかった」


 オレの声が聞こえるようにしゃがむモニス。この威圧感も慣れたな。


「どうかしたのか?」


「報酬を使い切ったんでな。ゴブリン狩りに付き合ってもらいたかったのだ」


「それならモニスもくるか? マルビジャン退治が目的だが、そこにもゴブリンはいるだろうからな。ついでに駆除できると思うぞ」


 ニャーダ族の集落にもゴブリンがたくさんいたと言っていたからな。なら、集めるのも容易だわ。


「ただ、数日かかるから村に声をかけたほうがいいぞ」


 何日かかるかわからないが、一応、五日は予定している。それ以上かかるときはマーダたちに任せることも考えなくちゃな。


「わかった。伝えてくる」


 もう一つの巨人の村がどんなものか気になったのでついていくことにした。


 そこから山に三キロほど入った場所に巨人の村、ロースト村があった。


 ラザニア村とは違い、川堀で囲まれており、魚が泳いでいた。


「綺麗な水だな」


「ロースト村は魚が有名で、塩焼きはとても美味いぞ」


「それはビールと一緒に食べてみたいですね」


「ビール?」


 これですと、ホームの冷蔵庫からビールを取り寄せて渡した。この人ならビール一缶くらい水を飲むのと変わらんだろうよ。


「いいな、これ。確かに塩焼きと合いそうだ」


 なんとも美味そうに飲む。オレも飲みたくなっちゃったよ。


「今日はここに泊まって明日の朝に出発しましょうか」


 もう十六時になる。どうせ途中で野宿となるんだからロースト村に泊まり、朝に出発したほうがいいだろうよ。


「おう。それなら魚をもらってくるよ。人間の村に知り合いがいるんでな」


 そう言うとパイオニア五号から降りて走っていった。


「メビ。キャンプの準備をするぞ」


「了ー解」


 少し離れた場所に竃の跡があったので、そこをキャンプ地とした。


 村の近くだし、竃の跡からしてそう危険な場所でもないだろうからテントは張らず、タープを設置するだけにした。


「メビ、ニャーダ族って魚は食えるのか?」


 肉ばっかり食べているイメージだが。


「食べられるよ。ただ、塩が手に入らないから滅多に食べることはないね。肉に使うことに優先させるから」


「塩なんてどこから調達するんだ?」


 外界と交流はしてなかったよな?


「あたしはよくわかんないけど、山から取ってくるみたいだよ」


 岩塩か。この辺、昔は海だったのか?


「魚だけじゃ物足りんし、肉も買ってくるか」


 ついでにピーマンとナスも買ってこよう。どちらも焼くと美味いんだよ。


 ホームに入ると、ラダリオンがいたのでキャンプに誘ってみた。焼くことに関してはミサロ以上なんだよな。


「任せて!」


 冷蔵庫を漁り、食材を選別し始めた。


「ラダリオン。あまり持っていかないでよ。今日は外でバーベキューするんだから」


 と、ミサロに注意されてしまった。バーベキュー?


「奥様たちと畑でバーベキューをするのよ」


 多種族が集まる中、バーベキューまでできる関係になってよかったが、オレは混ざりたくない集まりだな。なんかグロゴールと戦うより嫌だわ。


「ま、まあ、奥様たちによろしくな。酒でも持っててやれ」


 奥様連中は梅酒や果実酒が人気だ。集まりの場になるなら酒でも飲ましてやれ。


「ええ。スパークリングワインを持っていくわ。最近、人気があるのよ」


 スパークリングワインか。しゅわしゅわは好きだが、オレはあんまり好みじゃないんだよな。甘口のしゅわしゅわ。


「ミリエルも参加するのか?」


 姿が見えないが。


「ミリエルなら双子を連れてミロイド砦に向かったわ。またドワーフが流れてきたみたいよ」


「またか。オレもマルビジャンのことが終わったらいってみるか」


 ドワーフのことはコラウスの問題であり、ルスルさんがやっていてくれているだろうが、セフティーブレットの支部を置いてある。ロズたちもまだいるみたいだし、様子を見にいかないといかんだろう。


 オレはよく冷えたビールをクーラーボックスに詰め込み、外に出た。


「タカト。いい感じに火が焚けた」


「マルデガルさんはまだみたいだし、先に肉と野菜を焼くか」


 ラダリオンがいれば余ることはないだろうし、まず焼きピーマンで口を苦くしてからビールで流し込みたいぜ。


「わかった。メビ。味噌ダレを作って」


「任せて!」


「メビって料理できるのか?」


 作っているとこ見たことないけど。


「家にいるときはあたしが作っているよ。ねーちゃん、料理が雑だから任せられないし」


 へー。そうだったんだ。二人のこと、知っているようで全然知らないな、オレ。


「お待たせ~。魚、たくさんもらってきたぞ~」


 と、マルデガルさんとモニスがやってきた。


「ありがとうございます。ラダリオン。魚、捌けるか?」


「やったことないけど、大丈夫」


 食に関してはなんか開眼するラダリオン。魚が入った桶を受け取ると、数秒魚を見詰め、なにかを閃いたようにナイフを抜いて腹を裂いて内臓を抜いた。


「この魚は、じっくり遠火で焼いたほうがいい」


 串を刺して竃から二十センチほど離して地面に刺した。


「タカト。これで酒を売ってくれ」


 と、ポケットからリュックサックサイズの革袋を出して地面に置いた。


 なんか金属音がして中を開いてみたら貨幣がたくさん入っていた。


「わたしが稼いだ金だ。使い道がなくて貯まってしまった」


「金は人間が管理するんじゃなかったのか?」


 ロースト村では違うのか? いや、人間の村があるようなことマルデガルさんが言ってたな。


「わたしは、狩人だから村や町の人間に直接売っている。村を通すと手間がかかるんでな」


 まあ、なにかいろいろ問題があるんだろうよ。気にするな、だ。


「わかった。ワインでいいか? ラザニア村の巨人は他の酒も飲むが」


「任せる。売れるだけ売ってくれ。巨人は滅多に酒が飲めないんでな」


 ラザニア村もそうだったっけ。


「わかった」


 巨人になれる指輪を使って酒を大きくしていった。

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