第606話 油断大敵油断禁物

「ハァー。ダストシュート移動ばかりしていると自分がどこにいるかわからなくなるな」


 リハルの町にいるのに自分がどこにいるかわからなくなるとか、なんかの感覚がバクってんじゃないかと心配になってくるぜ……。


「お、駆除員さんじゃないか」


 村の前で佇んでいたらマルデガルさんが現れた。


「どうも。お仕事ですか?」


「ああ。金獅子の魔石が売れないんでな、すぐに金になりそうな魔物を狩ろうと思ってな」


 あーなんか金貨百枚になる魔石だっけか? 換金できなきゃただの石。大物を倒しても生活できないとか大変だな。


「よかったら金獅子の魔石、オレが買いましょうか? 今、金貨なら千枚はありますから」


 てか、いきなりコラウスから千枚の金貨がなくなって大丈夫なものなの? それとも千枚くらいなくなっても余裕な経済規模なのか?


「お、それは助かる。金貨百枚で買ってくれ」


「いいんですか? 百五十枚は出しますよ」


 確か最低でも百枚とか言っていた記憶があるぞ。


「美味い酒を飲ませてもらった礼さ。あの酒には金貨五十枚の価値はあった」


 まあ、マルデガルさんがいいと言うなら百枚で買わせてもらった。


「百枚ってかなりの数だったんだな。邪魔でしかないよ」


 入れ物がないのか、両手に金貨百枚を乗せて戸惑うマルデガルさん。仕方がないので予備のプレートキャリアとポーチを取り寄せ、金貨をポーチに入れてあげた。


「すまんな。これ、鎧か?」


「似たようなものですね。ここに小物入れを取りつけられるので便利ですよ」


 もう一つポーチを取り寄せ、プレートキャリアにつけてやった。


「これは便利だな。おれ、金属の鎧って苦手なんだよ」


 この人に鎧なんて必要か? くたびれた革服で魔境にいっちゃう人だぞ。チート級の肉体を持っているはずだ。


 ……昔の駆除員はチートをもらい、それが子孫にも受け継がれるものだったんだな……。


 チートをもらっても数年で死ぬとか、ダメ女神が力では解決しないと学んだのも理解できる。が、納得できないものはあるがな!


「オレの体格に合わせたものなので、ゴブリンを駆除した報酬で体格にあったものを買い直してください」


「あいよ。まあ、これでも充分だし、しばらくこれを着ているよ」


 結構ずぼらな性格っぽいな。


「この先、食事をするくらい歩いたところにゴブリンが二十匹くらい固まっています。よかったら稼いでください」


「お、それは助かる。んじゃ──」


 ふと消えるようにマルデガルさんの気配が凄まじい勢いで遠ざかっていった。


 ニャーダ族以上の肉体を持ってそうだ。


 一キロの距離を五分で到着。五秒もかからず二十匹のゴブリンを殺してしまった。いや、強すぎ! チート受け継がれすぎ! それで数年しか生きられないとか意味不明すぎ!


 いや、マルデガルさんは四十年(四十三歳なんだってさ)以上、生きている。駆除員にだけなにかしらの原因があるってことだ。なんだよ、それ!


 いや、原因なんてダメ女神しかない。あれこれ問題を押しつけてきたに違いないわ。チートがあろうと人間は人間。休みなく働かされたら心も病むってもの。そんな病んだ状態でチートなんて使いこなせるわけがない。ちょっとの油断で命を落としても不思議ではないわ。


「安全第一、命大事にの他に油断大敵、油断禁物もつけ足しておこうっと」


 チートがあれば確かに楽だろうが、それに頼り切るのは危険だとチートタイムで学んだ。あったとしても手段の一つだと戒めておくのがいい。ゴブリン駆除は数だ。自分一人でどうこうするなんて考えてはダメだ。


 生存圏を確保しつつ周りを巻き込み、請負員の数を増やす。たが、増やしすぎてもダメだ。需要と供給を見ながら増やしていき、廃業したときの保険も用意する。


「オレが英雄になる必要はない。最大の目標は老衰で死ぬこと。誰かの陰に隠れても構わない。誰かの手先となることも厭わない。利用されても構わない。生き残ることがすべてだ」


 チートがないならないなりの戦い方がある。弱いからこそ築ける生存戦略がある。老衰でそれを証明してやるわ!


 自分で自分の両頬を叩いて気合いを入れ直した。


「五年の壁を突き破って老衰で死んでやるからな、見とけ、ダメ女神が!」


 決意を新たにカインゼルさんのところに向かった。


 たった二日で開拓団の村になったところにくると、女たちの笑い声が聞こえ、なんだと見たら村の女たちとおしゃべりしていた。


 ……余所者が、とかないんだろうか……?


 気にはなるが、あの中に入る勇気はなし。見つかる前にカインゼルさんたちの気配を辿って山に入った。


 数は力なりを証明するかのように、溝の左右が均されており、百メートルくらい進められていた。


「カインゼルさん!」


 開拓団の男にPC01を教えているカインゼルさんに声をかけた。


「あう。ちょうどよかった。PC30を出してくれるか?」


「はい。用意はしておきましたよ」


 荷物もなくなったので油圧ショベルを入れておいたのだ。


 しばらく動かしてなかったから動くかな? と思ったが、職員の中に動かせる者がいて定期的に動かしてくれ、洗っててもくれたそうだ。


 難なく外に出し、カインゼルさんに席を譲った。


「やはり動かしていなかったから鈍っているな」


 まったくそんな風には見えないが、本人がそう言うんだからそうなんだろうよ。


「オレ、ニャーダ族の集落だった場所にいきますんで、よろしくお願いしますね」


 もうそろそろ着いている頃だろうよ。


「わかった。メビ、タカトについていけ。こちらは大丈夫だから」


「わかった」


 警備担当なのか、木の上にいたメビが飛び降りてきた。


「よろしく頼むな。途中までパイオニア五号でいくとしよう。四号はホームに入れるな」


 パイオニアが停めてある場所に向かい、四号を入れて五号に乗り込んだらマルデガルさんが現れた。


「どこかいくのか?」


 珍しそうにパイオニア五号を眺めながら尋ねてきた。


「マルビジャンの巣を叩きにいきます。マルデガルさんもいきますか?」


「そっちにもゴブリンはいそうか?」


「たぶん、いると思いますよ」


 いないってことはないはずだ。


「じゃあ、いくよ。酒代はいくらあっても困らないからな」


 ってことで、マルデガルさんもニャーダ族の集落へいくことに。パイオニア五号に乗り込んだら出発した。

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