第601話 くたびれた中年男性
朝、全員が揃ったらリハルの町に向けて出発する。
パイオニア四号と五号は置いてきたので、歩いて向かい、標識を作っていった。
昼前にリハルの町に到着。マーダたちはメビに案内させて先に村にいかせ、オレは南通りに向かった。
四十人以上の人が増えたとなれば消費もそれだけ増える。露店を回ってミランル村に開拓団がきたことを伝え、町の人が困らない量を買ってホームに運んでいった。
さすがに資金が尽きたので、魔石を支部に売りにいくことにした。
もう昼を過ぎ、十三時半になろうとしているので支部は閑散としている。
「あんたか。なんかミランル村でやっているそうだな」
カウンターにいくと、受付の男性に呆れられた。
「街から開拓団を連れてきたんですよ。今年は雨が少なくミジャーが流れてくる恐れがあるのでその対策です」
「ミ、ミジャーだと!? 本当なのか?!」
「さあ、わかりません。わからないから今から備えるんですよ」
ダメ女神も断言はしていなかった。状況次第では流れてくるが、そうならなければ流れてこないってことだ。
……まあ、この流れからして十中八九、ミジャーはコラウスに流れてくるだろうよ……。
「はっきり言えないのか?」
「言えたらなにか変わるんですか?」
まず対策なんてしないだろうし、できないだろう。ゴブリンがいい例だ。
「…………」
「そのうち本部から通達があると思いますから、その指示に従うことです」
領主代理としても取れる手は少ないだろうがな。
「まあ、我慢できないと言うならミロイド砦までの道を築き、そこに食糧を保管することです。ミジャーがどんなものかわかりませんが、これだけの緑があるならミジャーを食べるのもいるでしょう。ミロイド砦まではいかないんじゃないですかね?」
それに、ここは緑が深い。雨が降らなくても水は大量に含んでいるはず。ミジャーが乾燥地で生きる虫なら雨が降れば自然に淘汰されるだろうよ。ここの緑を食えるとも限らないしな。いやまあ、素人の考えだけど。
「死にたくなければ自分の命は自分で守る。ここではそれが当たり前でしょう?」
助け合いをしろとは言わない。自分と自分の家族を守るので精一杯だろうからな。なら、助けてもらえなくても文句は言うな。自分の力でなんとかしろ、だ。
「あ、これを換金してください」
ロースランの魔石を一つ、カウンターに置いた。
「わ、わかった」
ロースランの魔石は銀貨三枚と大銅貨二枚になった。当座の資金としては充分だろう。
「ミズホさんはいないんですか?」
この支部は広いが、ミズホさんはカウンターのところから見える位置にいたはずだ。
「緊急の呼び出しで街にいっているよ。ミジャーのことか?」
「んー。どうでしょう? 今のコラウスはいくつもの問題を抱えていますからね」
決してオレが原因ではないことをここに宣言する。
「まあ、個人でも備えておくことをお勧めしますよ。では、また」
金をプレートキャリアのポーチに仕舞い、支部を出ようとしたとき、外からくたびれた感じの中年男性が入ってきた。
──バケモノだ。
一瞬で悟り、自分でも驚くくらいの速さで中年男性から逃れた。
「おや、失礼」
中年男性はオレの行動に怪訝な顔を見せることもなく奥に進んでいった。
「マルデガル。久しぶりだな。魔境はどうだった?」
中年男性はマルデガルと言うようだ。って、魔境?
「バケモノばかりで嫌になったよ。ほい、これ」
と、どこから出したのか、ゴルフボールくらいの金色の石を出してカウンターに置いた。
「……金獅子王を倒したのか……」
「ああ。しぶといったらありゃしなかった。仕留めるまで半年はかかったよ。まったく、酒が飲みたくて仕方がないぜ」
「さすがに金獅子王の魔石となると本部にいかないと換金できん。最低でも金貨百枚にはなるだろうからな」
はぁ? 金貨百枚? どんだけのものを狩ったんだよ、この男は!?
「それは困ったな。早く酒が飲みたいんだが。ちょっとでいいから前渡しできないか?」
「金、ないのか?」
「魔境にいくのに全財産使ってスッカラカンさ。じゃあ、金を貸してくれよ。換金したら返すからさ」
「支部長からあんたには金を貸すなって言われているからな」
「なんだ、あのばーさん、いないのかい?」
「緊急の呼び出しさ。いろいろあるらしい」
と、オレに目を向ける職員の男性。いや、こっち見ないでくださいよ。
「ん? ああ、またバケモノがきたのかい。そのうち勇者とかきそうだな」
見た目は完全にくたびれた中年男性だ。なのに、醸し出す気配がアルズライズが可愛く見えるほどだ。もしかして、もう一人の金印冒険者か?
「勇者みたいな男だよ。アルズライズやミシニーが下につくくらいのな」
「へー。あのアルズライズやミシニーがかい。そりゃ凄い。おれはマルデガル。しがない冒険者だよ」
しがないってどんな意味だろう? って首を傾げたくなるな。
「オレは、一ノ瀬孝人。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターだ」
「じゃあ、日本人かい。まさか本当に出会えるとは。じい様のホラじゃなかったんだな」
はぁ? 日本人? ど、どういうことだ?
「なら、正式に名乗っておくよ。おれは、
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