第602話 ダメ女神仕様

 萬田貞一まんださだいちと名乗った中年男性は、日本人の要素はまるでなし。髪は灰色だし、瞳の色は茶色。微かに東洋人に見えなくもないが、ほぼ西洋の顔立ちだ。


「……駆除員の子孫。マンダイチの光と関係ありますか……?」


萬田光一まんだこういち。じい様のじい様だ。今からだと百年前くらいか? 家に帰ればわかるかもしれんが、おれにはよくわからん。駆除員の家系だってのは教えられて育ったがな」


 いるとはわかっていたが、まさか子孫が残っていてバケモノになっているとか思いもしなかった。てか、オレより前の駆除員って、なんか特別な力をダメ女神からもらってないか?


 マサキさんも火を操る能力が高そうだったし、子孫をたくさん残していた。それって生命力も高かったんじゃないか? オレ、大したものもらってないんですけど!


「……貞一さんとお呼びしても?」


「いや、マルデガルと呼んでくれ。萬田貞一は一族間の名前みたいなものだからな。名乗っていいのは一族と新たな駆除員にだけだ」


「タチバナマサキと言う名に聞き覚えはありますか?」


「萬田光一の前の駆除員だな。ウワサだけなら一族に伝わっているよ」


 ってことは、駆除員は被らないよう連れてこられている感じか。マサキさんは約二百年前。萬田光一さんは百年前。その地域に百年に一回送り込む、って感じだろうか?


 ……この地域は日本人担当なの……?


「少し、話を聞かせてもらえますかか? お礼に酒を奢るんで」


「おー。日本の酒か。じい様からはこの世のものとは思えない味だと聞いている。おれの知っていることならなんでも教えるよ」


 ってことで、ルーシさんの酒場に向かった。


 まだ十五時過ぎだからやってないかと思ったが、店で仕込みをしていたルーシさんに声をかけたら快く迎えてくれた。


「すみません。無理言って」


「構わないよ。カインには助けてもらったからね。カインを助けたあんたなら大歓迎さ。ただ、まだ出せるものがないんだよね」


「こちらで用意するからコップをお願いします」


 まずはワインを出し──たら、サッとマルデガルさんに奪い取られ、スクリューキャップのところを手刀で切断。らっぱ飲みした。


 ……唇、大丈夫なんですか……?


「カァー! 伝承は本当だったんだな! 想像以上だ!」


 ほんと、この世界の酒、どんだけ美味しくないんだろうな? いやまあ、この世界の酒、一回しか飲んでないけどさ。


「それはなによりです。いろいろあるので試してください」


 日本酒、焼酎、ウイスキー、ジン、ブランデーを取り寄せていった。


「こんなに酒があるのか! 駆除員が住んでいた世界って凄いところなんだな!」


「そうですね。オレらが住んでいた国は特に恵まれたところでした」


 異世界にきてわかる日本のよさ。二度と帰らないのが切なすぎるよ……。


「マルデガルさんは、金印なんですか?」


「ああ。面倒なことにな。おれとしてはのんびり冒険者をやっていけたらいいんだが、力があると厄介事がちょくちょくやってくる。呪われてるんじゃないかと思うよ」


「それ、よくわかります」


 痛いほどわかる。オレの場合、次々とって感じだけど!


「萬田光一、ご先祖様もそうだったらしいよ。ゴブリン以外の問題が次々と襲ってきて、三年しか生きられなかったって話だ」


 そんな話、聞きたくなかったが、失敗から学ぶためには聞くしかない。踏ん張れ、オレ!


「コラウスで死んだんですか?」


「ああ。なんか魔物を狂わせる疫病が流行って、それを止めるのに奮闘して最後には狂った魔物に殺されたそうだ」


「かなり強い人だったんですよね?」


 その力が子孫に受け継がれるほどの力だ。なんらかしらのチートをダメ女神からもらっていたはずだ。


「ああ。身体能力はずば抜けて高く、風の魔法もとんでもなかったそうだ。数千ものゴブリンを一瞬で切り刻んだと伝わっているよ」


 なに、そのチート! ズルいんですけど! オレ、限定的欠陥チートしかもらってないんだけど!


「お、これ美味いな。おれの好みど真ん中だ」


 日本酒、吟醸酒の瓶を掲げてみせた。


「酒に強いんですね」


 七百五十ミリの瓶をあっと言う間に空にしてしまった。


「おれもびっくりだ。こんなに酒精が強いのにクソ不味い酒を飲むより酔わないよ。どういう理屈だ?」


「恐らく、身体能力のせいでしょう。ここの酒は酒精より悪いものが入ってそうですからね」


 毒を消そうとして体が過剰反応を起こしていたんじゃなかろうか? 某ウイスキーモドキを飲んだときは酷い二日酔いを起こしたからな。


「酒が純粋な故に消化がしやすいんでしょう」


 適当だけど。


「まあ、それならそれで構わんさ。飽きずに飲んでいられるんだからな」


 酔えないのもキツいものだけどな。


「こんな美味い酒が飲めるならおれも駆除員になりたいものだ」


「駆除員にはなれませんが、請負員にはなれますよ。一匹駆除したらこの吟醸酒が二本は買えます」


「へー。それはいいな。こんな酒が飲めるなら冒険者をやるより断然いい。請負員とやらにならしてくれ」


 ってことで、請負員カードを発行した。


「それに名前を告げてください。それで請負員になれますから」


「どっちの名前にしたらいいんだ?」


「どちらでも構いませんよ。それを見れるのは本人と駆除員だけですから」


「ふーん。じゃあ、萬田貞一で告げておくか。萬田貞一。お、名前が出た。これ、日本語ってヤツかい?」


 衝撃的真実。請負員カードには日本語、カタカナで表示されるのです! が

、マルデガルさんは、日本語で萬田貞一と表示されました。


 ほんと、ダメ女神仕様はよくわからんわ。

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