第591話 サツーマ

 宿のベッドで眠り、起きたらお昼過ぎだった。


「……五時間くらい眠ったか……」


 熟睡したようで気分は悪くはない。自分で思うより疲れていたんだな……。


「イチゴ。なにかあったか?」


 一応、安全のためにイチゴに見張っててもらいました。


「なにもありません」


 カインゼルさんが訪ねてくると思ったが、なにか忙しいみたいだな。


 起きたのでイチゴを連れてホームに入る。


 皆出払っているようで中央ルームに誰もおらず、オレがいつ入ってきてもいいように料理が並べてあった。


 まずはシャワーを浴びてさっぱりし、冷蔵庫から缶ビールを出して一気飲み。これぞ命の水である。


 ビールで目覚めた空腹を満たすために料理をいただき、シメにアイスにブランデーをたっぷりかけていただいた。はい、ご馳走様でした。


「外でなにやってんだ?」


 一時間過ぎても誰一人入ってこなかった。


 まあ、館にいるなら非常事態になっていることもあるまいと、イチゴは残し、軽装備で宿の部屋に出た。


 一応、宿は借りたままにして南通りに向かった。ダメ女神が言っていた野菜を探しにな。


 前より開いている露店が少ないようだが、近くで作っただろう野菜は売っており、少なからず買い物をしている者は多かった。


 一人暮らしが長く、自炊なんてしてこなかったから野菜のことなんて知らないに等しい。いや、キャベツとレタスの違いくらい知っているし、芋とニンジンは見たらわかる。


 葉物になると自信はないが、スーパーで並んでいるような野菜ではないものが多い。黄色い葉っぱなんて食えるのか? 芋の種類もバカみたいに多いな。


「ん?」


 紫色い芋のところで意識が止まれをかけた。


「……これって、サツマイモか……?」


 サイズは小さいが、どこからどう見てもサツマイモだった。


 ……これか、ダメ女神が言っていた野菜は……?


「おばちゃん。これ、なんて芋だい?」


 露店にいるおばちゃんに尋ねた。


「これはサツーマだよ」


 うん。完全にサツマイモだ。なら、駆除員が広めたってことか? じゃあ、昔の駆除員には十五日縛りがなかったってことか? 他にもあるってことか?


「リハルの町の特産なのかい?」


「別に特産ってわけじゃないが、他で作っているとは聞いたことないね。これは去年のあまりだよ」


 土に合わなかったのかな?


「銅貨一枚だと、どのくらい買えるんだい?」


「そうだね。このくらいのが五個かね?」


 量り売りじゃなく適当売りのようだ。


「じゃあ、これに入るくらいもらえるかい?」


 作業鞄を取り寄せ、そこに入るだけ入れてもらい、銅貨十枚にしてくれた。


「薪とか売ってるところあるかな?」


「それなら西通りに売っているよ」


 ってことでいってみると、小屋に薪がたくさん詰められており、枝を束ねたものが売っていたので一束買った。


「さて。どこでやるかな?」


 そう言えば、北の城壁前に広場があって焚き火跡があったはず。思い出していってみたら若い冒険者たちがキャンプしていた。


「どこからかきた冒険者かな?」


 まだ十代で、小慣れた感がない。道具もそれほど持ってもいない。宿に泊まる金もないのなら他から流れてきたんだろうよ。


 まあ、あちらはあちらと竈に枝を束のまま置き、ライターで火をつけた。


 いい感じに火が回ったらガレージに置いてある薪を取り寄せてくべた。


「アルミホイル、あったっけかな?」


 ありますように念じたら取り寄せられた。ミサロ、グッジョブ!


 サツーマをアルミホイルで包んで火に放り込んだ。


 確か、キャンプ動画でこんなことやっていたはず。失敗なら失敗で構わないさ。試したしな。


 どのくらい火にくべてたらいいのかわからんが、まあ、適当にひっくり返しながら一時間ほどくべてみた。


 枝で火から出し、ナイフで刺してみる。柔らかいから大丈夫だろう。


 グローブをしてアルミホイルを剥がし、二つに折ってみる。


「サツマイモの匂いはするな」


 ちょっと火に掛けすぎたっぽいが、食べてみたらそう悪くはなかった。これなら充分食卓、いや、おやつになるな。


 一つをぺろりと食べ、もう一つに手を伸ばした。


 お茶を取り寄せて飲んでいると、先ほどの若い冒険者たちが遠巻きにこちらを見ているのに気がついた。


「よかったら食うか?」


 サツーマを取りあげて若い冒険者たちに掲げてみせた。


「い、いいのか?」 


「コラウスでは新人冒険者を面倒見る風習があるそうだ。オレも他から流れてきた口だが、先輩冒険者には助けられたからな、そのお返しさ。遠慮するな」


 袖振り合うも……なんだっけ? なんかの縁だったはず。まあ、若いもんが腹を空かしているってのも不憫だ。サツーマでいいならどんどん食え、だ。


「た、助かるよ!」


「そう言うときはありがとうございますって言うんだ。よほどのひねくれ者じゃない限り礼を言われたら嬉しいものだ。また次も助けてやろうと思うかもしれんからな」


 アラサーからのお節介だ。


「あ、ありがとうございます」


「うん。それでいい。年上の言葉を素直に受け入れるヤツは伸びるもんだ。お前らは見所あるよ」


 オレは褒めて伸ばすタイプ。貶したところで喜ぶヤツは少ないからな。

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