第592話 大事は小事より起こる、かも?
「美味かったか?」
買ったサツーマをすべて平らげてしまった。若い胃が羨ましいよ。
「お前たちは、どこからきたんだ?」
コーヒーを淹れてやり、食後の一服に故郷のことを尋ねた。
五人の少年たちは王都の近くのマルティーア伯爵領の出身で、半年かけてコラウスにやってきたそうだ。
冒険者歴は二年で、マルティーア伯爵領では一年で鉄印になった期待のニューウェーブだったとか。
一旗揚げようとコラウスにきて、より稼ごうとリハルの町にきたものの、魔物が強すぎて稼ぐことはできず、採取系の依頼をこなしてここで野宿していたそうだ。
それは別に珍しいことではなく、この少年たちのような若い冒険者は他にもいて、今日も採取系の依頼をこなしてがんばっているそうだ。
「じゃあ、この芋を買ってきてくれるか? 一人銅貨五枚払うぞ」
報酬としては安いかもしれないが、サツーマを腹一杯食わせてやり、サツーマを買ってくるだけで一人銅貨五枚は悪くないはずだ。
「やるよ!」
「そういうときはやりますだ。口の利き方を覚えたほうが大人の信頼を得やすいからな。返事ははい、だ」
「はい! やります!」
「それでいい。雇い主を気持ちよくすれば報酬が増えるかもしれないからな。これで買えるだけ買ってきてくれ」
大銅貨三枚と土嚢袋をリーダーの少年に渡した。
「いってきます!」
そう言うと、少年たちが城門のほうに駆けていった。
のんびりコーヒーを飲みながら待っていると、ラダリオンの気配が近づいてくるのを感じた。もう一人はアルズライズか? 仲いい二人だ。
お菓子で繋がる無口同士。それで意志疎通できてるんだから不思議だよな。
二人はまっすぐこちらに向かっている。
請負員は駆除員の気配がわかるが、これは個人差があってアルズライズくらいになると数キロ先からでも方向はわかり、向いてない者は百メートルでなんとかわかるものだった。
四十分くらいして少年たちが戻ってきたので、一人銅貨六枚を払った。
「芋はまだ売っていたか?」
「いえ、それですべてです」
おばちゃんが去年の残りだって言ってたし、そんなになかったんだろう。
まあ、土嚢袋五個。一つ二十キロとして百キロはある。これだけあれば充分だろうよ。
「──タカト!」
さらに薪を買ってきてもらい、竈にくべて火がいい感じに回った頃、ラダリオンとアルズライズがやってきた。
「ご苦労様。どうしたんだ?」
「タカトが心配だから見にきた」
「それはありがとな。今のところ大事にはなってないよ」
小事はたくさんあったけど!
「お前が言うと笑えんな」
「笑い話にならないのが悲しいよ」
今のところ生きて乗り越えられているんだから軽口叩けているけどな。
「タカト、なにしてるの?」
「サツーマ、ラダリオンならサツマイモと言ったほうがわかるか」
「天丼に乗ってたヤツでしょう」
あれ? それ以外にサツマイモって食ったことなかったっけ? オレはラダリオンのようにグルメ帳だか日記帳だとかつけてないからわからんわ。
「ああ。あれを焚き火で焼いているのさ。焼き芋ってヤツだな。まあまあいけたな」
「サツーマか。そんなに美味いものだったか? 悪くはなかった記憶があるが」
そういや、アルズライズはリハルの町を拠点として動いていたんだっけな。知ってても不思議じゃないか。
「どんな食べ方してたんだ?」
「主に煮ていたな」
「煮ても美味いと思うんだが、まあ、焼いたサツーマを食ってみるといいさ」
三十分くらいでもいい感じに焼けていた。そのくらいなら待てるだろう。
今度はサツーマを洗ってからアルミホイルに巻いて火に放り込んだ。
「一袋、ミサロに持ってってもいい?」
「全部持ってってくれ。館で植えてみるからよ」
この世界で馴染んだのなら館でも植えたら増やせるはずだ。アシッカにも植えてみて様子を見るとしよう。増やすことができたら飢饉対策にもなるしな。
「わかった」
ひょいひょいとホームに運び込むラダリオン。食に関しては機敏になるヤツだよ。
運んだら戻ってこなくなったので、放り込んだサツーマを転がしながら焼けるのを待った。
「いい匂いだ」
アルズライズもラダリオン並みに嗅覚がよかったりする。まあ、匂いには敏感だけど、臭いにはそうでもないみたいだけどな。
「もういいんじゃないか?」
見極めもラダリオン並みなので火から出し、アルミホイルを剥いて渡してやった。
素手で受け取り、熱さなど構わずサツーマを噛るアルズライズ。豪快な男だよ。
「これは美味い!」
肥料とかくれてないだろうに、美味しく育つんだからサツマイモって凄いよな。異世界の土に合ったんだろうか?
他のも火から出してたらラダリオンが出てきた。
「タカト、あたしにもちょうだい」
わかっているよと、アルミホイルを剥いて渡してやる。
「悪くない」
ラダリオンもラダリオンで熱さをものともしないで食べていく。
「タカト。おれにもくれ」
ハイハイ。好きなだけ食ったくださいよ。
アルミホイルを黙々と剥いてやり、黙々と食べていくお二人さん。まあ、いつものこと。飽きるまで食うといいさ。
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