第603話 ドライな関係

「──タカト!」


 バン! と店のドアが開いてメビが現れた。あ、村にいくの忘れてた。


「もー! 全然こないから心配したんだからね!」


「あはは。悪い悪い。ちょっと偶然な出会いがあってな。今からいくよ」


 まだ聞きたいことはあるが、優先順位は兵員にゴブリン駆除をさせることだ。


「マルデガルさん。好きなだけ飲んでいってください。ここは、オレが持つんで。ルーシさん。お願いします。代金はあとで支払いますんで」


「あいよ」


「すみません。また今度話を聞かせてください」


 いつになるかわからんが、マルデガルさんとはまた会いそうな気がする。この人も厄介事に巻き込まれるタイプと見た。


「ああ。そんときはゆっくり話すとしよう」


 ではと、店を出てミランル村に向かった。


 兵員たちとマーダたちが村の前に集まっており、それぞれ時間を潰している感じだった。


「すまない。待たせた」


「なにかあったのか?」


「それはまたあとで話す。オレもまだ整理がついてないんでな」


 マルデガルさんのことを説明するのは難しすぎるし、オレもまだどう受け止めていいかわからない。少し落ち着いてからマルデガルさんに会いにいくとしよう。


「えーと、ルコ、だっけか?」


「ああ。カインゼル団長より副団長を命じられた」


「そうか。山歩きとかしたことは?」


「ない。ずっと街暮らしだ」


 体力はありそうだが、いきなり山を歩かせるのは危険だな。


「マーダ。悪いがゴブリンを生け捕りにしてきてくれ。あちらの方向、百メートルのところに二匹いる」


「ゼッツ、バイガ、いけ」


 ニャーダ族の二人が駆け出し、五分もしないでゴブリンを生け捕りして戻ってきた。スゲーな。


「とりあえず、逃げないように片脚を折っておけ」


 気絶しているゴブリンの片脚を容赦なく折った。


「あちらに五匹。百三十メートルだ」


 ニャーダ族の者たちを向かわせ、合計三十匹のゴブリンを集めた。


「ルコ。ゴブリンを殺したことはないだろう? 一人ずつ殺していけ。どのくらいで死ぬか学べ」


 買っておいたマチェットを取り寄せ、兵員に配った。


 人を相手にしたことは何度もあるだろうが、相手が魔物となると多少は抵抗があるようで、マチェットを振るう勢いが弱い。ただの嬲り殺しになっていた。


 まあ、罪悪感など欠片もないしグロ耐性もあるので、ゴブリンどもが泣き叫ぼうとなんとも思わないがな。


 ……どっちが悪かわからんな……。


「よし。一人一匹は殺したな。ルコ。残りはお前が殺せ」


 副団長だしな。その分の報酬は与えておこう。


 殺したゴブリンは穴を掘って埋めると、陽も傾いてきた。


「よし。今日はこれで終わりだ。稼いだ金は好きに使っていいぞ。お前たちが稼いだ金なんだからな」


 三割も上前しているんだからさらに上前をはねるつもりはない。それは、他の請負員も同じだ。自分らで稼いだ報酬は好きに使えってスタンスだ。


「ルコ。明日の朝、ここに集合だ。二日酔いで遅れるなよ」


 遅れたオレが言うなって突っ込みがなくてよかった。


 兵員が帰ったらマーダたちに振り向く。


「ご苦労さん。今日の報酬だ」


 魔石を換金した金、銀貨一枚をマーダに渡した。


「大したことしてないぞ」


「お前たちはセフティーブレットの一員であり、ギルドマスターとして働かせたら報酬を払う。当然のことだ」


 オレは奴隷やなんでも言うこを聞く配下が欲しいわけじゃない。ウィンウィンな間柄であり、金で繋がった関係だ。でなければいざってとき捨てられなくなるからな。働かせたら報酬を払う関係でいたいのだ。


 ……そのための金も稼がなくちゃならんけどな……。


「明日も同じことをするが、やるか?」


「やる。だが、温くはないか? 勝手にやれでよいのではないか?」


「兵員に殺させたのはついでだ。本当にやりたかったのはお前たちがゴブリンを生け捕りできるか知りたかったんだよ」


 オレのセリフに首を傾げるマーダたち。まっ、わかるわけはないわな。


「領主代理に渡すためにゴブリンを生け捕りしたかったんだよ」


 賄賂でもみかじめ料でもなんでもいい。領主代理にオレについていることが利益だと教える必要がある。


 あの人はドライだ。感情で動いたりはしない。利益を出せば認めるし、不利益を与えたら容赦なく切る人だ。


 オレが利益をもたらす者として知らしめるためにゴブリンを差し出す。領主代理も元の世界の物を使って自分を有利な立場に持っていけるからな。


「これは、領主代理にニャーダ族の有用性、ニャーダ族の価値を知らしめるものでもある。ゴブリンをこうも簡単に生け捕りにできるヤツは他にいないからな」


 やれるとしたらミリエルだが、ミリエルにはオレの補佐として動いてもらいたい。他にやれるヤツがいるなら任せるさ。


 ニャーダ族同士で視線で語り合い、マーダが強く頷いた。


「わかった。明日もやらせてくれ」


「ああ、頼むよ。じゃあ、解散だ」


 ニャーダ族なら十キロの道のりも苦ではない。走って帰っていった。


「メビも帰っていいんだぞ?」


 何気なく横にいるメビ。生け捕りのときも動かなかった。


「タカトがホームに入るまでいるよ。目を放すとタカトはどっかいっちゃうしね」


 オレの信用まるでなし! ってまあ、当然だけど!


「それは悪かった。じゃあ、もうちょっとオレの護衛を頼むよ」


 メビの頭をわしゃわしゃしてやった。


「ふふ。任せなさい!」


 頼もしい限りだと、カインゼルさんのところに向かった。

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